原田淳子

 
 

 

夜が
降りてくるあいだ
やわらかな毛並みに包まれていたい

夜は
いつも最後だから
きのうの夢に
束ねられないように寝返りをした

窓に毛布を押しあてて
隙間風を塞ぐ
缶詰めのなかで眠る

窓が白けて
指で描けるようになったら

はぁっと吐く息に
一瞬
白薔薇が咲いた

掌にのせて 
きみに、
ねぇ、ふゆそうびって
振りかえったら
わたしが消えた

朝になったから、
ゆかなきゃいかない
鍵はここにおいてゆく

窓はあけてゆくね
猫が通れるように

遠き炎に泡となり
汗と
涙の
塩の痕だけが残った

貝殻ひとつ
ここに
おいてゆく

おなじみちを迷った誰かの
北極星のかわりに

 

 

 

Stollen und currywurst

 

工藤冬里

 
 

閉架に今は読まれなくなったハンブルクのB級グルメCurrywurstに関しての小説※がひっそりと背を見せており僕は仕事帰りに買いに走ったがそれはそうと
燃やさなければならない
白壁の黴にプルシャン・ブルーの浸透があるなら
家ごと燃やさなければならない
出産が「死ぬ人」を産むことである間は
轢かれた猫のように
バイクから投げ出された
夕刻の厳粛の
脇をすり抜けていく
クリーヴルストがないのだから
シュトーレンを食べたって無駄だ
男の子は三三日、女の子なら六六日、
祖先の犯罪を想ってひきこもらなければならなかった
女が悪いのではなく
女が
近いのだ
原罪シュトーレン首都連合の現在に

 

※「カレーソーセージをめぐるレーナの物語」
ウーヴェ・ティム (著), 浅井 晶子 (訳)

 

 

 

#poetry #rock musician

As for me, I have nothing to complain of.
私に関しては、何も不平はありません。 *

 

さとう三千魚

 
 

yesterday
I didn’t go for a walk with Moko

garbage removal
did not

I haven’t written the manuscript yet

this morning
the woman went out

with moco
on the sofa

I was sleeping

Asami
he sent me a Yuki no Bosha

Watanabe’s wife
she sent me Nagasaki Castella

Mr. Kanda sent me Akita sausage

I’m not ready to cry yet

this morning too
it’s sunny

As for me, I have nothing to complain of *

 
 

昨日は
モコと

散歩に
行かなかった

ゴミ出しも
しなかった

原稿も
かけていない

今朝
女は出かけていった

モコと
ソファーで

寝ていた

あさみさんが
雪の茅舎を送ってくれた

わたなべさんの奥さんが
長崎のカステラを送ってくれた

かんださんが秋田のソーセージを送ってくれた

わたし
まだ

号泣する準備もできていない

今朝も晴天だ

私に関しては、何も不平はありません *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

Turn your bag inside out.
袋を裏返しにしなさい。 *

 

さとう三千魚

 
 

“Dojo Yaburi” feels good

suddenly
come over

he deviates from the rules

yesterday’s poem by Tori Kudo is also **
it was “Dojo yaburi”

I laughed

hit the poetry board wall with his bare hands
he is trying to win

it’s like “Rikyu”

throw away the wins and losses
he breathes air elsewhere

Turn your bag inside out *

 
 

道場破りとは
気持ちが

よいね

突然
やってきて

ルールを
逸脱する

昨日の工藤冬里さんの詩も **
道場破りだった

笑って
しまった

詩歌の板壁を素手で
殴り

勝とうと
している

利休のようでもある

勝ち
負け

を捨て

別の場所で空気を吸う

袋を裏返しにしなさい *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

** 工藤冬里さんの詩

「「文春オンライン」によると、禿げを偽って結婚した男がカツラを見破られ離婚された。さて、ところで、マスクをしてフードを被っていたら一人の子供に「おばさん」と呼ばれた。わたしはその子供におばさんと間違われた。その子供はわたしをおばさんと宣言した。」
https://beachwind-lib.net/?p=27072

