工藤冬里
アジサイが暗い紫になる土壌だった
力は林道に流出した
口が裂けても言えないこと
材木ですじゃろ、に変換してみせた
剥き出しが曝け出しではなく脱ぎ捨てなら
蛞蝓は蝸牛の割礼だった
愉悦の土砂の流出した浦で
私が流木のように近づいてきた
避難勧告の浜辺で
私たちは私たちの肝臓を探した
アジサイが暗い紫になる土壌だった
力は林道に流出した
口が裂けても言えないこと
材木ですじゃろ、に変換してみせた
剥き出しが曝け出しではなく脱ぎ捨てなら
蛞蝓は蝸牛の割礼だった
愉悦の土砂の流出した浦で
私が流木のように近づいてきた
避難勧告の浜辺で
私たちは私たちの肝臓を探した
宝のある所は池であった
水は濁りににごり
いのりの影さえ映らなかった
花でも鳥でもなかった
膿んだ毒は全身に回った
ボーダーを着た女にとっては
遠近法などどうでも良かった
斜めのストライプのネクタイは
ネクタイではなかった
デザインはもうどうでも良かった
ただおかしみがあった
土が土に戻るだけなので
死んだら嫉妬もない
ひとごろしのエンターテインメントの中で
ぐっすり眠るには濁りが必要なのだ
羊という字はリスカを想わせる
白と紫を基調とした挿絵の中の 海鞘色した私達は捲られ
さまざまな色かたちの眼鏡の フレームだけが残された
だから「眼鏡のドクターアイズ 新居浜店」の手持ち無沙汰なあなたは
白と紫を基調とした余白の中で
今はあっても将来なくなるもの を拭いているのだ
あなたはあなたの若さを差し出す
規約より原則に従順な羊として
見えない人が見えるようになり
見える人が見えないようになるために
私達の海鞘色の頁は捲られて
もはや死はなく
あなたは フレームだけになった嘆きと叫びと苦痛を 拭く
自然に二部に分かれた厚みの中で
蛍光燈の映る瓢箪
三年居た町に
書き送る 管理
話しかけられてはいけないことになっている男が座っているのだが
数段上に思える
何人居たかを考えるだけで 地表から深まる理解
霧のダブリンで I was sleeping と唄う
歌は
自然に二部の厚みとなって
蛍光燈の映り込む陽焼けした瓢箪が
三年居た町に
書き送る 管理/家政の運営 οἰκονομίαν [oikonomian]
という言葉
何人居たかを考えるだけで 地面から深まる
低くない 管理
管理 は低くない
地面から深まる
* *
自然には分かれない合唱の中では
週末の時計は考える以上に終わりを差す
きざしは常に単数形である
戦死者はたった一億人
地震はハイチ22万人の方がひどかったのに
黴が生えたと文句を言う
流行が病で不法
背中のアヒル口の中が黒い
複数系は普通以上に早く溶ける
あと二分の体制
黒を構成するいくつかの減法混合原色が
眼球の周りで分かれ
文字の止め撥ねや頬の曲線の端で顕わにされる
歌は自然に二部に分かれ その厚みの中で
テカる瓢箪
話しかけてはいけない数段上の
スーダン上の
場面は地表から深まり
オイコノミアンの中で言わしめるだろう
私は世を征服したἐγὼ νενίκηκα τὸν κόσμον.
[egō nenikēka ton kosmon]
I conquered the world.
