縄文語がいろんな民族語と語り合って日本語が。

 

鈴木志郎康

 

 

ちょ、
ちょ、
ちょ、
ちょっと、
ちょっと、
縄文人が使ってた
縄文語、
それが
原日本語だってさ。
その一音語って、
を緒や矢み箕ゐ井。
二音語
いとひもなはつなあみ。
そして、三音語に加えて、
助辞、助動辞の
三千年、四千年。
その原日本語が
新来の民族の持ち込んだ諸言語と
語りあったってさ、
そうして、
今の日本語が
出来たんだってさ。
藤井貞和さんが書いてるさあ。
頭の中に青空が、
スーッと広がるっす。
ひい、
ちょっと。

陽射しがめっきり春らしくなってきました。
藤井さん、
しばらくお会いしてないけど、
どういう日々を送っていられるか。
ひい、
ちょっと、
ひい、
ひい。

 

 

注:この詩は藤井貞和さんの「日本文学源流史」からの引用で出来てる。

 

 

 

引き出しを開ける

 

白鳥信也

 

 

引き出しを開ける
ファイルをかたまりごと机にあげる
たしかにここに入れていたはずだけど見つからない
ここでもない次のでもないその次にも別の引き出しを開けるファイルを出してパラパラとめくり探すタイトルを黙って読み上げる見慣れたタイトルが次々ととびこんでくるこれでもないそっちでもないたしかに言葉を精査して作成したはずだ抽象化したうえにいくつか意味を包含させた記憶がある引き出しの奥にはさまっていないかガサガサ音をたてて探すここでもない引き出しの下にも落ちていない周囲の人間がなにをしているんだという視線を放っている気がする身体がカッカしてくる集中しなくてはだけどみつからない別の引き出しにもないどこにはさんだのか思い出せないこんなときはラクダだゆっくりと安全に進むに限る書類戸棚だろうか割り当てられた棚の扉を開けてファイルを引き出してめくり探すここじゃないここにあるのは昨年度のものだここにあるはずがないロッカーだろうかいやあそこにあるのは分野が違うほんとうに書類を作ったのだろうかあやふやになってくるラクダのようにいななきたい存在しない書類を探しているんだろうかそんなはずはないそれとも夢だったのだろうか自分を信じられる信じられない書類はあるないほそくうすいすきまを記憶がはばたいて遠のいてゆくあらかじめうしなわれた書類をさがしているのか書類が僕をふりきってコーナーを曲がって姿を消す消える場所はアラビア半島だ汗が流れる喉が渇くここは砂漠だ手の中から砂のように書類がこぼれ落ちてゆく暑い汗がぽたぽた流れ落ちファイルの山ファイルからこぼれた書類がひろがってゆくここは砂丘の底だ熱い喉が渇く砂丘の脇の茶碗を手に取るとお茶はすでに消失している茶碗の底には逃げ水の跡がくっきり書類も逃げたのだ喉が無性に乾くとぎれとぎれの記憶の書類を探している蜃気楼のように書類の幻影がみえては逃げてゆく砂の山のなかから紙らしきものが急いで砂を掘り手にすると書きつけらしきものがあるけれどもどこか知らない国の象形文字のようなものが踊っているあたりはざらざらと砂粒がまいあがり熱風がふきつける遠くで砂塵がうねりながらこちらに向かっている砂嵐の予感がみちている

 

 

 

へえ、詩って自己中なのね、バカ詩人さん。

 

鈴木志郎康

 

 

