誰の子だ

 

今井義行

 
 

はたちになる きみから 深夜 ビデオ通話がとどく
「Chi Chi ──── How are you?」
「Fine. リアン、げんきだよ」

(わたしは2020年6月 マニラで結婚式を挙げます 婚約者はドーハで働く
十四歳下の四十二歳のフィリピン人のシングルマザーです 彼女には三人の娘がいて
その中で長女だけが ドーハに働きに来ています)

私の 妻になる女性(ひと)の 名前は Argerie Javier
Javierとは 彼女を棄てた 男の姓である フィリピンには離婚という
制度がない 長い期間の法廷での聴聞会で 漸く事実上の離婚が成り立つ

アルジェリーは 2014年から 聴聞会を続けている
彼女を棄てた男が一度も法廷に現れないので
その聴聞会も 2020年の2月に終わる 聴聞会が終わる前に婚約してしまった
私たちは どうかしているか?
アルジェリーが 十年以上 ドーハで孤独に耐えたのは よくやった
のでは ないだろうか ──── と 私は おもう

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「Chi Chi」
はたちになる リアンは 艶やかな化粧を落としていて
絵本のなかの 精霊 にも似て
肌に目の洞(うろ)と口の洞(うろ)がひらいてるだけ まるで何処かしらの
原少女の 相貌で
わたしに 呼びかけるのだ
「Are you happy? にほんごで はなしましょう」
すると 目の洞(うろ)のうえに虹の穂波がゆれ 鼻のあたりは柔らかく隆起して
口の洞(うろ)の周りには明るい褐色の縁取りができた

ああ。自然の 褐色の笑顔だ───
「しあわせですか?」「しあわせだよ!!」

きみは きみのママを蹂躙して立ち去ったフィリピーノを十歳頃までは見ていた
きみは 父なるものを酷く嫌悪してきたはずなのに
「わたしという おとこ のことを怖くはないのかい・・・・?」

「こわく ありません」

わたしは 三回 マニラに行って
直接 きみと きみのボーイフレンドのアロンゾと
市場でごはんを食べたり
野原でダンスをしたりした
乗り合いバスのジープが頻繁に通りを行き来していたね

Ahaha Ahaha ────

きみは すぐに打ち解けて いま 画面で わたしに額を寄せてきてくれる

リアン・・・・ きみは ね
誰の子だ
そんな ママを繰り返し蹂躙した フィリピーノの子では無い
リアン・・・・ きみは
わたしの子だ 腐った繋がりなんて 硬い十字架で砕いてやろうぜ

次女のアンジェラと 三女のペンペンは 誰の子だ
わたしは 唯の一点の濁りもなくわたしを愛してくれた
私自身の 親のように きみたちを 愛するよ

私は 親になれるかどうか なんて 悩まない
意志が 現実を生むと 信じるからだ

「ちち わたしは まいにち 信じています」

いいかい?
きみのママ アルジェリーが愛を籠めいま逞しく育った娘の一人が
リアン きみなんだよ

「わたしは きみのパパだ」
私は きみに 幸せになってもらいたい

きみのボーイフレンドのアロンゾは 教育学部の学生の誠実な男だ
ドーハと マニラで 遠距離だけど
すこやかに 愛が 育まれると いいね

「マニラのイートインで きみが席を外していたとき
私は アロンゾに 尋ねたんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「Do you love Rian?」
「Yes. I will follow Rian and go to Doha.
(はい。私は リアンを追って ドーハに行くつもりです。) 」

「ほんとですか ちち?」
「イエス」

私は 2019年の12月から 2020年の2月まで
アルジェリーのマニラの家 Paseoに 滞在するけれど
きみは 休暇がとれなくて 一緒にすごせないね

「クリスマスのプレゼントを ドーハに おくるよ
リアン、なにが ほしい?」

「ちちー、パンダのぴろう おねがいします」
「それから いちごのアポロチョコレートも」

「EMS(国際スピード郵便)で 十二月におくるよ」

「うわー アイム・ハピー!!
ありがとうございます ちち!!」

 

 

 

お誕生日おめでとうの詩

 

村岡由梨

 
 

私たちが出会った頃のこと
どれくらい覚えていますか。

あの頃、野々歩さんはヘアワックスで髪を逆立てていて、
今みたいにメガネじゃなくてコンタクトをつけてたよね。

イメージフォーラムの16mm講座で一緒の班になって、
どういう作品を撮るかの話し合いの時
私の隣の席に、ぶっきらぼうな表情で座ってた野々歩さん。
なぜか私は胸がドキドキして、
ゆでダコみたいに顔が真っ赤になってたよ。

