そんなこたあ、どうでもええやん

 

佐々木 眞

 
 

台湾リスが、庭の蜜柑を全部食べちまったよ
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

ご覧、カラスどもが、寄ってたかってトンビを苛めてる
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

売れない絵描きは、どうやって食べていくんだろうね?
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

傲岸不遜な男会長が、男みたいな女会長にすり変わったね
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

コロナ禍で、五輪が御臨終なんだって
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

関西ではイソジン知事が「緊急事態は終わった」と叫んでいるんだって
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

新型コロナウイルスのワクチンが、てんで日本に届かないんだって
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

アホ馬鹿官僚どもが、相変わらず権力者に忖度してるね
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

どうみてもこの国の保守政権は、延々と続きそうだね
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

ロシア、中国、ビルマ、世界中で専制主義が跋扈してるね
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

一握りの大金持ちが富を独占してるんだって
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

温暖化で、地球もそろそろ終わりだね
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

きのう同級生のヨコヤマ君が亡くなったそうだ
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

どうもちかじか関東大震災がやって来そうだね
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

いまあたしが死んだら、あなたはどうするの?
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

ねえ、お前さんは、だいぶ前から死んでるような気がするんだけど
ええやん、ええやん、そんなこたあ、どうでもええやん

 

 

 

「レインボーハウス」 此処にあり。

 

今井義行

 
 

此処は ね 作業所の 「レインボーハウス」だ

此処って ね 雨上がりでも ないのに わたしを ふくむ さまざまな病気の 「精神疾患者」虹たちが この世で 社会訓練をしていく 場所なんだよ

鬱病や 躁病 双極性障害 統合失調症・・・ 等などの 「精神疾患者」虹たちが 此処で 1日を 過ごすの さ・・・

此処に 通所してくる 人たちは 10人くらいの スタッフと ともに やわらかな 時間を 過ごすの さ・・・

・・・・・・・・・・・・・

(今 この世は コロナの時代に なったんだ ね)

わたしたちは 例にもれずに コロナ対策をしているよ マスクの着用や 薬用石鹸での 手洗いや 手の指のアルコール消毒 等など

(なんだか コロナの響きって あたらしい 時代の 「お菓子」みたいな 感じが しない か?)

山本さんという ベテランの男性スタッフが わたしに その日の 作業内容を 説明してくれた

宅配寿司2人前 割り箸を2本 醤油の小袋を2個 プラスチックの小皿2枚を 次々に ビニール袋に 封入していくという作業だ 1時間で 60セット

ビニール袋に セットしていくという作業は はじめは もたつくけれど 作業をしていくうちに だんだん 慣れてくる

しばらく経って 山本さんが わたしの作業の見回りにやってきた 「そうそう バッチリじゃない」 山本さんからの オーケー出しのあと ふと わたしの親指を見た 山本さんが おおきな声で言った

「あれれっ いったい どうしたの? その 右と左の 親指の爪の 凸凹は?」 山本さんに とても 驚かれて わたしは となりの カンファレンスルームに 呼ばれることになった

作業場所から 続いている カンファレンスルームで アクリルの 透明な パーティションをはさんで わたしと山本さんは 向かいあって すわった

「あらためて尋ねるけれど その 親指の爪の 凸凹は なんで そうなったの?」

「この 右と左の 親指の爪の ことですか?」

わたしが 右と左の 親指の爪を まじまじと 自分で 見つめてみると それらは 海水に 浸食されて 凸凹に 入り組んだ リアス式海岸の ようだった・・・

「じつは わたしは 20年以上前 鬱病に なってから 毎日 親指の爪を 齧って 食べることが 楽しみに なって しまったんです」

わたしは 右と左の 親指の爪が だいすきなのだった・・・

それは 前歯で ガリガリ 齧って 食べて いるとき 口の中に 甘い味が 広がって くるからだ 齧りすぎて 血が 出ることも あるけれど・・・

山本さんが わたしに このような 指摘を した
「作業中にも マスクを外して 親指の爪を 齧って 食べたりしているの?」「はい 時々・・・」

「爪は コロナウィルスの 温床だから 食べ物の宅配寿司のセット組みの作業には 向いてないよなあ ボールペンの セット組みの作業に 切り変えてみようか?」

(山本さん わたしが 自分の 右と左の 親指の爪を 齧って 食べる ことは わたしには おいしい 「お菓子」を 楽しむ ことなんです よね)

カンファレンスルームから続く ひろい 作業場所では たくさんの 「精神疾患者」虹たちが さまざまな 作業に 黙々と 取り組んでいた

電動アシスト自転車の金具をつくる作業や 布類を断裁していく作業や PCの操作をする作業や 編みぐるみをつくる作業 等など

それらは どこかで 誰かが 利用するものに なっていくの だった・・・

わたしは ボールペンの セット組みをする作業を することになった それらは さまざまな 企業が配布する ノベルティグッズだった 1本 1本の ボールペンを 左がわに クリップが 向くように セット組みしていく 作業だった

此処は 雨上がりでも ないのに わたしを ふくむ さまざまな病気の 「精神疾患者」虹たちが この世で 社会訓練を していく 場所なの さ・・・

わたしたちは 生きていくのが 少し 困難なだけで けっして 狂ってなんて いないのさ・・・!