トロリン、
トロリン、
トロリン、
ヘッ。
ある男を、
その連れ合いが、
なじった。

ヘッ。
バカ詩人!
そっちじゃなくてこっちを持ってよ。
こっちのことを考えてね。
詩人でしょう、
あんた、
想像力を働かせなさい。
バカ詩人ね。
男は答えた。
仕方ねえんだ。
書かれた言葉はみんな自己中、
言葉を書く人みんな自己中、
詩人は言葉を追ってみんな自己中心。
自己中から出られない。
自己中だから面白い、
朔太郎なんか超自己中だ。
光太郎も超自己中だ。
えらーい、
有名詩人なんぞは、
みんな超自己中なんだぞ。
書かれた詩はみんな超自己中だ。
超自己中だからみんなが読むんだって。
何言ってるのよ。
それとこれとはちがうわよ。
バカ詩人、
バカ詩人、
バカ詩人。
へえ、
詩って超自己中を目指すのね、
バカ詩人さん。

ワッハッハッ、
ハ、
ハ、
ハ。
その男と、
連れ合いは、
揃って笑った。
トロリン、
ヘッ。

 

 

 

 

爽生ハム

 

 

街に付箋を残す
1人であいさつへ行こうとする
落し物をする
そんなことないよ
非生産になる
陸はないよ

地圧の凹みを水の魔物とする
移動する態度
私はココになる

本質の肉づき
転がる煮物、ハダシの利点

その物語の顔しかないのは…

…どうなの
まあるい
初動  移動
かえって規則正しい
モーションがふとした落とし穴にはまりまして、息の逃げ口に文化が入場、いや末端が動く。
矢印は宙域だと思われる。
しばらく待っても
実存しないジャージとジャージのあいま、セットアップと違う、
衣服と衣服の切れ目。そこに
遅遅の藻のミルフィーユ

客の目も物語に容れてくりゃよ。
即答しても過去だって、

かまえる事なく、よそおう事なく
流通されてきた食材のように
体重移動する
不具合で安心な方へ道路を敷く
と、そこかしこに
そこにしか成しえない
数えきれないほどの林檎。
私の変容でしかなかった。
底でしかない …どうなの

移住地から来た衣服の袖についた鈴の音色を、名づけるのには時間がかかった。
→鈴 こんなにも空洞が重要なのかと、思うと、

私も真空にはモザンビークまでもすら容れてしまう
切れ目にイク

大人の嗜み。片方が矢を放つ
意識を分散せずに平等の暴発で、高め続ける。片方に矢が刺さる

そっか…

後方に手は伸びづらいから、いつも反動とかに頼ってしまう
けどさ、目を体の筋通り
ってのは背骨通りに

乗せて上を向けば
後方が出現した気がしないかい
目線が邪魔になるので、
フラットにしてみました。

場所が違うのなら
前方と後方をなくしてみました
後退りする時、
君は内股だねと言われないように
大丈夫です。今のつま先は
瞬きしてませんよ

 

 

 

夢は第2の人生である 第36回

西暦2015年霜月蝶人酔生夢死幾百夜

 

 

佐々木 眞

 

 

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ヤクザの家に生まれた私は、さるアパレルメーカーに入れられたが、そこの社長でもある父親は、私の名前であった吉田一郎を、翌年は吉田次郎、その翌年は田中三郎、その翌年は天草四郎と次々に改めさせ、出世魚のように出世させようとしていた。11/1

父は「ヤクザにも地域社会への貢献が必要だ」と称して、毎年一回「酒池肉林の会」を開催し、近隣の男たちに酒を振る舞った後で、一家の女たち全員を裸にして裏山に放ち、やりたい放題にさせていたので人気があった。11/1

面積1万ヘクタールの敷地に、私たち一家が経営している玩具工場とサーカス小屋がある。工場は金属はいっさい使われず、すべてが木でできていて、やはり木だけで出来ている玩具が製造され、サーカスの呼び物はお馴染みの空中ブランコだった。11/2

熊さんと八さんが道路の真ん中で睨みあっているうちに言い合いになり、突然熊さんが八さんの頭を、八さんが熊さんの頭をかち割ったので、大通りは血まみれになった。11/4

イーストロンドンの洒落たカフェには、緑色のウナギが飼われているのだが、ちょっと油断すると悪ガキどもが盗みに来るので、店主はいつも目を光らせていた。11/4

地球に帰還する宇宙船が時速5千キロになった段階では、地球から迎えに来た大道君が、時速3千キロに減速した段階では、門君がその操縦を担当することになっていた。11/5