多摩川の河川敷での撮影が終わって、編集作業の日。
珍しく野々歩さんは洗いたての髪にメガネをかけてて、
なぜかまた私は胸がドキドキして、
ゆでダコみたいに顔が真っ赤になりました。

助手の徳本さんが、
一生懸命に編集作業に取り組む私たちを見て
「野々歩君と村岡さん、仲良いね」
ってからかったの覚えてる?
野々歩さんは
「僕らお互いのファンですから」
って、さらっと言いのけた。
その時の私の頭の中を想像出来る?
ゆでダコどころの話じゃないよ!
頭がグラグラ沸騰して、
パーンと音を立てて爆発しそうだった!

その年のクリスマスの夜は、

二人で東大の校舎に忍び込んで
初めて手を繋いで歩いたね。

お正月には、初日の出を見ようと
建設中のマンションの屋上に忍び込んで、
自分の眼の高さに鳥が飛んでいるのを見て、
「私も飛べるかな」
って柵を飛び越えようとした私を、
「落ちたら痛いから、やめなよ」
と言って止めた野々歩さん。
何でも複雑に深刻に考えがちな私にとって、
「落ちたら痛い」っていうシンプルな言葉は
ものすごく衝撃的だった。

私たちはそうやって、
互いに無いものを補いあって求め合って、
ここまで歩いてきたんだね。

やっとの思いで完成させた処女作を
イメージフォーラムの映写室で泣きながら観ていた私。
そんな私を優しく気遣ってくれた野々歩さん。
河口湖の花火大会を観に行った時、
湖畔の土産物屋の二階で
私に浴衣を着付けてくれた野々歩さん。
雪の降る夜、大きなお腹を抱えて立ち尽くす私を
家に連れて帰って温かいお風呂に入れてくれた野々歩さん。
鬱がひどくて何も出来ない私の髪を洗ってくれる野々歩さん。

「村岡さん」から「由梨さん」、
「由梨さん」から「由梨」、
「由梨」から「ゆりっぺ」。
呼び名が変わる度にすごく嬉しかったこと、
おばあさんになっても忘れないよ。

1980年10月22日に、野々歩さんは
池ノ上の、お庭にウサギさんがいる産院で生まれて、
1981年10月22日に、私は
渋谷の日赤で生まれた。
その後、野々歩さんは渋谷で育って、
私は池ノ上で育った。
もしかしたら、イメージフォーラムで出会う前から
私たち街ですれ違ってたかもね
と、二人で笑う。

必然とか偶然とか、簡単な言葉で済ませたくない。
愛しています、とか
ありきたりな言葉では表現しきれないよ。
もっと良い詩が書きたいよ。
喉のつっかえがすうっと取れるような詩を。

シワシワのガタガタのグッチャグチャな
おじいさんおばあさんになっても
一緒にいよう。
「死が二人を分かつまで」って何?
死んでも一緒のお墓だよ!

お誕生日おめでとう!
野々歩さんと私。

 

 

 

乳白の青が帯となっている *

 

平らな
海を

見たことがある

熱海の断崖の病院の
ひろい

窓から見た

それは
死だったろう

死の先に海はいた

わからない

何も
わからない

歩いていた

ひとり
いた

公園の
桜の

枝の先の

空を仰いだ

乳白の青が帯となっている *
乳白の青が帯となっている *

分断の先にいた

そのヒトはいた
モオヴよ *

土塗れのモオヴよ *
土塗れのモオヴよ *

ない言葉の先で会う
頬が赤い

涙ひとつ流して死んでいった

 

* 工藤冬里の詩「stray sheep」からの引用

 

 

 

stray sheep

 

工藤冬里

 
 

三四郎は感嘆した
そこまで心を広げることができるとは
心臓がどきどきして苦しい
八つ裂きに遭うまでの命だが
茶色いアジアが広がってゆく
土塗れのモオヴよ
司書を目指す
胡座の十代
映画は黄色い肉が引き攣っている
丘の腹に墓地がある
黒い背広は着ない
爪先のクリーム色
嵐ヶ丘で引き千切る
セの発音の群青の空
胡座の十代の声
平行線をつけ足すことで絵にする
伏せた傘の手の切れそうなエッジ
乳白の青が帯となっている
がしっと植えられた木が今
金も内臓も場所は決められている
手伝ってくれる動物がいない
私は憎まれる
グリス塗れの球がシャフトのベアリングに詰まって黒い

 

 

 

そんな自分がいた

 

佐々木 眞

 
 

