ペッペポアゾ

 

南 椌椌

 
 


© kuukuu

 

ペッペポアゾのことを語ろう
ほら はるかの岬の突端 
崖の上にゆれてるような 
ブリキで覆われた季節の番小屋だ 
ピンクのペンキが剥がれてる
そこをねぐらの ペッペポアゾ
むかし漁師だったのか
夏には 古稀を迎えるそうだ

ペッペポアゾとはだれか
ペッペポアゾ ペッペポアゾ
繰り返えすと うわごとのようだね
愛と忘却に満ちたうわごと
月の明るい夜には
ブリキ小屋の前で歌ってる 
ぴーるにるにり 口笛吹きながら ✶1
歌うのは半島のわらべ唄

空0月よ 月よ 明るい月よ
空0李太白の 遊んだ月よ
空0桂が植えてあるそうな
空0玉の手斧で 伐り出して
空0金の手斧で 仕上げをし
空0草葺三間 家建てて
空0父さん 母さん 呼び迎え
空0千万年も 暮らしたや
空0千万年も 暮らしたや。 ✶2

ペッペポアゾ ペッペポアゾ
絵に描いたような小舟で 海へ
口笛吹いて 積んできたもの
ワカメや雑魚があふれている
ヒトがよくて いつも笑っている 
友として申し分のない 哀憐の人だ
それだけのこと 本人だって知っている
その本人か 別の本人か

さて 大漁の春ともなれば
ペッペポアゾは 心して 
ご近所に気前よく配る
火を焚いて 飲んで歌って踊る
鍋にはワカメや芽かぶや青葱
蒟蒻なんてあふれるほどだ

岬の上に建てられた掘っ立て小屋
ピンクに塗られて風次第
ゆらゆらバランスをとって
巧みな柔構造の棲家で 
踊る人語が爆ぜる 呵呵呵呵
ペッペポアゾと哀憐の友は 笑う
取りそこねた蒟蒻がころころころころ

空白空白空白空✶ ✶ ✶

ペッペポアゾ ペッペポアゾ
あの泥人形の ペッペポアゾ
泥土のなかでむっくり起き上がり
まさぐるようにボックの手を掴み ✶3 
はやくはやく 練って伸ばして叩いて
ボックという神の手の中で 
早く生命を吹き込め 形代だ
こんなんじゃなくて 肌理こまかい
どこかのダビデみたいな
済んだまなざしがほしいんだ
ペッペポアゾは叫ぶ
難しいのだこの世のボック
あの世の土塊の泥人形の
ペッペポアゾ ペッペポアゾ

実は今日の今日さ
太陽輪(コロナ)の浜で 土偶の欠片が見つかった
そう思ったら おまえの泥人形じゃないか
身長5糎くらいの仏さんが 悲しげに二三体
ペッペポアゾの係累に違いない
ほぼ三頭身の安定した体躯
さりげなく胸で手を合わせ
祈ってるのか 胸が痛いのか
ボックという神が
あの日のことを思い出している

インド北部埃たつスノゥリから
陸路で明媚ネパールに入る
国境の税関は 素朴な交易役場
髭面しかつめ パスポートにドンと印を押す
ネパール人やチベットの僧侶は素通り
そばで裸足のガキらが笑っている
ここからルンビニは近い
ルンビニは釈迦が生まれた村
ゆかりの地だけど 聖地然とはしてない
ローカルな観光地のような
ゆるい早春の空気がいい
乾いた井戸のかたわらに 
乾いた天竺菩提樹
手を出してなにかねだる子どもたち
とりあえずねだるふりして どこふく風

釈迦がなんの花か 天竺薫る花の下
母親の右脇の下から 生まれたという
乾いた大地の乾いたルンビニ
お釈迦さまが産湯を浸かった池
日干し煉瓦の段々めぐらした
沐浴名勝になっている
そのなかにコトワリなく足を浸して
地球の歩き方をパラ見していた
軽率に過ぎないか ペッペポアゾ
あるいはボック

ルンビニは懐かしいなと タラさんと話す
タラさんはルンビニ生まれで
我が家からぶらり七分のところ
ネパール料理の店を開いている
穏やかで愛らしい目
タラさんとはエニシヤっていう
馴染みのカウンターで
ルンビニやポカラの話 
この国で 子どもを育てること
希望よりも 不安のまさるまなざし
タラさん 寡黙な人だけど
スピリッツ三杯呑めば すこし饒舌になる
笑顔がいいぞ 一杯おごりましょ
遠くのなにかが 見えてるような タラさん 