毎年の夏の恒例となった映画撮影が、今年も始まった。南海に臨むリゾートにある監督の別荘に三々五々ここに集まった私たちは、極めて限られたスタッフだけで、極私的な長編映画をこれで7年間も撮り続けていた。

この夏も私は近くの基地にロケットで降り立った主役のエディ少年とエセル嬢を出迎えるために、おんぼろのダットサンで出かけたが、その光景は1年前となに一つ変わらなかった。お互いに一つ歳をとったという点を除いて。11/5

四越デパートでやって来たエレベータに飛び乗ったら、それがどういうわけだか2人乗りエレベーターで、中にはでっぷり肥ったいかつい中年男が乗っていたが、仕方なくお互いに我慢しながら1階まで下りていった。11/6

公演をキャンセルしたカール・ベームになり変って、大天使ガブリエルの私は、短い指揮棒を右手に軽くつまんでウイーン・フィルの前に立ち、コンマスのゲルハルト・ヘッツエルに合図してから、ブラームスの交響曲第1番ハ短調作品68の第1楽章の冒頭を開始した。11/7

荒野の真っただ中で、私は無くしたライフルと銃弾が入ったガンベルトを拾ったが、それれはインディアンもとい先住民が落としたものだった。インディアンもとい先住民は、私のライフルを拾った白人を殺してそれを奪ったのだが、それをまたしても落としたのだった。11/8

金に困って往生していたら学生時代の友人にぱったり出くわしたので、これ幸いと窮状を打ち明けたら「万事俺に任せろ」という。友人はその場で茂原印刷の茂原社長に電話して、「いつものようにあれを印刷してくれ」と頼んだ。

「あれって何だ?」と尋ねると、「ほらこれと同じ偽札だよ」と言って、本物そっくりの1万円札を見せた。「2時間ほど経ったら、茂原印刷へ行ってみな。出来たての新品が100枚首を揃えているぜ」というので、白山下まで行ってみるとその通りだった。

やったやったヤシカがやった!と鬱から躁に舞いあがった私は、同じクラス仲間のかつてのマドンナであったつうちゃんとまりちゃんを電話で呼び出し、久しぶりに酒池肉林の宴を開いてからピン札で勘定して、ご祝儀に2人に10枚ずつプレゼントしてらりらりらあんと帰宅した。

翌日のお昼ごろ、おいらは突然土足で踏み込んできた刑事に叩き起こされた。なんと、つうちゃんとまりちゃんが、今朝横浜銀行の窓口でおいらの渡した万札を、別の御札に両替してくれと頼んだ、というのだ。そこでおいらは「だから両家の御嬢さんは嫌いだよ」と呟いたが後の祭りだった。11/8

廃れた学校の校舎のような建物に着いた我われは、思い思いの部屋に荷物を運び入れ、そこで生活できるような環境を整えてから、遅い昼食をとった。隣の部屋には老母と美しい娘がいたが、一瞥をくれただけで、私は近くの町まで探訪に出かけた。

町にはひとっ子一人見えず、誰も住んでいる様子がなかったが、駅舎には電車が停まっていたので、既に動き始めていたそれに乗り込んだ。普通の電車と違って、開閉するドアがまるで自動車のように外側に向かって大きく開かれているから、簡単に飛び乗ることができたのである。

電車の中には20代の学生風の可愛い女が座っているだけで、他には乗客が一人もいない。まもなく電車が駅に着くと彼女が降りたので、私も降りて後をつけていくと、大学で入学式のパーティをやっていたので、なんとか彼女に話しかけたいと思ったが、妙な男に付きまとわれているうちに女は姿を消した。11/10

