空(ソラ)と ミルフィーユカツ

 

今井義行

 
 

ソラ、 サクッ 口元が ダンス、ダンス、ダンス!!
ソラ、 サクッ 口元が ダンス、ダンス、ダンス!!
いい気分だったのに

ん?

ふと 見上げた空が 濁って見えてしまった
夕べ 飯島耕一さんの詩 「他人の空」を
久しぶりに 読み返した そのせい なのかなあ───
 

「他人の空」
鳥たちが帰って来た。
地の黒い割れ目をついばんだ。
見慣れない屋根の上を
上ったり下ったりした。
それは途方に暮れているように見えた。
空は石を食ったように頭をかかえている。
物思いにふけっている。
もう流れ出すこともなかったので、
血は空に
他人のようにめぐっている。
 

戦後 シュールの 1篇の詩
鳥たちは 還ってきた 兵士たちの ことだろう
途方に暮れている 彼らを受け止めて
空は 悩ましかったのかも しれない けれど──

そう 書かれても
わたしは 素敵なランチタイムの 後で
もっと さっぱりとした 青空を 見上げたかったよ
暗喩に されたりすると
地球の空が いじり 倒されてしまう 気がしてしまってね

わたしが 食事に行ったのは 豚カツチェーン店の 「松のや」

食券を買って 食べるお店は
味気ないと 思って いたけれど
味が良ければ 良いのだと 考えが変わった

そうして今 わたしを 魅了して やまないのは
「ミルフィーユカツ定食 580円・税込」
豚バラ肉の スライスを 何層にも 重ねて
柔らかく 揚げた とっても ジューシーで
アートのような メニューなんだ

食券を 買い求めた わたしの 指先は
とっても 高揚して ダンス、ダンス、ダンス!!

運ばれてきた ミルフィーユカツの 断面図
安価な素材の 豚バラ肉が 手間を掛けて 何層にも
重ねられてある ソラ、ソラ、ジューシー!!

運ばれてきた ミルフィーユカツを 一口 噛ると
ソラ、 サクッ 口元が ダンス、ダンス、ダンス!!
ソラ、 サクッ 口元が ダンス、ダンス、ダンス!!

そうそう
豚カツ屋さんには 必ず カツカレーが あるけれど
あれには 手を染めては いけないよ
カツカレーは 豚カツではなく カレーです

カレーの 強い風味が
豚カツの衣の 塩味を 殺してしまう
1種の 「テロ」 だからです

ただでさえ 今 街は コロナ禍  なんだから

空を見上げながら 入店した わたし

ソラ、1種の 「テロ」は 即刻 メニューから
ソラ、駆逐すべき ものでしょう──

わたしが ミルフィーユカツを パクパク してる時
ある ミュージシャンが クスリで パク られた
という  ニュースを 知った
この世では 美味なものを パクパク するのは
ソラ、当然の こと でしょう──

鬼の首 捕ったような 態度の 警察は どうかしてる

トランスできる ものを パクパク するのは
ソラ、ニンゲンの しぜんな しんじつ
ソラ、攻める ような ことでは ないでしょう!?

わたしは ミルフィーユカツで トランスしたし、
ミュージシャンは クスリで トランスしたし、
飯島耕一さんの 時代には 暗喩で トランス 
できたんでしょう──

だから 「他人の空」も ソラ、輝けたのでしょう

鳥たちが帰って来た
──おお そうだ あいつらが帰ってきたんだ
空は石を食ったように頭をかかえている
──おお そうだ みんな頭かかえてた
血は空に
他人のようにめぐっている。
──おお そうだ 他人みたいな感触だったよ

わたしは 詩を書いている けれど
もう  滅多に 暗喩は  使わない

詩は 言葉の アートだけれど
今は いろいろな トランス・アイテムが あるから
敢えて 言葉で 迷路を造る
必要は そんなに 無いんじゃない かな

わたしは そう 思うんだ けれど──

平井商店街を歩いて しばらくすると
濁っていた空が 再び輝き出した

飯島さんにとってソラは暗喩
ミュージシャンにとってソラはクスリ

しかし、

カツカレーを駆逐して  ミルフィーユカツを パクパク した わたしにとって
 

ソラは、ソラで 問題 無いんじゃないかな!?