秋の陽が釣瓶落としに墜ちる夕べ、うなぎのウナゴロウが、ひまつぶしに、うなぎのひまつぶしを食べている。そんな自分がいた。

 

「緊張で慌てましたが、サッカーをする幸せを感じて、腰や足の痛みもうれしかった」と振り返る自分がいた。―白血病を克服し3年半ぶりに公式戦に復帰したJ2新潟、早川史哉選手

暑くて暑くて仕方ないのだが、なんせ4年に一度のオリンピックのハイライトで世界中が注目しているマラソンなので我慢に我慢をして完走したら、ゴールの傍で熱中症で死んでいる自分がいた。―東京五輪マラソン出場選手

IOCから頭越しにマラソンは札幌でやると言われて、思わず「涼しい所でというなら北方領土でやったら」と、叫んでしまった自分がいた。―小池百合子・東京都知事

天皇の即位にちなんで26年ぶりに恩赦が決まり、「ありがたや、ありがたや」と涙ながらに喜んでいる自分がいた。―交通事件や選挙違反などの55万人

秋季例大祭が開かれている靖国神社に衆参議員98名で参拝したが、「なんで首相は参拝しないのか?」と聞かれたので「台風被害の復旧作業を優先させることが、ご英霊のお気持ちではないか!?」と、答えてしまった自分がいた。―尾辻秀久・元厚生労働相

気がつくと、50万円のスーツを5着も持っている自分がいた。―高浜原発男

那珂川が氾濫しているのを確認しながら情報を出していなかったので、「あってはならないこと」と、詫びている自分がいた。―赤羽一嘉国交相

ふと気が付いたら、腰まで水浸しになっている自分がいた。―北陸新幹線

清水の舞台から飛び降りるつもりで「逃亡犯条例改正案」を撤回したのに、どうしても学生デモが収まらない。だったら、せめてあのマスクだけはやめさせようと「覆面禁止法」を発令している自分がいた。―林鄭月娥香港行政長官

トルコ軍によるクルド勢力への攻撃を黙認したと批判されて、「トルコとシリアに戦争させればいい。米軍に守って欲しければ金を払え」と、喚いてしまった自分がいた。―米国トランプ大統領

EUからの「合意なき離脱」回避が1歩前進したので、思わずツイッターで「素晴らしい新たな合意を得た」と、つぶやいてしまった自分がいた。―英国ジョンソン首相

「おじいちゃんに呪い殺されてしまうから、ボクちゃんは、どうしても憲法改悪しないとイケナイのだ」と、固く両手を握りしめる自分がいた。―安倍蚤糞

気がつけば原発反対の持論など忘れ去り、安倍蚤糞のポチになっている自分がいた。―河野防衛相

明日から大洋ホエールズとのクライマックス・シリーズが始まるが、それより妻の出産に立ち会う方が大事だと思い、急遽帰国する自分がいた。―阪神タイガース、ピアーズ・ジョンソン投手

あいちトリエンナーレ「表現の不自由展」の再開には断固反対。「天皇への侮辱を許すのか?」と書いたプラカードを持って、会場前で約5分間座り込む我ながらこッ恥ずかしい自分がいた。―河村たかし名古屋市長

自分を長官に任命してくれた人を慮り、「芸術の自由は大事だが、申請手続きはもっと大事だ」という奇妙な屁理屈を編み出して、あいちトリエンナーレの助成金を断じて出さない自分がいた。―宮田亮平・文化庁長官

右翼も左翼も本当の現実にちゃんと向き合わず、憲法改正とか安保反対とか口先だけの政治「ごっこ」をしていると恩師江藤淳先生の大昔の主張を繰り返していたら、「お前さんだって政談ごっこを楽しんでいるだけじゃないか」と反論されて、腰砕けになってしまった自分がいた。―佐伯啓思京大名誉教授

国会の予算委員会で「日米貿易協定は、安倍首相と茂木外相の卓越した外交能力のお陰。日本国民を代表して感謝したい」と、恥ずかしげも無くヨイショしている自分がいた。―自民党参院議員松川るい

昔むかし、宮澤賢治の著作権を侵害してしまったので、花巻まで上司共々お詫びに伺った時に宮澤清六さんから賢治の本「貝の火」を頂いた。今日もその短い童話を読み返しながら、慢心の罪を犯して転落したうさぎの子のホモイのように、恐れおののいている自分がいた。

 

空白空構想零秒、実践75年。遂に何者にもなれなかった自分がいた。

 

 

 

ふたつの陣営

 

原田淳子

 
 

 

光の遺伝子
光のこども

象られたかたちは、ことばだった
印された譜は、手紙だった

滴の葉は船
林檎いろの黄昏の朝に
頚椎が囁く

はじめての生まれたての世界

窓が震え、電報を打つ

金木犀に溺れて
23時の浴槽

戸袋のスズメ蜂の巣が転がる

蜂が囁く
雨は、あなたの手紙ですか
わたしたちに、滅びろと?