どこかの国の、どこかの街の、どこかの交差点で見かけた昼顔のように白い貌は、確かに私が昔恋した懐かしい女だった。11/11

慶応を出たスポーツマンのK氏が、若くして突然亡くなってしまった。彼は仕事はあまり出来なかったが、性格が温和にして明朗闊達だったために、大勢の人から愛されていた。また彼は大食漢であったが、私はこの人ほど美味そうに食事する人を知らない。

杉並の自宅にお通夜に行くと、真っ暗な闇の中に大きな提灯がぼんやりと灯っているだけでよくは見えなかったが、死んだはずのK氏が、家の前でその巨体を逆立ちさせながら「やあ佐々木君、お久しぶりですなあ」と声をかけたので驚いた。11/12

次回のテレビCMの企画会議が開かれたが、プロダクションの担当者がコンテ案を用意してこなかったので、電通の古川氏が激怒して叱りつけているが、そういうことがないように手配するのが君の仕事ではないのか?11/13

高原の牧場に立っているパビリオンに入ると、知らない男が演説していて、「この商品は外国人が一手に縫製しているから、これをすべて内製化すれば大きな利益を上げることができるだろう」と説いていた。11/14

この阿呆めが、と思いながら、ふとカフェを覗いてみると、リーマン時代の中島君や日隈君や斎藤君などのデザイナー諸君が、テーブルを取り囲んで談笑しているので、私は何十年振りかと驚きながらも懐かしかった。みなそれぞれあんじょうやっているようだった。

誰だか知らない人の家にいたんだが、2階からベランダへ出て、そこからどんどん下へ降りて行くと、レールの上に出た。やがて新幹線がやって来たので乗り移ると、先頭から2番目の車両で、そこには中学か高校の女子だけが乗っていたが、しばらくしてまた同じコースを逆にたどって、元の家に戻った。11/15

息子と一緒に大学のキャンパスで散歩していたら、久しぶりに黄揚羽が花に止まっていたので、パッと右手で捕まえた。すると今度は、別の花にルリタテハが止まっていたので、左手で捕まえて喜んでいたら、息子が「両手に蝶だね」と云った。11/16

田辺氏は「君、困ったときにはこの辞書を引いてみたまえ」と云うて「仏蘭西語にとっての外国語辞典」を下さったので、早速困ったときに引いてみたのだが、日本語すら容易に理解できない私ゆえ、仏蘭西語もその他の外国語もてんで理解できないのだった。11/17

ちょっと油断したすきに、長男がとんでもないものを口にしていたので、私は総毛立った。11/18

こうちゃんとけんちゃんは、それぞれに自転車に乗って、私より先に家を出て駅に向かったはずなのだが、いつまで待っても2人とも姿を現さないので、私はだんだん心配になってきた。11/19

A夫は空襲で怪我をしたB女を、防空壕の中で懸命に介護していたが、B29がその防空壕を直撃したために、2人とも死んでしまったが、両人は暗闇の中で不純異性交遊を行っていたことが、死後に判明した。11/20

さる編集者と次の小説の話をしながら十二所まで歩いてくると、葬列がやって来たのでよく見ると、私の親類の人の葬式だったので驚いた。11/21

その宝石を買うのは、大変だった。何時間も並んでからようやく順番がきたのだが、目の前に聳え立つ火山の噴火口から、赤青緑の珍しい宝石が次々に打ち出されてくるので、それを上手にキャッチしなければならないのだ。11/22

夢中になって両手を振り回しながら、ようやく緑色の大きなエメラルドを手にすると、そこには「魅せられたる魂」という文字が鮮やかに刻印されていた。11/22

「私がバッハを演奏する時には、空気滞留システムを使用します」と、その謎の女流ピアニストは言うので、「そんな話は聞いたこともない。どうぞお引き取りください」とホールの支配人は言うた。11/23

そこで私は支配人に、「スタインウエイにその空気滞留システムを設置するのは、そんなに難しくない。その新しいシステムを有名にする絶好の機会を逃がしては為になるませんよ」と、アドバイスしてあげた。11/23