(わたしは 山本さんに 見つからないように 注意しながら こっそりと マスクを外して 右と左の 親指の爪を ガリガリ ガリガリ 噛ってしまうん だよなあ・・・)

(ああ 爪って なんて おいしいんだろう!)

(わたしの 右と左の 親指の爪の 表面って リアス式海岸みたいに 凸凹して いるけれど・・・)

(コロナってさ この世に あたらしく あらわれた まがまがしい 病気なんだけど・・・)

(なんだか コロナって やっぱり あたらしい 時代の 「お菓子」みたいな 感じが しない か?)

しばらく経ってから 山本さんが わたしの作業の 見回りにやってきた 「そうそう バッチリ じゃないか」

(山本さん 爪って なんで こんなに おいしいん でしょう か・・・?)

(ああ こんなにも おいしい 凸凹の 「お菓子」って この世に あるだろう か・・・?)

(ああ いつか・・・ コロナは わたしにも 振りかかって くるのだろう なあ・・・)

「レインボーハウス」の虹たちが 黙々と 作業している場所で わたしの 親指の爪は わたしだけの おいしい「お菓子」・・・ リアス式海岸じゃなくって 『コロナ式海岸』に 変わっていた よ

わたしたちは 生きていくのが すこし 困難なだけで けっして 狂ってなんて いないのさ・・・!

わたしたち 「精神疾患者」虹たちは 結構 たのしい 毎日を 過ごしているの さ・・・

そう 「レインボーハウス」 此処にあり。
そう 「レインボーハウス」 此処にあり。

調理師免許をもっている スタッフが 「レインボーハウス」の 「精神疾患者」虹たちを 呼びにきたよ 「お待たせしました 今日のメニューは みんなの だいすきな 豚とキムチの 丼だよ!」

(わたしも 豚とキムチの 丼は だいすき だけれど・・・ 本当は 自分の 親指の爪を いつまでも 齧って 食べて いたいんだよなあ・・・!!)

わたしの 親指の爪は わたしだけの おいしい「お菓子」・・・ リアス式海岸じゃなくって  『コロナ式海岸』に 変わっていたの さ・・・ !!

 

 

 

From the top of the hill you can look over the city.
その丘の頂から町を見渡すことができます。 *

 

さとう三千魚

 
 

at the harbor
listened

that voice
I heard it by the window

even in the port town
even at the beach park

I have listened

it came to the tangerine on the windowsill

surely
it is coming

in spring
with a jewel-like voice

calling a female

blue bird
blue rock thrush

there is a small mountain to the west of the port town
in the middle

there is a tangerine field

From the top of the hill you can look over the city *

 
 

港で
聴いた

あの声を
窓辺で聴いた

港町でも
海浜公園でも

聴いたことがある

窓辺の蜜柑に来てくれた

確かに
来ている

春になると
玉の声で

雌を呼んでいる

青い鳥
イソヒヨドリよ

港町の西には小高い山があり
中腹に

蜜柑畑がひろがっている

その丘の頂から町を見渡すことができます *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

It’s hard to put it into words.
それを言葉にするのは難しい。 *

 

さとう三千魚

 
 

it’s
like rain

this morning

when I open the window
the top of the west mountains is surrounded by white clouds

for tangerines on the windowsill
the pair of bulbuls have come

they flew away

also today

yesterday too
the day before yesterday too

I didn’t see the sea

“The snow on the road has already melted”

my sister
she was saying on the phone

in the movie “It must be heaven”

on the way
I fell asleep

how did it

carrying sin
did that person die

It’s hard to put it into words *

 
 

雨の
ようだ

今朝

窓を
開けると

西の山の頂は白い雲に包まれている

窓辺の蜜柑に
つがいのヒヨドリたちは来た

飛んでいった

今日も

昨日も
一昨日も

海を見なかった

“もう道路の雪は溶けたよ”

