ホワイトボードの青い文字

 

辻 和人

 
 

ホワイトボードの上を
カシャクシャ
走り回った
ミヤミヤの指だ
「赤ちゃんたち夜まとめて寝るようになってきたし
1回分を増やして夜中のミルクやめましょう。
ミルクの量の目安変えておくね」
書かれたばかりの青い文字
最後のミルクは午前1時で次は朝の6時か
こちらもやっとまともに寝られるようになるな
ホワイトボードに記された一日のスケジュール表
かずとん村開設とともに
ミルク一日8回、1回60gで始まった
沐浴は午後3時
夜のシフトは早番20時-1時半と遅番1時半-7時
午前4時に目覚ましかける
手足突っ張らせて
ぎゃおぎゃお泣くコミヤミヤとこかずとんに
抱っこ抱っこオムツオムツミルクミルク
哺乳瓶洗って熱消毒
真っ暗な中ぼんやり光る深夜の電子レンジぼんやり眺める
こんなスケジュール表を
カシャクシャ
書いては消し消しては書いたのは
いつもミヤミヤの指だった
ミルクの量と回数に沐浴、大人の食事に入浴、遅番早番の入れ替え
ねむいねむいミヤミヤの指が
カシャクシャ
カシャクシャ
ミヤミヤは管理者なんだ
管理者は責任おもいおもい
体重の成長線と育児書を見比べて
ミルクの量を足っし足っし
ねむいねむい
カシャクシャ
ああ、それに比べりゃぼくなんかお気楽なもんだ
ミヤミヤが書いた青い文字の言う通りにしてればいいんだから
今日、午前1時半にあがれるミヤミヤが
暑い夕陽を浴びながら
振り向きざまに大きなあくびを一つ
それから夜中のミルクの中止を伝えてきたんだ
一日6回・1回160g前後が目安
すうすう夕寝してるコミヤミヤとこかずとんは
かずとん村開設時から体重3倍以上
沐浴が7時半に変更ってことは
ぼくが入浴してそのまま沐浴させるってことね
夕ご飯作るからさ
少し横になって仮眠でも取ったら?

足引きずるみたいに2階に上がるミヤミヤ見送って
ホワイトボード改めて見る
夕陽てかてか跳ね返して
おりょおりょ
青い文字が
走って
回ったよ
ねむいねむいを跳ね返して
カシャクシャ
走り回ったよ

 

 

 

アタミ

 

廿楽順治

 
 

町の
左はんぶんは死んでいた

あたらしいパン屋があり
となりに葬儀屋がある

人影は 建物のさかい目で
足が切れていた

(寝返った将軍のように)

髭をはやした花屋の主人が
店員と仕入れのことを熱くはなしていた

その顔のはんぶんは
もう なくなっていて

くらすことが
どこか遠くでたたかうことのようだ

(けっして思い出されない空)

わたしたち家族は
その左側の川をわたろうとして

まだわたれない

 

 

 

河口まで歩いた

 

さとう三千魚

 
 

今朝
玄関の

自転車の
サドルの留具が壊れていた

河口まで
歩いた

小川の傍を歩いた

オオバンたちが水面に浮かんでいた
クチバシが白い

水面が
光ってた

キラキラ
光ってた

富士が青空に浮かんでいた

半島が青く見えた
海原にタンカーが浮かんでいた

海浜公園では
デイゴの木の枝葉が切り払われて

立っていた
デイゴの花の下には逢瀬もあったろう

椰子の葉が風に揺れていた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

午後、ジョギングした

 

さとう三千魚

 
 

女はエアロビに行かなかった
誕生日だから

水曜文庫の近くの松柏堂で買ってきた
どら焼きと胡桃饅頭を

女に渡した

映画にも
温泉にも

行かないと言う

海へジョギングしようか
女に言った

すぐに
引き離され

遠く小川の傍を女が走って行くのが見えた

河口に
女はいなかった

白い富士が青空に浮かんでいた

海浜公園までゆっくり歩いた
公園では親子があげる凧が高い空で風に震えていた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

イーロン・マスク、騒ぎ立つ

 

佐々木 眞

 
 