Mcパーカ氏は、さる大富豪の好意で、自分のブランドショップをLAの繁華街に作ってもらったのだが、そこへ立ち入ろうとしたら、警備員に阻止されてしまったので、仕方なく裏口に回って屋根に上り、そこから梯子で中にもぐりこむしかなかった。11/24

帰宅すると井出君がいた。幼い耕君や健君と遊んでくれたようで、2人ともお城のてっぺんにのっかって、無数の爪を城下に捨てながら、楽しそうにしていた。11/26

軍団同士の戦は何日も続いたが、一進一退だった。今日こそは勝利をものにしよう、とわが軍が塹壕を辿って前線に肉薄したが、敵陣は空っぽである。ちょうど我々と入れちがいに、彼らはわが軍の陣地めがけて突撃していたのだった。11/27

わが図書館の分館では、2万冊の書籍を1)日本文学2)外国文学3)コンスチチューションの3つのカテゴリーに分類しているのだが、3番目の内容については誰に聞いても分からなかった。11/28

ところがまもなく本館と分館の図書館戦争が始まったので、私はまっさきにコンスチチューションのカテゴリーの書籍を、地下室のシェルターに隠匿した。11/28

2040年の4月に、4千万人の男女が築地市場に集合した。拡声器で入り口で渡されたチケットの番号を呼ばれた男女は、大喜びで抱擁し合っている。早朝からはじまったビッグイベントは夕方には終了し、誰もいなくなった。11/28

緑色のシャツを着た上司が、高倉健の真似をすると、まわりのお調子者の部下たちが拍手喝采していたので、面と向かって「なんだ、ちっとも健さんに似ていないじゃないか」というと、緑シャツはこそこそ姿を消した。11/29

東北の大牧場で、昨日から徹夜で馬やら牛やらを貨車にぎゅうぎゅうずめに詰め込んだが、送り主のリクエストに応えてそのすべての作業が終了したのは、そのまた翌日の夜中だった。11/30

遠路はるばる旅をして、ようやく我が社に来ていただいたお客様だというのに、営業担当者も私の上司も、挨拶すらしないので、私は「こら、お前ら、失礼じゃないか。席から立ち上がって、お礼をいうたらどうなんじゃ」と、怒鳴りつけた。11/30

 

 

 

テレビウンチャラ嫌だねえ、饅頭の半分くれた人がいいっす。

 

鈴木志郎康

 

 

ドッ、
ドッ、
ドッ、
ドッ、
ドッ。
頰を強張らせて、
手振りを揃えて、
連中は通り過ぎて、
行ったっす。
嫌だねえ。

テレビ、
テレビ、
ウンチャラ。

ゾロペタゾロ、
ゾロゾロペタペタ、
ゾロ。
アイロンの効いた、
同じ服の女の子たち、
ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、
通り過ぎて、
行ったっす。
気に入らねえっす、
嫌だねえ。

テレビ、
テレビ、
ウンチャラ。

今じゃ、俺っち、
テレビばっかで生きてるっす。
テレビの外のこっちじゃ、
俺っちの、
傍に来て、
饅頭の、
半分をくれた人が、
いいっす。

トッ、
トッ、
トッ、
トッと来たっす。

 

 

 

永遠の綿畑 ── evergreen

 

今井義行

 

 

睡眠導入剤を 飲んでいても
午前三時には ベッドを出る
わたしのこころはいつだって
弾んでいます 起毛の速さで

明かりは灯さないのがすきだ
手探りの感触に艶があるから

「早朝覚醒」は異状じゃない
ってことを実証していくんだ

交感神経の昂揚── それは
希望の時刻を待ち侘びる自然

健康を示唆する、と言われる
≪既定値≫ それは

此処では 「真実」 ではない

睡眠導入剤には 種が含まれている
麺麭が 発酵するような 種が──・・・・・

夜明け遥か黒光り繁茂する場
鎮まりかえった 部屋の膜間
此処では 脳髄が 転倒をする
意味なんて捻ってしまうんだ

わたしは、わたしの日常だけは、カスタマイズするんだ
それは普遍に関わっていること「人」人にはそれぞれの
呼吸の仕方 そのときの姿 輪郭が在るんだよってこと

連綿とつづく 「早朝覚醒」、それは 永遠の綿畑 ──
地平線まで輝く 常緑の低木 綿の樹々に 季節が廻り
渇いたその種から現れた無限のふわふわまるい純白の綿
綿畑は白で埋るというが脳内跨ぎで緑の綿毛の球面地帯