秒針は荊に絡めとられた

洪水の波がとどかぬ線を
あなたが引く

わたしは石を置く

かたちが溶けたら
ふたつの陣営は踊り、
光のビブラート

蜂たちの
羽根はまだ生まれていない

 

 

 

小鳥を殺す夢

 

村岡由梨

 
 

夕暮れ時、白いカーテンが涼しい風に揺れている。
階下から娘たちの澄んだ歌声が聞こえてくる。

そんな時、私は、近くに住む母のことを考える。
今頃、リビングのソファに、ひとりぼっちで、
疲れた体を横たえているんだろうか。

「二人のフリーダ」みたいに、
母の心臓と私の心臓が一つに繋がって
母の孤独が私の体内にドクンドクンと流れ込んでくるようで
苦しくなる。
ドクンドクン
ドクンドクン
お母さん、
お母さんの心臓もいつか止まってしまうの?
私より先に死なないで。
それがだめなら、
せめて、お母さんの心臓が止まってしまう時、
私をそばにいさせて下さい。

そして、「あなたの人生は決して間違えていなかった」
と伝えたいのです。

 

思えば、母が私に何かを強制することはほとんど無かった。
けれど、私が見るのは小鳥の死骸でいっぱいの鳥カゴの夢。
小鳥を自分の手から大空に放すのではなく、
水に沈めて殺す夢。

19歳の誕生日に母が小鳥のヒナを2羽買ってくれた。
私は2羽をとてもかわいがり、よく世話をした。
私は2羽のことが大好きだったし、
2羽も私のことが大好きだった。

それから暫くして
1羽が病気になり、あっという間に衰弱していった。
そしてある朝、今まで聞いたことのないような鳴き声をあげて、
鳥カゴの金網に足を引っ掛け
グロテスクに体をねじって
助けを乞うような眼をして
私の方を向いたまま死んでしまった。
私は小さな亡骸を抱いて、
日が暮れるまで泣いていた。
夕方、帰宅した母は、「体が腐っちゃうでしょう!」と怒って、
半ば強引に私から亡骸を取り上げ、庭に埋めてしまった。
そうしなければ、私は亡骸が腐るまでそれを手放さなかっただろう。

鳥は私にとって、自由の象徴だった。
一日に何回か鳥カゴから出してやると、
自由に飛べる喜びに全身を震わせ部屋中を飛び回った。

けれど、一生の大半を鳥カゴの中で過ごした2羽は、
本当に幸せだったんだろうか。

いつの日か、小鳥を殺す夢を見なくなる日は来るんだろうか。

これまでの人生の大半を鳥カゴの中で過ごしてきた私は
これからどう生きて死んでいくんだろう。

 

私に自由を強制しないで。
私に不自由を強制しないで。

誰かに「自由について」の詩を書けと言われたら、
きっと私は白紙のまま突き返す。

例えそれが理にかなっていなくても、
いつも私を駆り立てるのは、
名状しがたい、
言葉になる以前の原始的な衝動なのだから。

 

 

 

てのひらのうちがわには

 

長田典子

 
 

ふと
テーブルに手をおく
あなたはかならず平面に
ゆびさきを縦にする

五歳だった
ほら、こんなふうに、
てのひらに触れた茹で卵に
ゆびを沿わせてまげた
その角度のままに

「茶色の小瓶」の八分音符は難しくて
あなたは泣きじゃくった じれったくて
いちどできたら繰り返し弾いた
八分音符と八分休符の組み合わせが
きもちよくて

ジャズ ジャズ やめられないジャズ

卵が発熱する
パソコンの
キーボードは鍵盤
ゆびは 今も
ピアノを弾いている

あの日のまま ゆびさきをたてて
叩くパソコンのキーボード
卵は熱い卵はくるしい卵はじれったい

産みたい産まれない産みたい産まれない
ジャズ ジャズ やめられないジャズ

産まれたら きっと
だきあおう
牙をむくまえの
甘噛みのように
だきあおうよ
毛が生えそろう前の獣のように

弾き語る
ジャズ ジャズ ジャズ 発熱するジャズ

十二歳
ピアノ教室はやめた
バスで街まで行ってまだ知らないソナタの楽譜を買い
調律されていない古びたピアノで夜中まで練習した
独りぼっちで卵を温め うちのめされ
あなたがピアノを弾くのをやめたのは十四歳
てのひらのうちがわで
卵を温めた そのかたちのまま

