家族の肖像~「親子の対話」その3

 

佐々木 眞

 
 

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「お父さん、虫歯の英語ってなあに?
「虫歯、虫歯の英語かあ、バッド・トゥースかな」
「バッドトース」
「そうじゃないよ。バッド・トゥース」
「バッド・トース」

「お母さん、よろしくお伝えください、ってなに?」
「ごきげんよう、のことよ」
「よろしく、よろしく、よろしく」

「ぼく、佐々木蔵之助ですお」
「佐々木耕君じゃないの?」
「違いますお、佐々木蔵之助です」
「佐々木蔵之助さん、こんにちは」
「こんにちは」

「ぼく、タカハシさんに『手とまってる』『やり直し』っていわれちゃったよ」
そんなやつ、お父さんがやっつけてやる。

「お父さん、さらにってなに?」
「それに加えて、っていうことだよ」
「さらに、さらに」

「お母さん、けっきょくってなに?」
「ほんとうのところ、ってことよ」
「けっきょく、けっきょく、けっきょく」

「お母さん、フツウってなに?」
「フツウねえ。フツウ、フツウ、フツウは普通ってことよ。耕君、普通に戻ってみる?」
「僕、フツウに戻りますお」
「そうか。よし普通に戻るぞお、いち、にの、さん!」

「お母さん、宝物ってなあに?」
「一番大切なものだよ。耕君、お母さんの宝物って何だか分かる?」
「…………耕君だお」
「あったりい! それじゃあ耕君の宝物はなあに?」
「お母さんだお」

 
 
 

魑魅魍魎の華は咲く

 

今井義行

 

 

安息日には「独り」 朝の陽、射さない アパートのなかで
夕、訪れて ぼっと蠢くヒカリはみな 魑魅魍魎
異貌の昆虫が舞っている
異貌の稲光が降ってくる 東京 平井 荒川の這い寄るけはいが
忍び来る デジタル数字、異貌の時刻が灯っている 綺羅綺羅羅 部屋のなかで
異貌の時刻が移っていく 綺羅綺羅羅 部屋の なかで
SNSをみつめながら そこには ことばや画像の
へんげが 在って 想う・・・・・・ 魑魅魍魎の華は咲く

夏から持ってきた 心の なかの 風鈴──
月の満ち欠けの最も細くなった瞼のところで
music from big pink 心のなかの風鈴が初秋にへんげする

右と左の手いっぱいに光りを集め
換算されると それは 初秋の・・・・・・
あなたのソレイユになるのですって
music from big pink それ、「わたし」を発信するお家

ソレイユ(太陽)・・・・ 光りの集合としてわたしが最も
すきなことば

アヴェマリア 南無妙法蓮華経 美醜・・・・・・ 魑魅魍魎

暮らしを ふるふると 歪むような世界には
したくないのに

心が 良いふるえを 求道 してしまいます

「あ」行の人たちがパンを求めて泣いていた
「か」行の人たちがパンを求めて泣いていた
「さ」行の人たちがパンを求めて泣いていた
…………………………………………………………………

わたしは「あ」行の人なんだ でも泣かない

「た」行の人たちが生乳を求めて泣いていた
「な」行の人たちが生乳を求めて泣いていた
「は」行の人たちが生乳を求めて泣いていた
…………………………………………………………………

「ま」行の人たちが草原を求めて泣いていた
「や」行の人たちが草原を求めて泣いていた
「ら」行の人たちが草原を求めて泣いていた
…………………………………………………………………

あかさたなはまやらわ あ、か、さ、た・・

music from big pink いまは 心のなかにある 「銀巴里」
「詩人の魂」という唄は うたわないでほしい

お、まりあ
奇跡を
もたらせたまえよ

唄の途中の
わたしは金魚草

お、まりあ
奇跡を
もたらせたまえよ

カラのペットボトルを ぐしゃぐしゃっと 握りつぶした
カラのペットボトルを ぐしゃぐしゃっと 握りつぶした
あしたは・・・・・・。 資源ごみ の 回収日な もんですから

お、まりあ
奇跡を
もたらせたまえよ

秋の夜空

星のシレーヌは泣いていた

自分には

なまえがあるのに

わたしはどうして

地上にいないの?