わたしが 蒲団に居た 短い眠りの あいだに
六畳間の畳は 常緑の綿畑の 球面宇宙に 覆われ 生育していた幸福
永遠の、綿畑 ── evergreen

わたしは 球面の感触を 頼りにして
べんじょへ行って べんは排泄せずに
とても 浅かった「早朝の夢」の 結石を捨てる
それから ──・・・・・
コンピュータを起動
闇が、ひかるひかる
コンピュータの画面
に陽射しが踊ってる

画面のひかりが 綿になって へやに 噴きこぼれる

永遠の綿畑 常緑の その空間の 彼方まで 入っていくよ ── evergreen

「言葉」を さまざまに
置いては崩し また
置いては崩し かたちを創っていくのです

永遠の綿畑 常緑の綿の 球面宇宙を 遊泳しながら 言葉を 摘むんだ

「早朝覚醒」は 言葉織る 時間なんだ
キーを叩き変換し 初めて出会う物達
その場こそ 覚醒なのだ
わたしの 今日 それは
その時間を満喫しようと
する事から異化されます

「早朝覚醒」の 温みを
朝の御飯にすることから

「いただきます」 摘んだ言葉 ひとつひとつを 溶かした バターで 味わう

≪プログラムの関連付け≫という 言葉が しばしば 画面に表示されています

無意識の関連付けが 詩に
意識化の関連付けが 詩に
対象化の距離感覚が 詩に
錆びた技術の駆逐が 詩に

そして 朝陽の 地上に 立たないと
わたしは 今日に現れない
わたしは 在っていこうとして
無心に 画面と抱き合う
書き直して、 読み直して、
ことばを 保存しては
それを繰り返して、やっと
落ち着ちいて 平和的な息をもらす

ほうら・・・・・・・・・・・・・・・・・・
衛星の高さからイメージしてみよう
わたしは居るが 居ないにひとしい
居ないにひとしいが
接近していくと わたしは居るのだ
地上には ≪ Ashes To Ashes ! ≫
なんて曲もあり人間流砂はうごめく

灰から灰 輝いている、輝いている、*一部歌詞対訳
灰から蜜 輝いている、輝いている、

あたらしい生が いつも、生きたいと願ってる

思い出されてくるのだった──・・・・
いまは 梅の枝は盛り
散歩道の 一軒の住宅の 塀に
鉢物の 白梅が飾られていた

顔を 近づけ 匂いを かいだ

わたしは
その白梅の一枝を 手折りはしなかった
けれど・・・・・・・・
網膜に それを
保存していって

瞬間保存した儘
忘れない内に書いておこうと
心から 想った

それは 春めいた 慎ましさ だったので

忘れない内に 残像の言葉
詩に 書いて おきたいと
言葉、書いて おきたいと

「し」は しあわせの「し」
「し」は しあわせの「し」

「詩」は しあわせの「し」

そんな想いがあるから 永遠の綿畑に ごろごろ転がって
パジャマが 真みどりの 毛玉だらけに なったって
再起動して、 再起動して、 再起動して、
セカイ ノ 画面からは 欧州からの 報せもおとずれる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【 2016 0110 】 英国の伝説的なシンガー
D・ボウイが 急逝したんだって、ね
米国では 必ずしも大きな成功をした訳では
ないのに 遺作は全米チャート 初登場一位
「駄目になった」と 散々に扱われてたのに
購買層 って、 げんきん だね
突然死 って、人を 神格化する