「私は」って「エゴ」っていうんだ
エゴラッピン ていたね
蛍光管が映り込む日に焼けた瓢箪
歌は
自然に二部の厚みとなって
昔はここしかなかった
箪笥には何もなかった
分業を見せられ
なりたいものになると言われ
薔薇園には行かず
不妊の女は歓声を上げる
昔はここしかなかった
ここからものを取り出していた
立ち往生できるだけ 幸せだった
何度でも名を忘れ
なりたいものになると言われ
びよびよ鰹には行けず
見たことを話し
聞いたことを行う
昔はここしかなかった
隘路を歩いた
アッバー
隘路を歩いた
片目でも 髪の毛がなくても
似顔を描いた
なりたいものになると言われ
サファイヤを土台として置く
箪笥を開けると
新聞紙が敷き詰められていた
二つの道しかなかった 見渡すかぎり
挟まれた彩度の中
牛蒡の身長で立つ
フリンジには青紐が渡してあって
この道、と言われていた分離divergenceは
揺れ戻しの後の
酸いdressingの中
油のように浮いてくる
画面の僅かな乳濁の中
他国の刑法で裁かれようとする
among the aliens
髪が黒すぎるカラスみたいだ
いかに離れ落ちたかを具に見
野獣にやられるさまを具に見
抽象する
逃げ道がない
輝度温度入り乱れ
曲線も直線も平面に入り乱れ
挟まれた彩度の具に
ワイド画面も狭められる
as an alien among the aliens
頑なに守る領土
頑なに付け足す領土
合挽きを押し固めて焦がした黒が
朝ごとに配られ
野菜はなかった
野菜のない憐れみ
心の中のかわいい気持ちに対して
流れる
流れない
孵化を窺う水の中から
既に発光を始めた腹
わたしは目に触れる
あなたの眼球に触れる
あなたを放流せよ
ひかりを飲め
コンパスの壊れた黒から
灰色の襞が流れ出ていた
ネパールの 黒い50度の溜まりから
流れ出ていた
晴天乱気流にぶつかり
高度がいきなり50メートル下がった
インド側に首を落とす
いつ突き落とされてもいいほど愛しているので
役割語の声色を抜いた
シエラレオネの
赤と黒の
蛸漁
以外を切り捨てる夢想が不可能なので
正しいことを行いたいと黒の背中に歌い掛ける
黒から四つの川が流れ出ている
第一の川の名はピションという
その辺りは金を産出する
食い尽くす温度を正確に測り
温かさとの距離に明確に絶望する
私達は誰であれ、ボロアパートに住んでいる
将来修復されるのか、日々修復されるのか
今の気候なら 永遠に続く見えない虫の頭部と胴の隙間を
バックネットから我を忘れて覗き込んでいることも出来るだろう
決してあきらめないのはカモミーユの花
温度の中に浮かぶと透明だ
旗を待つ裏日本から心を広げようとするが
嗄れ声の雨の中 ヴェールが直線を覆い
島々の閉じた線が 解(ホド)けていっただけだった
瀬戸内海はこの温度のまま、池のように干された
泳いで渡るための直線は 寸断された
海の温度に従っていたので、もう名前を思い出せなかった
2011年の5月に、じぶんの葬式の段取りだけはしておかなければならなかった
身辺整理とアーカイブ化が交わる一点を現在地とし
ナビは海底の道を具象しようと彷徨う
家がない
白い霊柩車の行き交う地上に昇るまで
この航行の温度が家だ
線は強迫症と闘い
スナメリを見ては引き返す
温度の瀬戸
5000円くらいのブルゴーニュだったが捨てるのだと言った
かなり黒ずんで敗血のようであった
飲んでもう天に行こうかと冗談を言った
言葉は人間になった
既成の調性を捨て とラジオが言っていた
もう何十年言っているのだろう
挨拶は腰を浮かして
身代わりと等価が右から左へ私の体を透過していった
残るのはブルゴーニュの香だけである
こうして1986回思い出したのだ
食べず飲まないsupperは終わった
pink moon は 頭上に褪せた
代わりの人を探した
代わりの人は必ず見付かった
外に一人 内に一人 と
対応しているのではないか
頸椎にニッケル板を挟み
つばめはよく造られている と 呟く夫も
前の町に居た
痩せさせるために
奥羽街道を二週間北上した顎の肉も
三原の雲の中で直線を引かれた
細い目たちの 激流の
名残りの真雁は魚になり
川は海岸と平行に走り
最後まで海と繋がらなかった
トレーナーのトレーナーのトレーナーは
肩がなかった
アトピーの手袋は
まるで癩のようだった
銀髪と海底図は平行に波打ち
兎蛞蝓はキャベツの演壇を裏から透かせた
靨の民族は帆を下ろさず 島を躱す
幾つもの「トレーナーが猿」の王国を打ち破るためには
島を見ず 航路を追う
きみの代わりを探すために
そのアルゴリズムを通して
かなしみは抽象されるか
死後硬直の煎餅は
地中で平面となり
窓のないタブローは
私の線を待つ
暖色系の濃淡で構成された
意外な夕方
凱旋行列の甘い香り
牡丹色の傷
公正に殺されたい
濡れ衣を纏うのではなく
有刺鉄線を冠るのではなく