歩けないのですか ・・・・・・・・・・・・?

シレーヌ ──
悲観するな

貴方は秋の夜空で

皆をつつむ

唯一の月あかりなんだよ

地上には無情の

現状が あって

それを照らしているのが

シレーヌ 君なのだ──

地球上で何万人もの

人が亡くなろうとも

白骨を、「美」に変えるのが

シレーヌ 君の天職なんだ

泣かせ商売は いつも 笑っている

朧月夜に つめたく
なされた 約束は 反故になり
冷凍みかんが 硬く
わたしより おとなに なっている

魑魅魍魎の 華は咲く

………………………………………………

いまは こころのなかにある 「銀巴里」

銀座の道幅は広く その片隅にあったシャンソン喫茶

わたしは 美輪を聴きたくて

夢精をしたことがない うすかわの服を脱がせる
早稲みかん と して

銀座の道幅は広く その片隅にあったシャンソン喫茶

「美輪」を聴きたく、 「美輪」を聴きたく、
《魑魅魍魎の華は咲く》《魑魅魍魎の華ヒラク》《魑魅魍魎の華は咲く》

「美輪」は その頃 いまの わたしと 同じ位の 歳で
その喉は まさに 最高の 実りを むかえて いた──

その宵には泪橋に佇んでいた “お客さまは神様です”もの

内臓が泣いているのがわかるので腹を両手で押さえていた

ジングルベル ジングルベル

身体を無理やり 聖夜に変えた

お菓子が まどれーぬ
なんて名をつけられて
おしゃれ するなんて
──と、腹かかえる友
ばっかじゃねーの !!

画面の女に「いつかまた生まれるとしたら何が良い」と訊いたら

すぐさまに ≪平凡≫と言った

女の左目になみだがふくらんでいるのかと思ったら

それはカーソルの穂先だった・・・・・・・・魑魅魍魎の華ヒラク

厚い外皮から齧っていくと苦味がまざり

冷凍みかんが わたしよりおとなになっている

(Good Vibrations)

さえざえとした 抱擁をしていた

数時間。 右腕一杯に 天の川のような 青紫が

ふつふつと出ていた 濃い青紫だ 魑魅魍魎の華ヒラク

下町の秋空にあがった 青紫の花火のようだ

挨拶と挨拶は美しい けれど
そこには 熱情が欠けている

ばっかじゃねーの !!

すずをふるようにして元気に声音をだしたいこころです

わたしは 実家のひきだしにわたし宛の遺言状が入って
いるのを 知っています
万年筆が 母の 形見と なるでしょう

安息日には「独り」 朝の陽、射さない アパートのなかで
夕、訪れて ぼっと蠢くヒカリはみな 魑魅魍魎
異貌の昆虫が舞っている
異貌の稲光が降ってくる 東京 平井 荒川の這い寄るけはいが忍び来る デジタル数字、異貌の時刻が灯っている 綺羅綺羅羅 部屋のなかで
異貌の時刻が移っていく 綺羅綺羅羅 部屋のなかで
異貌の時刻が移っていく 部屋の 畳の うえに──

カラのペットボトルを ぐしゃぐしゃっと 踏みつぶした
カラのペットボトルを ぐしゃぐしゃっと 踏みつぶした
あしたは・・・・・・。 資源ごみの 回収日な もんですから

 

 

 

東京タワーが排泄物になっちゃった

 

爽生ハム

 

 

壊したかも、橙の電波で。朝と夜の気温差に穴をあけようとする。なんて楽な作業なのだろうか。私は何もしない。考えない。
帰り道にいても、足りない気がする。もっと帰りたくなる、東京の大きい国道を歩く姿などはもっと、危険とかに、さらわれればいいのに。なんだお化けか、人か、よくわからないな。夜の国道でトラックにひかれるのはどう。ネオンはどう。静まりかえったすれ違い。エッチしようよ。こういう幸せはなかった。言葉なんて人前でちゃんと話せないから。体で人前を満たそう。徒歩二分で朝食がいただける場所に着くまでに、首を締めた跡が消えてる状態にしたいから、今、漢方を飲んどくよ私は。首が街に晒される。穴をあける。落書きで交わす署名がとおる日常。

 

 

 

劇場 theater

 