 
 

※ この詩は、2019年に発表したものを、改訂した詩です。

 

 

 

He awoke with a start.
彼はびくっとして目が覚めた。 *

 

さとう三千魚

 
 

this morning too
woke up

still in the dark morning
I was awakened by moco

I put her down in the garden
she crouches and pees

when I hug back her to bed
she sleeps soon

I wait for the morning in another room

wait for the windows to brighten

wait for the voice of a little bird

a crow cawed

the west mountains are under the light blue sky
there is the blue-green west mountain

ah
now

alone

a sparrow cried

jiji jiji jiji jiji jiji jiji

violently
cry

He awoke with a start *

 
 

今朝も
起こされた

まだ暗い
朝に

モコに起こされた

庭におろす
モコはしゃがんでおしっこをする

ベッドに抱き帰ると
すぐに眠る

わたしは別の部屋で朝を待つ

窓が明るくなる

のを
待つ

小鳥の声を
待つ

カラスが
鳴いた

西の山が薄い青空の下にいる
そこに青緑の山がいる


いま

ひとり

雀が
鳴いた

ジジジジジジジジ ジジジ

激しく
鳴いた

彼はびくっとして目が覚めた *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

 

松田朋春

 
 

終わったあとだから
よくみえる
よく知るために
終わらなければならない
何度も

書き終わりたくない
知りたくないから
それが何であるか
何でしかないか

終わってわかったこと
終わってのこったこと
捨てたのに帰ってくる子どもみたいに
心はせつないうそをつく
まっすぐにこっちをみて

 

 

 

記憶に残るわんこ

 

工藤冬里

 
 

脳の中で記憶は垂直に沈んでいる
それを現在という
水の少ない球の中で
過去と呼ばれるものが現在と連結しているが
それは現在における過去なのであって
出来事と出来事の間の熱量の差に過ぎない
未来は出来事としての熱量が高い場合はこちらに流れてくる
それを希望と呼ぶ
未来を凝視しなければならない
ねえ、あん時二十歳だったのがもう四十歳だもんねえ
ずっと立ってるわんこがいたねえ
心は水だが脳は電気だ
出来事を繋ぐ橋で瀬戸内海を渡る
フェリーはとうに難波している

 

 

 

#poetry #rock musician

I felt like crying at the news.
私はその知らせを聞いて泣きたくなった。 *

 

さとう三千魚

 
 

that child
those children

Hachiro Tako

Mr. Shibayama
Mr. Kuri

my sister

woman
women

grandmother
mother
father
brother

mother-in-law

Mr. Kurusu
Mr. Nakamura
Mr. Neishi

Mr. Shiroyasu

Arai-kun
Mr. Kuwahara

over there
here

everyone
how are you

this morning
I was staring at the sea

I felt like crying at the new *

 
 

あの子
あの子たち

たこ八郎さん

柴山さん
栗さん

姉さん


女たち

祖母


義母さん

来栖さん
中村さん
根石さん

志郎康さん

荒井くん
桑原さん

そちらや
こちらで

みなさん
元気ですか

今朝
わたし海を見ていました

私はその知らせを聞いて泣きたくなった *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

Untitled, 2020

 

小関千恵

 
 

夜に、
融合を遂げたチョウチンアンコウのムニエルを食べさせる

たわみに合わせて、うなづく

肌よりも、こぼれるものが触れていく
微かに結ばれている道の上で
血の流れにしっかりと掴まっている

月も、花も、見ないで
立ち漕ぎをした
丸い 夜の形を真っ二つにして
そうだ お金があればよかったよね
お父さん

白痴に向かい
行方不明になる影

光が、
一面におちてくる

月の内部は 母胎だったんだ

帰っていくね
いつか必ず、普通に死ぬから

束縛せず
孤独のまま 依存し合った
隣に居あわせながら 互いの地上で
星々と話し合った

夜が鳴いている

わたしは
夜の鳴き真似をする

10年

とうめいなおとになりたくて
住み続けた西窓の部屋がいまとても豊かだ

根を裸にして光と熱を見つめる

切り落とした水に
果たされなかった光が乱反射を起こしている

その光に、ただ揺られている

 