白状すれば なるほど タラさんも
ペッペポアゾも ボックという神も 
どこのだれだか 不在童子
ぴーるにるにり ぴーるにるにり 
ゴータマ風靡の 出自をもって
麦笛吹いて 踊りましょ

 

✶1「ぴーるにるにり」韓国の詩人・韓何雲の詩「麦笛」のなかに出てくる笛の音。
✶2 『朝鮮童謡選』金素雲訳─岩波文庫所収の朝鮮全土で謡われたというわらべ唄。
✶3空0ボックは「不在童子」地方の方言で「僕」のこと。

 

 

 

透明な棺

 

村岡由梨

 
 

夥しい数の透明な棺が
一定の間隔をおいて
並んでいるのを見た。

白い人もいる。
黒い人もいる。
黄色い人もいる。
知っている人も知らない人もいる。

これから土葬されるのか
火葬されるのか。
泣いても叫んでも
愛しているのに触れることも出来ず、
物事は粛々と進められていく。
遺された人たちを置き去りにしたまま。

「母を燃やさないで。
まだ生きているかもしれないから」
母は極度の閉所恐怖症で、
死んでもなお、
狭いカマドに入るのを怖がるだろう。
私は激しく泣くだろう。

「私を娘たちと一緒に燃やしてください」
手を握ってやることも許されず、
私は娘たちの棺にしがみついて離れないだろう。
そして泣き叫ぶだろう。

世界中の人々が、
たくさんの残酷を目の当たりにして
深く傷ついた両眼から、血の涙を流している。
私たちが見ている世界は、
瞬く間に真っ赤に染まってしまった。

それでも、誰かが知らない人のために流す涙が本物ならば、
いつかきっと、世界は涙で洗い流され、
ありのままの色を取り戻すだろう。

そうしたら私は、
ありのままの世界で、
「砂利道を歩くのが好き」と言う娘たちと
手をつないで、笑って笑ってヘトヘトになるまで歩きたい。
猫たちが一生懸命ご飯を食べているのを見るのが好きだから、
何にも遠慮することなく、ずっとずっと見ていたい。

69歳のまりさんが、
「毎日食べることと排泄することばかり考えてて
こんなんで生きてていいのかしら」と嘆いたら、
84歳の詩人は
「生きるってそういうことなんじゃないの」
と言っていた。
私は、「また来ます」と言って、
いつも通り詩人と握手をして、帰った。

握手、をして帰った。
生きるってそういうことなんじゃないの。

 

ニュースで
夥しい数の木製の茶色い棺が
一定の間隔をおいて並んでいる
航空写真を見た。

その木製の茶色の棺に誰が入っているのか、
私には、見えなかった。
だから想像した。
私の肌と、その人の肌が触れ合うことが出来たなら
その瞬間の温かさを。

 

 

 

monetary・金銭的な 貨幣の

 

さとう三千魚

 
 

山のカタチ
その日の出来事の

構造を
思う

貨幣の
場所さがす

散髪屋へ

理容ダイヤのおかみさん
今日どうされますか

ちょっと伸びたので


出るくらいに

自然に

と答えた

シニア調髪 1,782円

だった

 

 

*タイトルは、twitterの「楽しい英単語」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

千年プリント

 

工藤冬里

 
 

一切誓ってはならない
と言われて応える
一切撮ってはならない
死者からのアルシーヴが画像を消すことなのであれば
あと何枚心を消去すればいいのか
消去したことを書く算段が詩である
消去は欠落の充足のためでもある
速度を落とし
お婆さんに道を譲る
マイナス茶碗に注がれる消去という名の燃料
をデポジットとして飲む
崩壊後の水と食料は備えられるだろう
片桐ユズルのボブ・ディラン詩集の装丁は段ボールだったね
中身は読まなかった
段ボールの画像を消去しても
読まなかった中身が押し寄せてくるわけではない
段ボールみたいな声が充填されるだけだ
あとおれね、リッチモンドのマークボランが死んだ場所に行ってみたことあるよ
ガイって友達が教えてくれた
それから川沿いのパブに行ってサンデーブランチのウォッカトマトを舐めた
晩年の歌謡TVショーが見られるようになって嬉しいよ
今にぴったりだよね
写真はない