姉は
電話で言っていた

“天国にちがいない” という映画では

途中
眠ってしまった

どうなのかな

罪を背負って

あの人は
逝ったのか

それを言葉にするのは難しい *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

雀蜂の巣穴から聞こえてきた

 

工藤冬里

 
 

いつまで私は思い悩み、毎日悲しみに暮れなければならないのか
商店たち
白い商店たち
それは自分で解決できる問題ですか
どうしたら良いだろうか
風がどどぅと楸(ひさぎ)の白に
桐のように伸びる 赤目柏の暖色LEDの白空に
穏やかさを保つための錨を持つ
おだやかさをたもつためにいかりをもつて可笑しい
一切心配してはいけないという意味ではないわ
紀元前六世紀以前の人々は不完全ながらまだ風の感じ方はまともだった
一七世紀以前の音楽は無抵抗ながら光熱の感じ方がまだまともだった
ピタゴラス由来のプラトンとバッハが商店たちをマイナスの領域に追いやった
以来おだやかさをたもつためのいかりをもった転校生は一人もいない

 

 

 

#poetry #rock musician

なずな

 

小関千恵

 
 

間合いに居た
あの人に会い あの人にも会った

身体の中には木があって
実を獲っては 投げ込んでいた

少し目を閉じている間に
電話は入る

人生ってこんなもんかってくらいで死んでいく

地上の音は
天の岸を打っていますか

無心の波が
立って

間違う身
まちがうみまちがうみ

街が海

間合い
空には
コスモスが咲いて
漠たる不安は毛布となって
何に生きて
何に生きた?

根を切って
なずなを一本 最後に摘んで

つみつづけてつみつづけて

罪続けて

 

 

 

われも静かに

 

駿河昌樹

 
 

大空を
しろい雲が
ゆく

しずかだ

しずかなことだ

あんなふうに
生きていくべきだな
わたしも

しずかに

すこぶるしずかに

 

 

空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白相馬御風
大空を静かに白き雲は行くわれも静かに生くべかりけり

 

 

 

食べざかりのノリ

 

薦田愛

 
 

ご飯ごはん
ごはんが大好き
パン好きナン好きラーメンも好き
せやけどやっぱり
ご飯ごはん
ご飯がないと始まらへん
朝ご飯昼ご飯晩ご飯
たまの外食も
おかわり大盛りあたりまえ
朝が早いからお弁当は十時
部活でお腹がぺこぺこ
ちゃうで
還暦まぢかい
おじさんのはなし

五分づき米もしくは白米を一合炊いて
小ぶりの茶碗で三杯
つまり三度の食事で私が食べおおせるところ
ユウキとふたりなら
一度でゆうに一合半は要る
ご飯ごはん
いちごうはん
いちごうはん、は微妙な量
とある夕食どき
多めに炊いてあった残りを目ではかり
ま、だいじょうぶやろ
炊き足さんかったん
ご飯ごはん
肉じゃが四人前、かぶの葉とちりめんじゃこのおひたし
フンドーキンの麦味噌を使った
さつまいもと小松菜と椎茸の味噌汁
くわえて前夜のれんこんとにんじんとごぼうのきんぴらも
八畳間の炬燵にならべ
「おいしいねえ
 うちで食べるご飯がいちばん」
と笑みくずれていた顔が
おっと
はやばやとおかわり
キッチンに向かって戻ってくるなり
くもってるやん
きけば
「ご飯が足りない・・・・・・」

力のない声
ああ
かんにんなぁ足りると思ったんよ
おかずがようけあるし
けど
おかずにつられてご飯がほしなるのも
わかるわぁ

それにしても
ちゃんと噛んでる?
ごはん飲んでへん?
ご飯ごはん
ご飯が大好き
朝二杯昼二杯夜二杯
雨ニモ負ケズには
日ニ四合ノ玄米とあるけど
それは味噌と少しの野菜とセットの時分
肉も魚ももりもり食べてる
きみと私は
気をつけんと ね
つい ね
ついつい食べ過ぎて
ううむうう~ん
胃散でなだめたりね
言いますやん
腹も身のうちって

「日本人はもっと米を食べなくっちゃ」
そやねそれに日本人はっていうか
何よりお米は美味しいものね
家計簿みて思わず
目ぇこすったけどな
月に十五キロほど食すらしいねん
ユウキと私
まちがいなく
二十一世紀の日本で稀な米食家族
お弁当にくわえて
時にみずからおむすびも結んでゆくユウキの
ムダをきらう気質と贅肉のない身体は
パンも好きナンも好きラーメンも好き
けどやっぱり
ご飯ごはん
五分づき米と白米もりもり食することで
つちかわれてるんやろな
きっと
知らんけど