昨日は
浅草の水口で

荒井くんと
飲んだ

荒井くんから
飯倉照平さんのこと

ムサビをやめて
タンザニアに行ったことを

聞いた

それから
神谷バーで飲んで

駒形の部屋で
工藤冬里を聴いた

今朝
目覚めたら雀が鳴いていた

この世は
劇場ではない

 

 

 

key 鍵

 

でかけるとき

今朝
部屋の鍵をかけた

昨日も
鍵をかけて

でかけた

満員の
電車にのった

赤ちゃんの
泣き声を聴いた

たぶん
取られても

失うものは少ないです

それでも
鍵をかけて

赤ちゃんの声は

もう
失っている

もうあまり
わたし泣きません

 

 

 

十月の歌

 

佐々木 眞

 
 

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一、長男が小学生の時に作った愛犬ムクの歌

ムク ムク ムク ムク

ムクは いぬだ お

 

二、同じ頃に長男が作った夏休みの歌

あ、どこ行くの、あ、どこ行くの

こ、と、し、の、夏休み

 

三、私が小学生の時、近所の中学生の永井真さんと出原秀雄さんが、路地でしゃがみながら唄っていた歌

でんばら、でんばら、でー、べー、そ

なーがい、なーがい、○、○、○

 

四、今は亡き祖母静子が、私に教えてくれた朝鮮語の讃美歌「主われを愛す」。
彼女は祖父小太郎と再婚する前に、朝鮮半島のどこかに住んでいた。

エスサーラムハッシンム ウールクターリク マーリルネ

ウリドル ヤックワンナ、エスコンセ マートタ

エールサーラム ハッシン、エールサーラム ハッシン、

エールサーラム ハッシン、エスコンセ、マートタ

 

五、私が小学生の頃、同級生の赤尾君をからかった作者不詳の歌。
当時彼の前歯はちょっと欠けていた。大人しく人の良い彼を皆と一緒に囃したてた私は内心忸怩たるものがあるが、どうしても歌詞を忘れることができないので幼き日の思い出としてここに記しておく。ごめんね、赤尾君。

アッ、カア、オオ、ニ 豆喰わそ

歯がない、歯がない

 

 

追記 これらの歌にはすべてメロディがあって、自分で歌うこともできるのだが、それを楽譜に出来ないのがもどかしい。

 

 

 

angel 天使

 

今朝
満員の

山手線のなかで
泣いてた

赤ちゃんの
泣く声がした

かぼそく

目を
瞑って

聴いた

このまえの日曜日
きみに

会わなかった

声も
聴かなかった

浜辺には
風が渡っていった

きみの
声を

探した

いないきみの声を
探していた

 

 

 

光の疵 ベルベットのほつれ目

 

芦田みゆき

 

 

逃げるように陽が落ちて、
湿ったベルベットの夜が、
あたしの皮フを締めつける。

その日、
あたしは衝動的にバラの花束を買った。
バラは冷たかった。

あたしは、バラと一緒に夜の公園へと入っていく。

 

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一枚、
また一枚と、
闇の中であたしは白を脱ぎすてる。

するとひりひりと痛むのだ。
バラの棘が。
あたしの皮フが。

擦りあうほどに震える表面の曖昧な境界。
痛みこそがあたしのかたちだ。

 

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ベルベットの夜にうまれたほつれ目は、
闇に溶けることはないだろう。

あたしは立ちあがる。
そして、
光へと帰ってゆく

 

 

 

 

バイバイ

 

爽生ハム

 

 

連れていって路面の羊たちよ、私らを波止場へ連れてって
連れて、

呼吸はほっさのダンスで連れてっ て、波止場とハンカチを求めてるから。ハンカチの姿、私の胸ポケットで水を吸う。私の胸ポケットで泣け、

葬るしょうもない何かがバイバイや。
もしかしたら
人の涙を願ったりカッコつけたり、偽善だった、あの拭いてくれは私の笑顔でねじこまなければ、いけない?消失ごと?

ぞっくりと…

細工する姿を見つめ、ひと息したら…皆の涙を拭いて回りたい。

その頃の、私は何かにつっかえて消えてるだろう。ハンカチで人の涙を持ち帰って嬉しさ反面、すぐに洗濯機に入れて、もう捨てるのさ。