夏至の新月の夜

 

正山千夏

 
 

右の卵巣が死んだ
お赤飯を炊いたのは12歳の初夏だったか
それともあれは春の終わり
長いお付き合いだけれど
知ったのは意外に最近
交互に排卵してるって

西の魔女が死んだ?
いつもきまって痛む卵巣があった
右だったかそれともあれは左だったのか
長いお付き合いだけれど
始まったのは意外に最近
排卵痛は断末魔の叫びだったのです

かたや左の卵巣はまだ血を流し続けてる
周期は2倍になり
PMSも2倍になる
流すための血をつくるために
ため込むさまざまなものたちも

夏至の新月の夜
わたしはまた血を流した
あと55日でわたしは50歳になる
からっぽの右の卵巣のなかで
風の吹く音だけがひゅるると鳴っていた

数字はゴーゴーゴーというけれど
いったいどこへ行くのか
泣いていたのは
わたしのなかの女の子
道がごった返して迷子になっている

いつでも先に行きたがるあたしたちや
いつでも後ろが気になるあたしたち
今この瞬間のたったひとりのわたくしが
それら亡霊たちのあいだで
蜃気楼みたいにゆらゆらとゆれながら
女の子をあやそうとあたふたしてる

夏至の新月の夜
わたしはまた血を流した
陰と陽 逆転の瞬間に
からっぽの空は真っ暗で
そして闇は湿気で満たされていた
女の子の泣く声は遠くでか細くつづいてた

 

 

 

いとおしいのは

 

ヒヨコブタ

 
 

愛憎どちらもいとおしいと
友はいう
素直な気持ちに胸がすく
わたしはそうなることはできないだろう
憎しみとかなしみが寄り添って
いとおしくいる気がしてはっとする

人類史上稀にみようと
今日もわたしは息をして
明日もまた息をしていると思いこんでいるのだ
そうやってつないできた日々は
いつまでも続くはずもないというのに
果てしなく絶望することもないのはなぜか
考える
そしてまた途方にくれる

愛がいつもみちみちていることは
どれだけ大切なことか知っている
つもりだ
溢れてしまえと思う
ひとりひとりに溢れる愛が
どうかありますようにと
しんとした夜に
はりつめる朝がくるまえに

目を瞑り祈る

 

 

 

tear・引き裂く 裂ける

 

Michio Sato

 
 

A few
I had a farewell

A few

woman
children and
friends
parents
with brothers

I had a farewell
There was also the death of others

It was a farewell
I was torn

That feeling will not disappear

now

looking at the west mountains
looking at the ocean

 

 

いくつか

別れがあった
いくつか

女や
子どもや
友人

兄弟との

別れがあった
他者の死もあった

それは別れだったが
引き裂かれた

その思いは消えない

いま

西の山を見ている
たいらな海を見ている

 

 

*タイトルは、twitterの「楽しい英単語」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

confess・告白する

 

Michio Sato

 
 

At midnight

Moco is
embraced by a woman

climbed the stairs

slept

The fan is spinning
Some white flowers of Lemon had fallen

The flower fell and was moist

eventually
dry

 

 

深夜に

モコは
女に抱かれて

階段を登ってきた

眠った

扇風機が回っている
檸檬の白い花はいくつか落ちた

花は落ちて湿っていた

やがて
乾いてゆく

 

 

*タイトルは、twitterの「楽しい英単語」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

l’esquisse ⅰ

 

工藤冬里

 
 

カボチャのカボチャ色の花がばかでかい
地面にのたっと横たわっている
背骨がないわけではない
激しい雨が降ったけれども止んだ

それはファシズムではない
泣きに来ているのだヒヨドリは
背骨がないわけではない
雨が怒髪のように立っていたのだ

 

 

 

#poetry #rock musician

aviation・飛行 航空(術)

 

Michio Sato

 
 

Recently
not flying

Already
A lot

not flying

When i was young
flied

Like a snowman in a dream
flied

I was spending time to eat

From the beginning
I should have lived

 

 

最近
飛んでいない

もう
ずいぶん

飛んでいない

若い頃
飛んだ

夢の中でスノーマンみたいに
飛んだ

食うために時間を使いはたした

はじめから
生きればよかった

 

 

*タイトルは、twitterの「楽しい英単語」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

海辺の叙景 Ⅱ

 

工藤冬里

 
 

人が死ぬというのに明るい声で
否認段階の痛みをやり過ごすように
観光地としての死を自撮りする
ガレルめいて白化したzoomの背景画像が離れた者たちのリアルとなり
宇宙をペンキ絵のショーにしたまま
聖地巡礼は換骨堕胎され
地と海と空だけなのに墓となる
感情史に於いては
クライマックスに於ける無感情が正史となる
いかなる革命もない
刺のあるまま進み
墓を撤去する

 

 

 

#poetry #rock musician

plausible・もっともらしく思われる

 

Michio Sato

 
 

evening

I took a walk with Moco

Always
In the evening

take a walk with dog Moco

Pink clouds were floating
Swallows were flying

At such times
I don’t need plausible words

With Moco
I was watching the clouds

Swallows were flying over the river

Swallows

It was chirping

 

 

夕方

モコと散歩した

いつも
夕方には

犬のモコと散歩する

桃色の雲たちが浮かんでいた
燕たちが飛んでいた

こんな時
もっともらしい言葉はいらない

モコと
わたし雲を見ていた

川面を燕たちが飛んでいた

燕たち

チキチキと鳴いていた

 

 

*タイトルは、twitterの「楽しい英単語」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

地球の歩き方

 

工藤冬里

 
 

あなたはなにをしてきたのか、どこからきたのか

自分で穿いたズボンのバンドを締め上げ地球を巡り歩きたい所を
歩き回っていました
もっと若かった頃は
地上そのものが牢獄なのだから場所の移動など何の意味もないと考えてみたりしてましたが

歩き回れなくなって愈々、
玉虫厨子とかを除けば、
見た、行った、が何の足しにもならなかったと身に染みました
ああそれでも
今よりもっと若くて元気だった頃は歩き回っていました
見た気になった仮想の平等主義を批判しながら
絵葉書にさえ納まりました
それが年​を​取る​と
自分でズボンも穿けず
はい万歳してー、
と言われて伸ばす手からすっぽり
拘束衣を​被せられ
徒刑場に​連れ​て​いかれます
それが申し込んだツアーの結末
となりました

 

 

 

#poetry #rock musician