わたしは D・ボウイの未発表の音は聴きたい
死の前までに幾つものテイクがあっただろう

未発表の音は アレンジで捏ねられず
簡素な試行  或いは照笑い
或いは 苦笑いのもとに
囁きのような ナチュラルなヴォイシング
が 潜んでいることが多いんだ
商品にはなれなかったものを聴きたいのだ

ひっそり暮してるだけさ
淡々と 情熱を持続させ
「詩」を 立たせないと
わたしは日々を失うから

午前8時を 回った──

六畳間がいよいよ光っていって わたしはカーテン、窓を開けた
真冬の空は 壮大な円弧を描き 蒼の高速道路が 多層の螺旋を
重ねていた── あの路からは 何処へでも行けるのではないか

ヒトデのかたちをした 飛行機が 空をわたっていった
雲の海を まっすぐに 通り過ぎていった

ああ、もう一度だけ 蒼の高速道路に 乗って 湘南に還りたい
煩雑なTOKYOと 隣接していながら 海風にのんびり育てられた
わたしは。窓から 高速道路を 流している タクシーへ 合図した

≪ SYONANまで──≫

四季の折々に 固まりだった
わたしの 核家族は
神奈川県 藤沢市を基点に
しろい 細糸を伸ばす
国道路線図のように
散り散りになっていったんだ

母は藤沢市・丘陵の団地
亡父は豊島区の墓地のなか
妹は名古屋県・知多半島寄りの
自動車の 製造業圏
わたしは 江戸川区
荒川の傍 平井のアパート

みんな ばらばらに
かろうじて 細い糸で
霊的な通信を取り合っている
≪元気にしてる ? ≫
手をのばし揺らしていながら
≪家族の結び目って
それは本当に絆 ? ≫

わたしは独り者だけれど
それもまた核家族となるのか
独りの 核だから
抑えるものはなにも無い
資産を残す必要など無い
形見を残す必要など無い
墓石を残す必要など無い

家族、その子孫って なんだろう 蒼の高速道路、多層の螺旋、走って、走って・・・・・、

着いた その街は 波の寄せる 湘南、ではなかった
その街は・・・・・・ 球面宇宙に 覆われた 真鶴だった

真鶴の海のいろは 湘南の海のいろより 濃い
同じ相模湾に面していても 西ほど漁場が匂う

その街には わたしの 友人夫婦が住んでおり
彼は真鶴から東海道線で横浜銀行本店に勤務
長男23歳と長女19歳の 4人で暮らしていた

≪永井くん、急だけど 会ってみたくなった≫

何ひとつ 約束してなかったので 電話して
わたしは 彼らの自宅へ行き30年振りに会い
お茶を飲み「時間て速いな」等お喋りをした

友人夫妻は一様にわたしにこのような事を語った
「長男は細かなことを気にする子で まぁ緻密、
長女はおおらかすぎるほどの子で まぁ大胆」
わたしが「健康な子どもたちに恵まれたね」と
言うと 友人夫妻は一様に首を横に振るのだった

友人夫妻が言うには──「ほんとうは
長男の気質と長女の気質を足して2で割ったら
ちょうど良かったんじゃないかと思う」
「あるいは長男が女で長女が男に生まれて
きた方がうまく生きていかれるんじゃないか」

「そんなことはないんじゃない」とわたしは
言った たしかにわたしも長男で妹が居り
友人夫妻と同じようなことを親から何度も言われた
性格をくらべてみれば不可解という話ではないが

≪すきにヒトを造って 更に何をもとめる?≫

≪わたしからは まあまあの 人生と思える≫
と いうのが わたしの 言い分だった ──

≪その子たち は 愛の結晶、では ないの?≫

それから わたしは タクシーで バスターミナルに 向かった 蒼の高速道路、
多層の螺旋、走って、走って・・・・・、

バスターミナル のサンルーフから
あおぐと
2015の 夏のなごりの
空の
青さの
ちから
わたしは バスに乗って

降りた処は

── ここは、湘南か・・・・・?