 

 

 
#poetry #rock musician

「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第81回

 

佐々木 眞

 
 

 

2019年12月

 

某大メーカーの疑惑の大幹部が、突然この丘にやって来たので、特ダネ記者の私はとっさにカメラのシャッターを切ろうとしたのだが、液晶画面が真っ黒で、切ろうにも切れなかった。12/1

スラッガーのヒロシさんを擁する私らのチームは、宿敵の松竹ロビンスと対戦したのだが、0対38の大差で敗れてしまった。12/2

最新式の設備が備わったその最新型車両には、車輪に鋭い刃が装備されていたので、線路の両側から飛びついてくる気違い老人どもを薙ぎ倒しながら、血飛沫をあげて前進することができた。12/3

敵に襲撃されて長い間病院に入っているオヤブンの見舞いに行ったら、案の定、敵の親分の暗殺決死隊のメンバーにされちまった。12/3

私が長年にわたって敬慕しつつ仕えていた鶴姫様が、実は無類の色情狂で、私以外の男と見境なく番っていたことを知って、私は大きな衝撃を受けた。12/4

長い間開いたこともなかった押し入れを開けると、見たことも無い藤色の装丁の分厚い書物が並んでいるので、何気なく右手に持った水差しで水をかけたら、妙な物音がした。それで驚いてもっとたくさんの水をかけたら、ドスンという大きな物音がした。12/5

部屋の中に転がり込んできたのは、年齢は不明であるが、紅いおべべを着た背の高い痩せた若い女性である。一番の特徴は、三日月の様な長い長いその顔で、しかも真ん中の鼻の辺りが凹んでいて、とても美人とは言えない。

私と母と妹の前で、べたっと座り込んだその謎の女は、私らの問いかけに、自分は物心がついてからずーとこの押し入れの奥で生活してきたこと、食べ物は夜遅く台所で漁ったことなどを答えたが、自分の正体については口を噤んだ。

じっと彼女の顔を眺めていた私は、その花王石鹸のマークの様な横顔が、母と瓜二つであることに気付いたが、母も妹も私も、そのことについては、何も言わなかった。12/5

我が家の家宝を雪隠に落としてしまったので、便器の下を大捜索していると、庭の中にナミアゲハとミヤマカラスアゲハが舞い込んできた。ナミアゲハは並みだが、ミヤマカラスはカラスアゲハより貴重なので、ケン君がこいつを捕まえようと駆けずり回っているがナミアゲハしか捕まらない。12/6

ふと見ると、美しい2頭の巨大なアフリカ象が、我が家の生垣を踏みつぶしながら侵入してきたので、吃驚仰天した私は、「ケン君、ケン君、象に気を付けなさい。踏み殺されちゃうよ!」と叫ぶのだが、彼はミヤマカラスアゲハに夢中で気がつかないのだ。12/6

私は村でたったひとつの「なんでもありの窓口」で、郵便切手を買ったり、書物を送ったりしていたが、その合間に知人に勧められて投資した株が高騰したので、長い人世で初めて巨万の富を手中に収めることになった。12/8

わいらあ大阪の芸人やけど、東京のテレビ局に行ったら妙な髪形にされてしもうたんで、その仕返しに、大阪にやって来た東京の芸人はんの髪形を懇意にしている髪結いはんに頼んで、滅茶苦茶にしてもらいましたんや。12/9

久しぶりにツウちゃんに会ったので、「君の弟さんは元気ですか?」と訊ねたら、急に眉をひそめて小さい声で「自殺しちゃったの。子供たちはまだ幼いのに」というたので、絶句した。12/10

妻と原宿駅までやって来たのだが、私は自転車だったので、木陰に停めている間に、細君は改札口から入っていったので、焦った私も突入した時に、ブルジョワのざーます夫人とぶつかってしまった。12/11

夫人は、その衝撃で「スイカが運賃を二重引きしてしまった」というて私に文句をいうので、懸命に謝っている間も、電車はどんどん進んで行き、四ツ谷駅で一緒に降りると、駅前で夫人の旦那が、借金取りに「10億円返せ」と迫られていた。

