ズビズバー パパパヤー

音楽の慰め 第32回

 

佐々木 眞

 
 

 

カツオ「ねえねえ、NHKってまた偽ニュース流したんだって?」

のび太「へええ、ほんとかなあ。誰が言ってるの?」

しずかちゃん「トランプさんよ」

くまモン「でもあのひと、偽大統領なんだよ。知らなかった?」

シャイアン「へえー、そうなんだ」

トト子ちゃん「安倍さんも偽総理大臣なのよ」

おそ松「へえー、そうなんだ。知らなかったなあ」

ワカメ「ISって、偽イスラム国のことでしょ?」

サザエさん「そうよ。満洲国も偽満洲国なのよ」

イクラ「バブー」

イヤミ「ところで、あんた、誰?」

チコちゃん「あらま、わたしのことを知らないの。ボーっと生きてんじゃないよ」

ガチャピン&ムック「こいつ、偽チコちゃんさ」

チコちゃん「平成が終わったら、あんたらは死ぬといい。あんたらの死は近いぞ」

伴淳「アジャパー!」

アチャコ「滅茶苦茶でごじゃりまするがな」

黒柳徹子「チコちゃん、あーた、そんなひどいこと言うと、死んでも『徹子の部屋』で追悼してあげないわよ」

左ト伝「ズビズバー、パパパヤー、やめてケーレ、ゲバゲバ」*

 

 

*『老人と子供のポルカ』

作詞作曲/早川博二 歌/左ト伝とひまわりキティーズ

 

 

 

離ればなれに

 

原田淳子

 
 

 

Bande à part

青が煽るたそがれ
ふつふつ胸騒ぐ

クロワッサンの横顔
レジスタンスのカフェ・オ・レ
革命のブラックコーヒー

わたしの手足は闇いろの棘
冬の木枯らしにきれぎれに
剥きだされた苦い肌

わたしの海は銀の砦
飛沫をあげて
哭いているのは人魚ではなくて

Bande à part

ここはつめたくて
カフェオレも醒めてしまう

一千一秒の朝
幾億の夜
ミルクは溢れて

離ればなれでいることで
その惑星が光るなら
きっとそれがいいのだと
わたしに囁く銀の糸

降らすは銀の雨

青、煽る

哭いているのは

哭いているのは

 

 

 

空中に浮かぶ傘

 

神坏弥生

 
 

家を出ると外は雨だった
僕は傘を差し歩いた
駅へ行き
発車間際の列車に乗り
座席はいっぱいで
つかまって、立っていた
しばらくして車窓を見ると
雨が上がっていた
「見て!虹よ!」
車窓の向こうに大きく東から西へと
路線に向かって虹がかかっている
列車を下りると
また雨が、降りだしている
傘を差し、街へと向かう
UMBRELLA
とドイツ語訛りの男の声が聞こえた時
一斉に虹の向こうへ、街中の傘という傘が全部、飛ばされたことに気が付いた
気付けば街中を
行合い
向き合い
行き交う人々の
全ての色んな色や模様や絵柄の傘が
空中に浮かんでいる
その下で、人々がパイプをふかしたり、お茶を飲んだり、ダンスを踊ったりしてくつろいでいるのだ
雨のない夏を思わせる
たくさんの傘が、雨を遮断し滴ですら落とさず支えているのだ
雨音だけがしばらく聞こえていた
雨が上がってゆくとすべての傘は、空高く吹き上がっていった
街にあふれていた人々はもう誰もいない
僕だけが街の中に居る
空から僕の傘が降って来た
あおむけに開いたまま転がっていた
雨上がりの空
もう虹は見えない
夕日のない曇り空が暗くなってゆく夕刻
また、予感している
雨が、降ってくるのを

 

 

 

ラーメン店にふらっと来る

 

神坏弥生

 
 