ジャズ ジャズ ジャズジャズ ジャズ


鍵盤は
パソコンのキーボード
あの日のまま ゆびさきをたてて
てのひらのうちがわには発熱する 卵

卵は孕む卵を孕む
卵は卵を産み落とす産み落とす
発熱する卵 孵化する 孵化する
バックミュージックは「茶色の小瓶」
ぽろ、ぽ ぽろ、ぽ ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽろ、ぽ、
ゆびさきは つっかえる ひきかえす はんぷくする はんぷくする
制御不能な 暴走する 沸騰する じれったい

産みたい産まれない産みたい産みたい産みたい

ジャズ ジャズ ジャズ くるおしいジャズ

キーボードはわたしはわたしのてのひらは
ゆびさきは
弾き語る
産みたい産み出したい産み出す
キョウリュウ!
しっぽが長くて 巨大な 牙をむく
凶暴な 肉食の
不用意な 制御不能な
ぽろ、ぽ ぽろ、ぽ ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽろ、ぽ ぽぽぽぽ
キョウリュウ!

産まれる産まれる産まれる産まれる

ぽろ、ぽ ぽろ、ぽ
ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、
ぽろ、ぽ、ぽぽぽぽ

キョウリュウ!
だきあおうよ
牙をむくまえの
甘噛みのあとは
ふかく ふかく
交りあおうよ
不用意に 凶暴に 制御不能に
くるおしく
食らいあおうよ

キョウリュウ!

 

 

 

篤い人 *

 

女が
チケットを

買った

相撲を女と見ていた

台風の後で
見ていた

幕下以下の

裸の男たちが
土俵のうえで稽古をしていた

肉が肉にぶつかって
音をたてていた

土俵から叩きおとされている

裸で
擦り剥いたら

痛いだろう
鼻血を出している

裸の

幕下以下の
男たち

たまに笑ったりしている
汗を流している

裸の胸が光っている

花道を勝って帰る力士がいた

負けて
帰る

力士もいた

篤い人は
裸で

ひとり帰ってくる

 

* 工藤冬里の詩「ABOUND」からの引用

 

 

 

ABOUND

 

工藤冬里

 
 

 

散文的な夜に
散文的な夜には
話し掛けてくる逆光の輪郭はずれ
冒した過ちは
原始的な蓋の容れ物に三角に押し込む
声を大きくすると
秘密を真珠にして

一喜一憂するふたつの管
が水平に下りてゆく黒暗
水平なのに下りてゆく気がするのは
耕作地の向こうが闇だからだ
発音を何度も聴き
神はふたりだけ
流れ込む(merge)支流が行き場を失って溢れた
名前年齢身長服の特徴
水槽の脇で
地元を案内
白黒の鞘入り乱れ
玉蜀黍を思わせる
穴は上昇する
河床勾配は5/1000
湿った灰水色
rover時代のmini
スバルN360を大事に乗っていたら
蛾の服に穴はない
邪悪な天使
ある人は怒るかもしれません
あなたの神は偽の神
光る竹観たすぎ
嫌らしい和風
祭りと祭りを合わせ
穴と穴を合わせる
篤い人
LGBTのガスボンベを交換
旅を良いものにしてくれる筈
本当かどうかは
付いて行かねばわからない
その辺を二つ穴から考えてゆくことにいたしましょう
門構えの形をした門が見える
視線の歩むべき道を教える
秘密を明らかにする
友情について
愛の壮大
一時的に間違った
失われたカ行の発音
さらに愛情深い
父親
オレンジnaranjaの車
書き順を逆に 寄り添う
蒔くと鳥の群れ
ミトコンドリア型錠剤
抉れた左部分が光っている
実際に崇拝されている神はふたり
像 帽子
世とは
ふたりの銀座
本流支流どちらかを選べ
ふたつの管を逆上る
美雨はしゃあしゃあ
抜け殻に本体の蝉の響
釈放されてもすぐに去るのではなかった
ABOUND
掴め
ただ持つんじゃなくて掴め
keep a tight grip
in the word of life
let your love abound
in the hard rain
abound with this hard rain
knowing I ran in vain
or worked hard in vain
be flawless
in the hard rain
knowing that I have run in vain
or worked hard in vain
be flowless
有機体の内部では痒みは
とどめられるどころか
かえって広まっている
be flowless
in the word of this organism
in this flow
river flows
through this organism