旦那は、「殺生な、10億なんてあるわけないやろ!」と喚き散らしていたが、夫人はいつのまにか傍に置いてあったモザール遺愛のフォルテピアノを指差して、「これなら10億以上の値打ちがあるわ。もってけ泥棒!」と叫んだので、万事めでたく解決黒頭巾。12/11

大洪水に襲われた国道を濁流が覆い、その水面を浮き沈みしながら、朝夷奈峠の中腹に安置されているはずの、丹波道人が寄進した慰霊碑が流されていくのが見えた。12/12

南軍は、水中戦で圧倒的な優位に立っていたのに、どういう訳だか、その利点を生かさず、ボケーとしていたために、北軍の反撃を許して、存亡の淵に立たされてしまった。12/13

こないだの地震の調査をしていたら、またしても物凄い地震に直撃されたので、巨大ナマズのタタリを懼れた私らは、もう一切の調査研究を放棄してしまった。12/14

イケダノブオの部屋の隣は、ナカノ君の狭い3畳間だったが、透明な強化ガラスを挟んだ向こうでは、大勢の子どもたちが、法被姿で勢ぞろいしていて、楽しそうに、歌ったり、踊ったりしていた。12/14

王宮の運転手の私は、王妃から上等の上着をもらったのだが、それを持ち帰ろうとすると警備員に盗人の嫌疑を受けそうなので、いつまで経っても帰宅できないでいる。12/15

「どうですか天の川さん、7月16日に神様と決闘するそうだけど、勝ち目はありそうですか?」と訊ねたが、天の川は返事をしなかった。12/15

月の光で「ロリータ」を読んでいると、見知らぬ女が部屋に入ってきて、私の膝の上に乗っかった。12/16

彼女は色香で落とすエンタメが超得意。「なんというてもと口先三寸で大儲けできますからねえ」というて、部屋の隅にある札束をあごでしゃくったが、あれって本物なのだろうか。12/17

理想の授業とは教師ではなくむしろ学生が主体になって行うべきだという説を試してみようと実地で試験してみたが、てんでうまくいかなかった。何か介在者が必要だと分かって来た。12/18

論争するときには、常の己の味方と宿敵を同伴しながら行うべしというお達しが出たので、Aさんは夫人と情婦を、Bさんは大江健三郎と石原慎太郎を連れて国会や裁判所へ行った。12/18

こんなに楽チンな仕事でいい給料をもらいながら趣味の絵も描けるし、おまけに最愛のロリータちゃんも傍におかせてくれるなんて、最高の会社だなあ、と私は思った。12/19

心中で願ったことがすぐに実現してしまう能力を天から授かった私は、世界一の悪人と日本一の悪人を亡き者にして下さいと祈ったところ、直ちにそれが現実のものとなり、夕刊のトップ記事になったのをみて衝撃を受け、自らの無化を願った。12/19

久し振りに駅に行ってプラットフォームに立って電車を待っていた。ようやく電車がやって来たが、それは「第一乗り」「第二乗り」「空飛ぶ人」の3種に分かれていてどれに乗ったらいいか分からなかったので、家に戻った。12/20

高い山の天辺から深い谷底を覗きこむと、白い百合の花がたくさん咲いていた。12/21

とにかく大家から毎日家賃を払えと催促されるので大変。月末になるとエレベーターにのっかって各フロアを大掃除するのだが、大家は支払いがよくて覚えめでたい店子には、自動掃除機を貸し出してやるのだった。12/22

私は営業の仕事を初めて担当したが、これほど難しいものとは知らなかった。得体のしれないクライアントの担当者とゴルフやテニスや競馬の話になったが、てんでついていけないので、ビジネスどころの話ではなかった。12/23

自由に器を作って構わないとうのでコーヒー茶碗を仕上げてそれなりに満足していたのだが、イケダノブオが作って呉れたやつはさすがにデザイナーらしい見事な味わいがあったので、脱帽した。12/24

昨日大阪支店に出張したのだが、レリアンの広告掲載誌が届いていないと文句を言われたので、それは困ったどうしようと思ったのだが、どうせ夢の中だからなんとかなるだろうとたかを括っているうちに、なんとかなってしまった。12/25

コバヤシ医師の海外でのボランテイア活動が多忙なので、彼はサントリーホールの招待券をその都度安倍蚤糞の大企業&金持ち優遇政策の犠牲になっているルンペンプロレタリアートの子女に譲っていた。12/26