仲間と飲んで、歌って最後の盛り場を出た後
深夜1時半からしか開店しないラーメン屋がある
ラーメン店に来たのは夜中、一時半だったな
店主はカウンターの暖簾に隠れて顔は見えないが
白い制服と二の腕と手が見える
「閉店は何時だ?」
と、尋ねるとぶっきらぼうに太く低い声で
「3時」と答える
赤い暖簾が目印で白くラーメン店としか書かれていない
「おまちどぉ。」
カウンターからぬぅーとだした腕先の手につかまれたラーメン鉢には、なるとやチャーシュー、シナチク、ネギが等がのっており
湯気は有るんだが、
酔いのせいか記憶がない
憶えてんのは、あのラーメン店の店主が
さっとラーメン鉢を下げて店の奥に引っ込んじまった
で、辺りを見ると三畳一間の下宿に居るが、布団は無い
こんな時間だが、知り合いの親しくあの界隈に詳しい奴に
「あそこにラーメン屋ないか?」
と尋ねても、「そんな処に、ラーメン店は無い。それどころかそこで昔、人が死んだんだよ。おまえさぁ、終電ぐらいまでに帰れよ。こんな話なんだけどな、夜見のものを食ったら帰れんて知ってるか?」
恐ろしくて、黙って電話を切った
窓から夜鳴きそばのラッパ吹きの音がする
窓を開けても姿形もない
「俺は、どこに居るんだ?!」
今晩当たり、あの夜鳴きそばのラーメン屋のラッパが聴こえてきたら、潮時だ
夜見のもん食っちゃねぇ。
帰ろう帰ろう、あーさぶいっ。
終電のドアは閉まった
終電の終わった時間に、

 

 

 

また旅だより 05

 

尾仲浩二

 
 

吉野は思いのほか遠く冬の陽はすぐに山の陰に隠れてしまった。
どこまで続くのか不安になりながら川沿いの長い商店街を歩く。
人どおりはなく店もほとんど閉まっている。
すっかり凍えてしまったし写真は暗くてもう写らない。
とっぷりと暮れた頃ようやく道は終わりになった。
急ぎ足で駅に戻ると一軒だけ食堂が開いていた。
鍋焼きうどんでビールの年の瀬。

2018年12月25日 奈良県吉野町にて

 

 

 

 

馬の王

 

道 ケージ

 
 

浜辺にいる馬の王が
首を外し
入水するらしい
しょうがないので
見に行く
そして
馬の胴体の中で考える

こんな世の中
ではないはず
おかしいじゃないか

しかし
なぜオズワルド
驚愕の顔で撃たれる
(同じさ 殺られるときはね)

ワタリ島に
入り陽
西方に
突き出る呼子
松もああ、何もかも
イカレタらしい

「終ったから」
すれ違いに「美がな」
素っ頓狂な省略で
誰もが胡麻化す

うまくかわしな

賢明な人々よ

未来はないのだから

帰宅した途端

修羅場かよ

十字を切りながら
歩く
眼帯はずしな
見えてんだろ
最後のクラゲが
砂浜でヘタれている

 

 

 

新・冒険論 20

 

帰ってきた

過ぎて
いった

その後に

歌は
生まれた

昨日
桑原正彦の個展「夏の日」を見に渋谷に行ってきた

夏の日に
桑原は

工業地帯の海岸に生きるものたちを見たのだろう
砂地に踠いていた

酸素も愛も
ない

歌には
いない父もいらない

夏の日に
歌は

ひとりで帰ってきた

 

 

 

喩えの話

 

萩原健次郎

 
 

 

抜けていったね、恋が。
ふたりでするものが、ふたりとも消える。
黒い穴だ。
焼けて、破れて、焦げて、透けて、
透けると、きもちいい。
何十年も、きもちいい。
人生って、恋みたい。
いつでも失恋している。
唇が空に浮かぶことだってある。
そのときは、あたりいちめんに菓子の匂いがする。
コンガが鳴る。
猿が役者の喜劇がはじまる。
おれもその劇団の役者となって
おんなじ芝居をする。
きもちわるいことと
きもちいいことの繰り返しで
空中ぶらんこみたいだなあと
たとえてくれればそれでいいのに
だあれもたとえてくれない。
だから、人生って恋みたい。
自問しているうちに、胸焼けする。
ムラサキいろの胸になる。
黄色いセキセイインコが飛んでくる。
いっしょに、籠の中の巣の中の、綿の中で
あなたが卵を産んで、あたためて
おれは、毎日巣を出て、まあまあよく働く。
とつぜん、巨大な渦潮がおれの恋を
海に戻していく。
唄っている人に退屈しては駄目だ。
芝居する猿たちを蔑んではいけない。
恋が一個の果実だとすれば
その一個の中で生きてきただけで
それは、ある季節になると
ぽとんと、落下して、
きれいに割れる。