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

「文春オンライン」によると、禿げを偽って結婚した男がカツラを見破られ離婚された。さて、ところで、マスクをしてフードを被っていたら一人の子供に「おばさん」と呼ばれた。わたしはその子供におばさんと間違われた。その子供はわたしをおばさんと宣言した。

 

工藤冬里

 
 

さて
ところで。
わたしに対する治療は存在しない
わたしに対しては隔離だけが存在する
わたしに医者は存在しない
宣言する者だけが存在する
病は汚れだからだ
汚れているか汚れていないかの判断と宣言だけが存在する
禿げは汚れではない
父は最晩年に頭の天辺が少し禿げてきていた
誰も何も言わなかった
さて
ところで。
病は無くなる
禿げも
たぶん無くなる
さて
ところで、

 

 

 

#poetry #rock musician

家族の肖像~親子の対話 その50

 

佐々木 眞

 
 

 

ぼく、ソナタ好きですお。
ソナタ弾いてよ。
嫌ですお。

あした図書館へ行ってえ、西友へ行きますお。
分かりましたあ。

お見合いって、なに?
結婚しようと男の人と女の人が会うことよ。
ぼく、お見合い好きですお。
そうなの。
「エール」でお見合いしてたよ。
してたね。

スマップ、やめたの?
そう、やめたのよ。
なんでやめたの?
なんでかねえ。

孤独って、なに?
一人でさびしいことよ。コウ君孤独なの?
じゃないよ。

ワイドドア、椅子が少ないね。
そうだね。

精神的って、なに?
気持ちの持ち方よ。

お父さん、ヨシネキョウコはナナだったんですお。
なに、なに?
「高嶺の花」の話ですお。

留守は、いないことでしょう?
そうだね。

忘れはしない、って、なに?
忘れることはない、よ。

恋って、なに?
とっても好きになることよ。

お母さん、なにとぞ、って、なに?
どうぞ、のことよ。

輸血って、なに?
血が足りないから血を注射することよ。

「話しちゃダメ」って言われたんですお。
誰に?
イナズミさんに。
どの放送の話なの。
「高嶺の花」ですお。

お母さん、ぼく、お祭り好きですよ。
そうですか、ワッショイ、ワッショイ。
ワッショイ、ワッショイ。

局地的って、なに?
その場所だけ、だよ。

プラネタリウム、なに?
お部屋の中でお星さまを映し出すとこだよ。

お父さん。病院は怪我したとき?
そうだよ。病気したときもね。

綿はオクラに似てるね?
そうだね。
オクラ、ねばねでしょ?
そうだね、ネバネバだね。
ねばねば、なばねば。

ぼく、ポンキッキ好きだお。
お母さんも。
お父さんも。

激励会って、なに?
励ます会よ。

マコトさん、立ち止まったらだめでしょう?
ダメだね。

縁起でもないって、なに?
そんなこと心配しないでいいよ。

エイコさん、薬剤師さん?
そうよ。

もう一丁って、なに?
もう1回よ。

お父さん、石原さとみのビデオ録画した?
したよ。
した?
しましたよ。

お母さん、「夜明けよ」印刷してね。
分かりましたあ。

人身事故だと電車動かないでしょ?
そうだね。電車とまるとコウ君どうするの?
分かりませんお。

マコトさん、ボクジョウ、まきばのことでしょう?
そうだよ。

ジュンサイ、つるつる?
そうだよ。

コウ君、スイカ食べますか?
食べますお。
モモ食べますか?
食べますお。
ブドウ食べますか?
食べますお。
水ようかん、食べますか?
食べますお。

海が見える道を通りますか?
通りませんお。

車体構造って、なに?
車の中身だよ。

お母さん、一直線て、なに?
まっすぐよ。
お母さん、従うって、なに?
言うことをきくことよ。

ぼく、オクラ好きですお。オクラ、アフリカ原産ですお。
へええ、そうなんだあ。

お父さん、ひっぱたいたら痛いでしょ?
そうだね。痛いね。

コダック、会社の名前でしょ?
そうだよ。

なんでキシモト先生「またケンシン」ていったの?
また歯をみましょうね、とおっしゃたのよ。

ぼく、リョウちゃんとサカイさん、両方好きだよ。
そうなの。

「ほか」って、「以外」のことでしょ?
そうだね。

駒、将棋でしょ?
そうだね。
ぼく、将棋したいですお。

感じるって、思うことでしょ?
そうね。

Uターンって、なに?
くるっと回ることよ。

Uターン禁止って、なに?
ここでくるっと回ってはいけません、よ。

お父さん、名前の英語は?
ネームだよ。
名前、名前、名前。

めぐむって、なに?
困っている人になにか上げたりすることよ。
め・ぐ・む、め・ぐ・む、め・ぐ・む

農作業って、なに?
田んぼや畑でお米とかお野菜とか作ることよ。