2日間に亘って開催されたホーム運営対抗試合だったが、私らはようやく2日目に見事なチームワークで大勝利を収めたが、「ワンチーム」なる流行語だけは口にしなかった。12/27

私は大火山の大噴火を俯瞰しながら、絵を描いているのだが、燃えたぎる炎ととろけ出る溶岩の彩色がうまく行かないので、ヘリはいらだたしくホバリングを続けている。12/28

核戦争の脅威を避けて地下通路を逃げ回っていたら、東大安田講堂の地下食堂でマエダ氏のご両親と隣り合わせたので、「昔仕事にあぶれていた時代には、息子さんに大変お世話になりました」とお礼を言うことができた。12/29

格安の宇宙旅行に出かけた。学生と同じ部屋をシェアしていたのだが、巨大な名刺が飛んできて、2人の間に突き刺さったので驚いた。12/30

大阪支店から出張してきたオノダさんに、部下のオカダ君がしきりにちょっかいを出すので注意したのだが、なんのこたあない、彼らはすでにお互いに言い交わした仲で、それを知らないのは、私だけだったあ。12/30

私らは洗濯機、掃除機、給湯器、冷暖房機等、あらゆる家庭用機器のニーズに対応する万能型発動機の開発に成功し、既存のメーカーの顔色なからしめた。12/31

 

2020年1月

 

アオイケ夫婦と一緒に中国の田舎の山を登っているのだが、山が乗っているプレートが違うので、アオイケ夫妻は猛烈なスピードで山頂めがけて上昇していったのであった。1/1

イケダノブオは、森ん中のおばあさんのろうけつ染めを映像に収め、「これから私の最後の時をおめにかけましょう」というのであった。1/2

裏ぶれた素人オケに「第9交響曲」演奏の依頼があり、それを済ませて駅構内に入ると、エキコンをやっていたので、思わず私が歌い始めると、隣のオッサンから「お客さん、主旋律を勝手に歌ってもらっては困る」と文句をいわれた。1/3

公凶放送も、民放も、現地中継を放棄した後も、私らミニ地域放送局だけは、その虐殺映像を流し続けた。1/4

往年の大女優でもある有名デザイナーのアシスタントをしている私だが、彼女が超不得意なメンズのフォーマルウエアのデザインで四苦八苦しているのを見るのは、どうにも耐えがたい。1/5

退職軍人のチャーナイ氏に請われてジャングル映画に出ることになった。「正面を向いて立ってください」というので、言われたとおりにしていると、目の前に大蛇がぶら下がってきたので、慌てて逃げ出した。1/6

医務室へ行くと、2人の女子社員が、制服を着たまま布団の中で身悶えしているので、「大丈夫?」と声をかけると、彼らは、ちょっと身動きしてから、姿勢を変えた。1/6

これまで大事にしてきた天然物の魚と本水が、一瞬の不注意から濁水にまみれてパアになってしまったので、私はイケダノブオの誘いで熱海に赴いて、もういちどやり直すことにした。1/7

沖縄の綺麗な海で泳ごうと、遠路遥々飛んできたら、海水浴場は、もっと遠路から遥々飛んできた世界中の観光客で一杯だった。1/8

困ったことに完全AI制のわが社では、夕方の6時になって「さて残業しようか、それとも帰ろうか」と迷っている社員に対しても、さっさとご飯と味噌汁の簡単な夜食を供してしまうのである。1/9

環境問題の死命を制する大問題の投票に、無残に敗れ去ったこの男は、かてて加えて、広大な自宅が、失火で一夜にして燃え尽きてしまったので、絶望して世を去った。1/10

正月に夢を見たが、それは正月に夢を見ているという夢で、夢の中では餅つきが出てきた。1/11

この節は、中央線の快速も各停も、しょっちゅう爆破されるので危険だ。都心へ向かうなら、地下鉄なら比較的安全だというのだが、それだって当てにならない。1/12

わが社の花形デザイナーが、フリーランスになって飛び出すという噂を聞いた私は、それなら、自分がその跡目を襲ってやろう、と密かに決意した。1/12

私はいろんな大学を受ける人たちのために、夜中じゅうライトアップしてあげていたが、それがどんな役に立つのか、考えたことはなかった。1/13

「セイコウしても、セイエキが出ないんだね」と医者がいうたので、「しかり。さながら渓谷の空音の如し」と答えたら、「それはどういう意味ですか」と医者が訊ねたが、私にも分からなかった。1/14

