松田朋春
猫は日向で眠っている
夜更けには出かけて
首輪をなくして帰ってくる
生まれてすぐ
避妊手術をして
恋からも未来からも
自由になった
毛皮で傷がわからないから
自由に生まれてきただけにみえる
そうしよう
男も女も
生まれたらすぐ
100年もすれば
おろかで卑怯な国が
すっかり片付くのだ
猫は日向で眠っている
夜更けには出かけて
首輪をなくして帰ってくる
生まれてすぐ
避妊手術をして
恋からも未来からも
自由になった
毛皮で傷がわからないから
自由に生まれてきただけにみえる
そうしよう
男も女も
生まれたらすぐ
100年もすれば
おろかで卑怯な国が
すっかり片付くのだ
大切なものを奪われた
夏の終わりころ
立つこともできず
水を飲むことすらできなかった
たばこだけは吸えた
床にころがって瑠璃の煙を見ていた
そんな人がいたとして
復讐をしなければならない
奪う人は男で
あらゆるものを持っているだろう
人が生み出す本当につまらない魅力の
品々はもちろんのこと
大きなさざ波がヤスリのように空をけずる湖や
わたぼこりにさえ宿る祖先の思いやりや
まばたきすらしない女の微笑みや
ヒスイ色の鸚鵡さえも持っていて
それは300年生きるのだろう
だれひとり思いつけもしないような出来事も
結局はその男のものだろう
それでも復讐をしなければならない
それがわたしだとして
わたしはその男の
大切なものを奪わねばならない
だが奪われることすら
その男のものなのか
空は奪われたことのないものの目には
決して見えない青色をしているのに
わたしは鸚鵡の前でそう話していた
鸚鵡はわたしと同じ顔になり
時に男の顔に戻りながら
言葉を繰り返した
わたしはそれほど長くは話さず
ただとても人に言えないような
恥ずかしい言葉の限りを
鸚鵡に教え
その目の色を確かめて
引き上げた
ほどなく鸚鵡は男の窓から放たれた
鸚鵡はわたしの教えた言葉に
夢中だったのだ
男の目を見て話し続けたことだろう
恥ずかしく
恥ずかしい言葉の限りを
とても人前に出せないような
うれしそうな素振りで
湖のほとりの森で
鸚鵡は今日も
恥ずかしく
恥ずかしい言葉の限りを
くりかえす
男が手放さざるを得なかった
世界の最初のほころびとして
その死後100年経っても
鸚鵡は復讐に夢中なのだ
電車で席を譲ったけど
座ってもらえなかった
窓の外をみてなぜか
わたしの死んだ犬は誰に席を譲ったのかと考えた
亡骸を撫でても
毛並であたたかく感じた
今までで一番よく眠っている
きれいな顔を見て
死ぬことの実感がやってきて
寂しく感じた
空っぽの席を感じる
いつまでも
かといって
死にたくなくなるのは
もっと嫌だ