迷ったら困る?
迷ってもいいよ。

ぼく、少年隊、好きですよ。
そう。お母さんも。

感動、なに?
こころに響くことよ。

お父さん、ぼく「アンサング・シンデレラ」の最終回みます。
わかりましたあ。

お母さん、せめてコウ君が死ぬ前の日までは頑張って生きるようにするわ。いや亡くなってあと1週間かな。あとはお父さんにまかせて。

コウ君、イトウ君はね茅ヶ崎から相模線に乗って2番目の駅で降りるんだって。
香川ですお。
え、そうなの。

蒲、蒲田の蒲でしょ?
そうだね。

お父さん、竹中直人、録画してくださいな。
何曜日ですか?
日曜日ですお。
分かりました。

 

 

 

Would you mind shutting the window?
窓を閉めてくれませんか。 *

 

さとう三千魚

 
 

when I was young
I met Yasutake Funakoshi’s book

it’s an upholstered book
the word “boat” is stamped on the cover with silver foil.

in that boat
there was a human

I read the book
I wanted to meet the statue of the 26 saints

a few years ago
I went to Nagasaki to visit Chihiro’s grave

some days
I walked in the city of Nagasaki

I met the saints at that time

in the sky
floating

Nagasaki was a hill town

I heard the whistle of the ship
I heard the church bell ring

so
it came true

Would you mind shutting the window *

 
 

若い頃
舟越保武さんの本に

会った

布張りの本で
表紙に”舟”と銀の箔が押してある

その舟のなかに
ヒトがいた

その本を読んで
二十六聖人を見たいと思った

数年前に
千尋さんの墓参に長崎に行き

何日か
長崎の街を歩いた

その時に聖人たちと会った

空に
浮かんでた

坂の街
だった

船の汽笛を聴いた
教会の鐘の鳴るのを聴いた

それで
叶った

窓を閉めてくれませんか *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

世話することが仕事だった

 

工藤冬里

 
 

世話することが仕事だった
世話の必要な羊を世話するために
食べない羊を飼い始めた
給料をもらうことが仕事なのではない
世話することが与えられた仕事だった
飼うことそのものが仕事だった
飼うために飼った
きみがペットを飼っているとしたら
それがきみの仕事なのだ

草むしりは仕事ではない
野菜作りは虚しい労力の浪費であった
地面は石ころだらけで
川の氾濫もなかった
それは草も生えないその達成は今日の労働に似ていた
労働の結果は火花に似ている
着火はするが燃え上がることはない
一二月一六日的空を 心はしていた

 

 

 

#poetry #rock musician

It began to rain cats and dogs.
雨が土砂降りに降り始めた。 *

 

さとう三千魚

 
 

the wind was strong
yesterday

outside
The princess apple tree pot

I put it in the front door

in the winter sun

the princess apple tree had its leaves glowing yellow

mother-in-law
she laughed at me

that winter day

I will never forget
I can’t forget

It began to rain cats and dogs *

 
 

風が強かった
昨日

外の
姫林檎の

鉢を
玄関の中に入れた

冬の日を
浴びて

姫林檎の木は
葉を黄色く光らせていた

義母は

はにかんで
笑ったな

あの冬の日に

忘れない

忘れ
られない

雨が土砂降りに降り始めた *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life