山陰線の夜行で帰省したら、知り合いの女が、「彼女は鮨屋の娘なんやけど、大阪で企画と営業を両方上手にやっとるんやて」と教えてくれた。1/14

報道統制が酷くなってきたので、心ある報道者たちは、密かに裏チャンネルを作って真夜中にゲリラ放送をするようになった。「#内緒内緒のあのねのね」で検索すると、あの公凶放送ですらも物凄い安倍蚤糞の巨悪暴露放送を敢行している。1/15

おらっちは、暮らしに窮した隣家の要請に応えて、隣接地を次々に買収していったので、いつのまにか当地でも指折りの大地主に成り上がっていた。1/16

「決して開けてはならない」と言われた瓶の蓋を開いた途端、やはりアラジンが飛び出してきたので、私は「違う、違う、そうじゃない。お前じゃないんだ」と叫んだが、もう遅かった。1/17

おじいちゃんは、ガラガラの山陰線の上り列車の3等席で、揺本に振った「クハ」、「モハ」といった列車の略称記号を皺だらけの左指で示しながら、幼い私に、金春流の素謡の初歩を教えてくれた。1/18

2階で寝ていると、2人の女が布団に入ったり、出たりするので、寝られないから、「お前たちは誰だ?」と訊ねたら、「元ダンサーです」と答えるので、「じゃあ、今は何なんだ?」と聞いたが答えは無かった。1/19

ヴィヴァルディ大全集のCDの中に、1枚だけ尺八の演奏が紛れ込んでいたが、これが果してヴェルディの曲なのかどうか分からない。もしそうなら、世紀の大発見だ。1/20

会議では「日本からアジアへ、そして世界へ」というような言い方は、かつての帝国主義時代の外国侵略や植民地支配を想起されるので、やめたほうがいいだろうというような発言があったが、他の誰も何も言わなかった。1/20

五輪音楽代表決定戦で、ある選手が投げられてきた幼虫の塊を空振りしたという理由で敗退したが、これは見当違いも甚だしい。音楽と野球はジャンルが全然異なるのだから。1/21

編集部でうろうろしていたら、ある人物を紹介された。「どういうお仕事ですか?」とたずねたら、「表紙専門デザイナーです」という返事だったので、そおゆう職種もあるのかと驚いた。1/22

パスポートも航空券もないのに、空港にぶらりとやって来た私だったが、滑走路の隅っこに停まっている小型機に忍び込んで眠っているうちに、私は海上を飛行していた。1/23

それにしても、飛行機の長旅にもめげず、よくも遥々極東の島国まで歌いにやってくるものだと、オペラ指揮者の私は、西欧の歌姫たちに敬意を抱かざるを得なかった。1/25

私は一晩中不要スーツの補修にあたっていた。朝が来ると、それが廃棄される運命にあると知りつつ。1/26

我が家のfaxは出版社と接続されているので、編集部に出入りするfaxは、同時に我が家のfaxにも入ってくるのである。「それがどうした?」と聞かれても困るが。1/27

玄関に2人の客あり。1人はタナカコーキ、もう1人は近所の奥さん。前者は海外留学の打ち合わせだろうが、後者の用件は、聞いてみないと分からない。1/28

ビルの角で携帯が入ったポシェットを拾ったので、警察に届け、自分の名前を書いていると、その前の欄に私と同じ会社の同僚のヨシダ嬢の名前があったので、偶然とはいえ、少し驚いた。1/28

出張が終わって自宅に帰ろうとしたら、その途中で、なんかのはずみで、大川に鞄が飛び込んでぶくぶく沈んでいく。さあ大変だ。どうしよう。重要書類が、みなずぶ濡れになってしまうではないか。1/29

ぼくらは惑星探検隊。いよいよ新惑星に着陸するのだが、誰が行くのか指令がない。ヒグマが「オレ行きます」と勝手に乗り込もうとするので、「ちょっと待て!」と、おらっちは止めた。1/30

私たち医学部の新入生に対して、癌検査が行われたが、独りだけ該当者がいて、気の毒にも、治療終了まで自宅待機になってしまった。1/31

 