風が立つ、風が立つ
いざ生きめやもと、風が立つ
いざいざ生きよと、風が立つ

家が建つ、家が建つ
赤、青、白の家が建つ
あっという間に、家が建つ

八雲たつ、八雲たつ
八岐大蛇がそそり立つ
須佐之男命、奮い立つ

色めき立つ、色めき立つ
政権交代できるかと
他力本願、勇み立つ

腹が立つ、腹が立つ
毎日100万ドルを配るやつ
イーロン・マスク、騒ぎ立つ

面影に立つ、面影に立つ
亡き父母が、ぞぞ髪立つ
夢枕獏、夢枕に立つ

弁が立つ、弁が立つ
口から先に生まれたる
論破小僧、浮かれ立つ

上に立つ、上に立つ
腕は全然立たないが
悪運強く、白羽の矢が立つ

倉が立つ、倉が立つ
黄金虫が、蔵立てた
息子に水飴舐めさせた

角が立つ、角が立つ
目立ちすぎると、文句言う
消息絶っても、ぶつくさ、ぶつくさ

俵屋宗達、筆が立つ
フリーマンは、役に立つ
乱麻を断った、逆転サヨナラ満塁ホーマー

門松が立つ、門松が立つ
日本全国、正月だあ
今年はめでたい、甲辰(きのえたつ)

 

 

 

三十年寝太郎

 

佐々木 眞

 
 

おらっち、三年寝太郎、改め三十年寝太郎。
ついこないだまで暑くて、暑くて堪らなかったのに、いまはもう寒くて、寒くて堪らない。
人間なんて、おらっちなんて、勝手なものだ。

「そうだ、ペルルに行こう!」
と龍宝部長が叫ぶので、みんな仕方なく西武新宿線の鷺宮にある井口君がやっている小さなバアへ行った。

アルコールなんぞ一滴も飲めないおらっちは、なぜだか寒くて、寒くて仕方ないので、井口君の奥さんが出してくれた2枚の布団を上からかけて、まるでヤドカリみたくソファーに横たわっていると、

「おらおら寝太郎、そんなとこでなに寝てる。今度は銀座の太牙へ行くぞ。荷風散人がやって来る頃だ」と、今や酒呑童子になっちまった龍宝部長が、ジャック・ダニエルをラップ飲みしながら叫ぶのだ。

荷風散人なら仕方がない。
もしかすると、30も年下の、花も恥じらう美人妾のお歌さんの、花のかんばせを拝めるかも知れん。

と思うと、可笑しなもので、おらっち、げんなり困憊した皆の衆の先頭に立ち、帝都タクシーを呼び止め、意気揚々と乗り込んだが、お目当ての太牙には、お歌嬢どころか散人の姿さえ欠片もなかった。

おらっち、しょうがないから、太牙の支配人から借りた2枚の布団を頭からかぶって、まるでヤドカリみたくソファーに寝そべっていると、そのまま3年どころか、30余年も眠りこけてしまったらしい。

んで、突出する陰茎が宝石箱を蹴飛ばしたようなある朝、いと爽やかに目を覚まし、あたりを注意深く見まわしてみると、今井専務も、龍宝部長も橋本&今中両次長も、前&若林両課長も、前田夫妻も、青木夫妻も、永原さんも、柿崎さんも、金原さんも、矢島さんも、

善太郎君も、安永さんも、酒井君も、毛塚君も、その他大勢のリー(ウー)マン諸君も、みんなみんな姿を消して、もちろんあの憎々しい金髪大統領も、軍事オタクの裏金党首さえも、全国各地の原発や米軍基地と共に、姿を消していたのよ。

 

 

 

雨、浜辺に

 

さとう三千魚

 
 

朝には
女がクルマで出掛けるのを見送った

それから
浜風文庫を更新をした

何本か
メールを送った

それで午前は終わった
珈琲を

何杯か飲んだ
フジ子・ヘミングのピアノを聴いた

フジ子・ヘミングはあまり
聴かなかった

流行りすぎるものは
聴かなかった

亡くなって
いま

ハンガリー狂詩曲を聴いている
この正月は四国のクルマ旅が叶わなかった

用宗漁港で
初日の出を見た

浅間さんにお参りした

正月休みの終わりに
女と

三嶋大社にいった
いないモコのお守りを買った

函南で
お風呂に入った

今日は朝から雨が降っている

雨の
午後に

浜辺に出かけた
クルマのなかで憂歌団を聴いてた

憂歌団は
若い頃

明治大学の学祭に聴きに行ったことがあった

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

ファとラは羽虫の囁き

 

一条美由紀

 
 


<ある殺人者のポエム>
小さな箱の中から覗き見てるような
自分と無関係に感じる世間
他人ごとのような僕の身体は
冷えた炎を放っていた
君の見開いた目に熱く流れる血の映像が浮かぶ
ピクピク動くデコネイルがとても愛おしい
甘ったるい歌詞を切り刻み
ナイフを舐めた時に走る絶頂感を
今君に教えたい

 


すべてを話せど足らず
すべてを聞けどわからず
捨てたものを思い出して
また捨てる
複雑さはいつまでも簡易にならない

 


昨日の北の空は
波立っていた
私は彼方までは泳げなかった
ただ恨めしく仰ぎ見て嫉妬するだけだった
人は叶えられないものほど
より強く望み
死してさらに肉体に求める