 

 

 

 

羅紗緬プラごみ焼却子

 

工藤冬里

 
 

環境は二の次だ
それを第一義にしてポシャったのが善意を吸い上げた一〇年代の悪霊の花傘の総括ではなかったか
絞られているのは国家の一点のみである
マグマの坦々緬は汁無し特赤の一点張でゴアの胸は安っぽく光る青い羅紗である
化学的事故や疫病を神にした報いで多国籍軍は繋ぎとしての沈下を予告される
希望だ
私は安全に住むpslm16:9が
七〇人訳では希望を持って生きるact2:26に変わっているが
それがどうした
似たようなものだ
おでんの味は煮ている時ではなく冷める時に染み込むのだ

 

 

 

#poetry #rock musician

I didn’t take part in the conversation.
私はその会話に加わらなかった。 *

 

さとう三千魚

 
 

sometimes
at midnight

I open a photo book taken by that person

a few
I have

open the photo book of the smallest paperback

that person dead
that person

he left a picture of the people in Asakusa

there
my

grandmother

mother
father and an older brother

my sister and my distant aunt
country acquaintances

is

they are there
the people I have thrown away

at that place

they are talking about their hometown and old talk

I didn’t take part in the conversation *

 
 

たまに
夜中に

そのヒトの写真集をひらく

いくつか
持っているが

一番
小さな

文庫の写真集をひらく **

そのヒトは死んだが
そのヒトは

浅草にいる人たちの写真を残してくれた

そこには
わたしの

祖母や

母や
父や兄や

姉や遠い叔母や
田舎の知り合いたちが

いる

そこにいる
わたしが捨ててきたヒトたちだ

そこで

彼らは
故郷のことや

旧い世間話をしている

私はその会話に加わらなかった *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

** 鬼海弘雄「世間のひと」ちくま文庫 のこと

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

鬼滅の刃

 

工藤冬里

 
 

肩幅のないちぐはぐの後、役者みたいな
奥まって霞んだ目なのでメンタルに影響出た
奥まった緑青の
芒化した枯泡立草の原の向こう
託された最後の一葉の前景を曇らせ
難破する視線
左右に轟音行き交う冬の草刈りの不自然
ホラーの監督は皆馬鹿だ
算盤を覗くと暗黒
偽の情報が左から出て窓を塞いでしまった
どうすれば逃れられるかシンプルに考えよう
出口は全て非常口
こんな顔でいいんだろうか
ある分野に関してはよく知っている
それにしてももう飼ってはいけない
死ぬから

今は近くにしかない
自分が時間
空地が時間
自分は他者に対する回路を適用した概念の反映
人を愛するように自分を愛するように人を愛する
時間は人類が使うためにある
脳はニューロン同士を繋ぐシナプスに残された過去の痕跡の集まり
未来の痕跡が存在しないのは過去のエントロピーが低いから

egg on 唆す
ぴったりのタイミングで
貰った
緊張
小声で
震えながら
消え失せる
繰り返し読む
力が低エントロピーの果てから
逆流する
コロナは治っても肺炎が残って
力の無さの中で
自殺したデリダ
アルツの介護でパニックを発症した
いろんな人と発症した
声をかけて
希望を持って生きる
内から時間が湧き上がる
誰が設計したかは
冷める過程で染み込む
地上の事柄ではなく

 

 

 

#poetry #rock musician

メイド・イン・ジャパンの底知れない凄さだよ

 

駿河昌樹

 
 

高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が
不可能とわかったのは
ごたごたした2020年でも
日本の息の根への最高のトドメのような気がする

液体ナトリウムで冷却する構造の「もんじゅ」は
放射能を帯びた
この冷却剤を抜き取る設計になっていないと
わかってしまったのだ

液体ナトリウムは空気に触れれば発火する
水に触れれば化学反応して爆発する
この液体ナトリウムを抜き取らないことには
その後の廃炉作業は全く進められない

最初から廃炉を一切予定に入れずに
設計し完成させたというのだから
お見事この上ない日本文化というしかない
メイド・イン・ジャパンの底知れない凄さだよ