 

 

numb・感覚のない 麻痺した

 

さとう三千魚

 
 

今朝も
晴れている

西の
山々がみえる

青い

風が吹いている

風が吹いて
川沿いの桜並木の花たちを揺らしている

人がいない

鎧戸も
風で

鳴っている

眼を瞑ると
聴こえてくる声がある

祖母であったり
母であったり

姉であったり

女たち

だったり
する

女たちの声が聴こえる

眼を瞑ると
見える

感覚が消えても
幻影が消えても

女のぬくもりがある

笑っている

 

 

*タイトルは、twitterの「楽しい英単語」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

千年眼鏡

 

工藤冬里

 
 

今日のあけがた
まつりの熾火はまだくすぶっていたが
さむさのなか期待してうろうろしていた
組内のヤクインたちが起きてきて(ずるいな)協議しているようだった
ここで暴力装置と自治会が系統を別にしていることが明らかになったのをあらためて感じる
ケーサツを呼べ
はまだ生きていた
反逆禁止条例は直接的には暴力装置とかんけいはなく
長の前で「うん」と言ったからといってどうなるものでもないのだ
罪状は大抵の場合突き上げによる
だからもうなにも応えなくていい
仕組まれた事件を扱う長はうらみや嫉妬まで見通しているものだし
なおかつ恩赦の餅撒きまで持つのが支配の生政治というものだ
ヤクインは薬院に集まり鯔背なまつりの死者のハレに衆の焦点を持って行った
まつりの死者はべつの満月のまつりをすでに昨晩用意していた
目の前にあった飲食物を回して与(アヅカ)るメモリアル、という簡素なカウンターであった
暴力装置は作動した
あざけりや唾をかけることはこんどは代理の暴力装置の仕事だった
罪状のパロディを演じるのは共生の実感がないからこそ出来る、虐殺に従順な軍の特色だ
群衆の代理としての暴力装置は個々人には冷たく、棒杭を運ばせられるなどしてとばっちりを受ける者もいた
長が訴訟の裏を見通しているのと同じように、群衆はゴルゴ13のように背面を取られないためにだけ想像力を用いる
まつりの死者はじぶんのまつりの中にいるが群衆はかれらのまつりの中で裏へ、裏へと情動をマネジメントするので
雷の声を聞いてもその解釈に於いてつねにずれていく
えりという語が発せられているのに聞き間違いを耳に強いてまで裏を取って意識決定をずらせてゆくのだ
それは消防団的なリーダーたちへの付和雷同という消極的な側面もあるが
苛められて来たゆえの防御反応でもある
昼なのに闇が垂れこめている
奥の奥に通じるとされていた幕が裂けてやっと裏がえしていたものが現実だったと知る兵隊もいる
動態視力としてのカメラは引かれまつりの外の大勢の女たちが映し出される
roll it on him!
読者よ想像力を働かせなさい
支配の複雑さと虐待のトラウマから来ているのかもしれないが
本当の場面に遭遇した時いつものように裏を想ってしまうならば
人の子を殺してしまうのだということを。

花の季節に閉じこもって花の写真を見ている
忙しくしていれば乗り越えられると信じて
欠落を見続けている
だが今日は見てやる
ちらとでも見てやる
花の永遠を
見たら爆発する
去年との違いを見てやる
おう 書き言葉 書き言葉
詩の役割語よ
腹を立てていた
自分に対してだけじゃない
ほとんどすべてのものに
そばにいる
画面にない手を見る
猫を見ていると
種の違いよりも
個体差の方が本質的であるように思える
千年眼鏡を外すと
聖霊なきシュールの彼方
ここまで画像整理に励んでいるということは
ほんとうに死者からのアルシーヴを実践しているということだ
平たく言えば今年からはサクラもガン見しようとせず既に死んだつもりになっているということだ
happy passoverなどというGIFが散見されることからすれば
地上性の開き直りの世俗は天に達している
すなわち滅ぼされる
きみはガクモンにヨリドコロを見てはいけない
天にも地にも居場所はない
緑の濃いとりわけにちゃらけた写真があった
セイタカアワダチソウの黄色が見えた
耳鳴りの中痙攣しながら自分で自分の肩を抱いて寝なさい

 

 

 
#poetry #rock musician