バスターミナルの
ベンチに
数人の
少女たちが
きれいにならんですわっていた

── 人魚・・・・
── 人魚・・・・
── 人魚・・・・

蒼空と人魚たちの絵すがたが
そこには
おおきく
ひろがっていたのだった

舗道のカーヴミラーに映る
煉瓦の階段
辛子色の 落ちた葉の群れ
鳥たちの かわす
声音が成す テトラポッド

坂道をしたまで 降り行く
木綿の 衣服 の わたし

木綿・・・・ 永遠の綿畑 ── evergreen で

パチンコ店「パラッツオ」
ボード、 載せた VOLVO

わたしは 各駅停車の 小田急線に 乗りこんだ

「藤沢」までの 車窓の風景を ぼうと眺めてた
風の中 雲のような みどりの綿が 舞っていた

駅前の 南口の 周辺は
年に 一度の 市民祭り
デッキから見わたす市街
あふれかえる 市民たち

軒をつらねているテント
ステージでは
10代の女の子達のダンス
噴水の 隣りでは
路上のギターの ライヴ
信州からの出店には
冬映え、という名の林檎
地元産の お土産屋には
ふくろづめの
「しらすラスク」
がいっぱい積まれていた

ふふふふっ。 ≪ SYONANまで≫ 来てしまった
湘南 蒼浜には しぶきが 泡立っているだろう

けれど、老母居る筈の団地は 解体工事中だった

 

 

 

殺生

 

佐々木 眞

 

 

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虫を殺し、花を殺し、蝶を殺し、鳥を殺し、
いままでずいぶん殺生してきたな。
さすがに人は殺さなかったつもりだけど、
我知らず、ひとりやふたりはあやめてきたのかもしれないな。

恐ろしや、恐ろしや、あな恐ろしや、恐ろしや。

虫や花や蝶や鳥は、殺したくて殺した訳ではないけれど、
蛇だけは、おぞましくて虫唾が走り、
無我夢中で見付け次第叩き殺してきたな。
といっても全部で五匹は超えていないだろう。

だけどマムシに出くわしたときには
殺すどころか、おっかけられて
ほうほうのていで逃げ出したものだ。
マムシって、宙を飛びながらシュツと襲ってくるから恐ろしい。

恐ろしや、恐ろしや、あな恐ろしや、恐ろしや。

ところが上には上があるもので、
茂木のハローウッズで活動している崎野隆一郎さんは、
マムシを見付け次第とっ捕まえて、
皮を剥いでね、焼いてね、ムシャムシャ喰っちまうそうだ。

田舎の旧家にも時々巨大な青大将が出現して、
義母にその始末を頼まれた心優しい父はとうとう殺しきれず、
段ボールに入れて自転車に積んで、由良川に捨てに行ったら
途中でそいつが背中で長い鎌首をもたげて困ったそうだ。

恐ろしや、恐ろしや、あな恐ろしや、恐ろしや。

それにしても殺生をした後は、後味が悪い。
化けて出るんじゃないかと思う時もあったなあ。
化けて出てくるぶんには、たいして怖くないけど、
地獄に落とされたら、嫌だなあ。

私はいちおう無神論者で、この世はあってもあの世はなく
天国も地獄もないと考えているのだけれど、
もしも、もしも、万が一にも地獄があって、
閻魔さまに「お前そっちへ行け」と命じられたら、どうしよう。

恐ろしや、恐ろしや、あな恐ろしや、恐ろしや。

太宰治は子守のタケに雲祥寺の「十王曼荼羅」を見せられ、
地獄の恐ろしさに夜な夜なうなされたそうだが、
この世の地獄が、あの世の地獄におさおさ劣るものではないとは
まだその時は、知らなんだ。

ああ、知らなんだ、知らなんだ。
幸か不幸か、知らなんだ。
あの世もこの世も地獄とは、
まだその時は、知らなんだ。

恐ろしや、恐ろしや、あな恐ろしや、恐ろしや。