ミヤコズ・ルール

 

辻 和人

 
 

コウセンッ
コウッセンッ
お、お前、光線君
斜めから、ひたひたと
オハッ
オハッ
「おはようございます。」
「おはようございます。」
6時半に目覚ましが鳴って
カーテンの隙間から
朝の光線が斜めから入って
にっこり朝のご挨拶
すんなりご挨拶
ゆったりご挨拶
ところがっ

一緒に住み始めてから3日
何これ? 暮らしのカタチって奴?
ムニュニュッと膨れ上がったかと思うといきなりガチッと固まりつつありまして

朝起きるとミヤコさんカカカッとお風呂場に直行
足湯ですと
足あっためると意識がはっきりして活動的になるんですと
そんな時間あったら1秒でも寝ていたい
なんて思いながら
はい、ぼくはその間朝食の準備です
パン焼いて紅茶いれてフルーツ盛るだけだけど
今まで朝食なんて旅行の時しか食べなかったもんなあ
自分でテーブルに並べたジャムとバターが眩しい
うっひゃー、やめてよ、光線君
そんなにひたひたしないで
あ、ミヤコさんあがってきました
血色良くなってお目々も開いてきました
いただきまーす
トーストひと口かじって、おっ、やっぱり黒田さん日銀総裁か?
「和人さん、食べてる時テレビの方ばっかり見るの禁止ね。
パンの粉、ポロポロ床に落としてますよ。ちゃんと後で床掃いて水拭きしてくださいね。
この部屋はきれいに使いたいんだから。」
ショボーン
光線君、怒られちゃったよ

食事の後はお風呂の掃除
「平日は簡単でいいですからね。髪の毛はティッシュで掬い取って。」
任して任して
力を込めてタイルごしごし
こういうのは結構得意なんだよ
恥ずかしながら独りの時は週1、2回しか風呂掃除しなかったけどな
光線君、温風に吹かれながら
ひたひたーひたひたーと応援してくれている
嬉しいね
壁もきれい、浴槽もきれい
排水口に絡まった髪の毛も丁寧に取り除きますぞよ
やっぱ女の人の髪の毛って長いよなあ
でもって、お湯に触れるとしなしなっと身をよじって
ちょっと色っぽいよなあ
不意にミヤコさん現る
「排水口はこのブラシを使って奥の方まで念入りに掃除してくれますか?
汚れが溜まったらイヤなので。」
あーそうか、失礼しました
光線君、カンペキだと思ったんだけどなあ

「おかえりなさい。ご飯もうすぐですよ。」
エプロン姿
光って、笑って
あり得ない
あり得ない
手を洗ってうがいして
あり得ない
でもそのエプロンの下にはしっかり2本の足が生えててさ
忙しく動き回ってる
あり得ないことがあり得ているんだね
テーブルの上であり得ているのは
ブリ大根にほうれん草の胡麻和え、ひじきと油揚げの煮物、シジミの味噌汁
いいね、いいね
あっさり和食のおかずは大好物なんだ
おっとっと、まだいたのか、光線君
朝生まれなのにこんな時間までつきあってくれるなんて嬉しいよ
何? まだ、心配だって?
大丈夫だってー
さて、テーブルにつくと
ん、おかしいな
明るすぎる
重量感がなさすぎる
お箸でつまもうとすると
スーッと透けて突き抜けてしまいそう
なのにあら不思議
大根は湯気を立てたままちゃんと2本のお箸の間に挟まってるじゃないか
つまりだな、光線君が心配してるのは
「帰宅するとご飯が用意されてるような現実」というあり得ない現実が現実にあってだな
その現実のヒトコマにぼくがちゃんと収まりきることがあり得るのか
つまりそういうことだな?
ちょっちょっちょっ、ミヤコさんぼくに話しかけてきてるぞ
「和人さん、またソワソワしてる。
ご飯の時は食べることに集中しないとまた食べ物落としちゃいますよ。」
はい、ごもっとも

ご飯の後はお片付け
大丈夫、食べ終わった器はぼくが洗います
学生時代に皿洗いのバイトやったことあるからな
ちょちょいのちょい
鼻歌まじりでどんどん洗っちゃいます
でも、フライパン洗っていたら
「和人さん、まずキッチンペーパーで油を拭き取ってから洗って下さいね。」
でもって鍋を洗っていたら
「和人さん、それはゴシゴシ洗うと表面がハゲちゃいますから、
この黄色いスポンジの柔らかい方の面を使って丁寧に洗って下さい。」
魚を包んでいたラップを「燃えないゴミ」のゴミ箱にポイしたら
「和人さん、それは『燃えるゴミ』。
『燃えないゴミ』の回収は週1回だけでしょ。臭いが残っちゃうじゃないですか。」
ミヤコさん、他の家事をやりながら
時々巡回してきては
ぼくの仕事ぶりを検査しに来るんだよ
わぁーん、光線君
疲れたよぉ
光線君は気の毒そうにひたひた、ひたひた
ぼくの額を優しく撫でてくれる
ありがと、もうちょい頑張るか

食器を洗い終わったら今度は洗濯
これは自動でやってくれるから気が楽だ
洗剤の量を計っていると、血相変えてミヤコさん
ズカズカズカッ
「ちょっと和人さん、何やってるんですか?
今日は『乾燥しない日』ですよ。
私の洋服、『乾燥する』モードで洗濯したら熱でみんな痛んじゃうじゃないですか。
危ないところでしたよ。もぅー。」
もぅー、しゅーん、だよ
しゅーん、しゅーん
光線君も困り顔
お手上げだねー
いくら、用心しても用心しても
いくら、ひたひた、ひたひた、しても
ズカズカズカッ、ズカズカズカッ
近づいてきては
しゅーん、しゅーん
光線君、も、いいよ
超遅くまでおつきあいいただき、本当にありがとう
後は自力で何とかするさ

ベッドの中で5分間のお喋り
「いやぁ、女の人ってのは家の中のことに関してはしっかりしてるもんだね。」
「私は細かい方かもしれませんけど、男の人は概しておおざっぱですよね。」
「ぼくも頑張ってるつもりだけど。失敗多くてごめんね。」
「うふふっ、和人さん、頑張ってると思いますよ。」
「でも、悔しいなあ。今度から家のルールはぼくが決めるとか。」
「そんなのダメに決まってるでしょ? わかってるでしょ?」
「やっぱり家のことは奥さんが仕切るのがいいのかな?」
「そうだよ。」
「やっぱり奥さんの言うことは多少異論があっても従わなきゃいけないのかな?」
「そうだよ。」
「ミヤコさん、随分“オレ様”だなあ。」
「男の人は、小さい時はお母さんの言うことを聞いて、
結婚したら奥さんの言うことを聞いて、
年を取ったら娘の言うことを聞く、それが一番なんです。さ、もう寝ましょ。」
なるほどねえ
ミヤコズ・ルール
女に支配される世界
そこでぼくは残りの全人生を過ごすんだ
それでも「支配される」のは「支配する」よりずっといいよなあ
灯りを消したら
光線君の残像がうっすら闇に浮かび上がった

コウセンッ
コウッセンッ
明日も助けてね
ぼくが君のことをまだ覚えていたら、のことだけどさ
ぼくが君を出現させてあげられたら、のことだけどさ
支配をかい潜って生き抜く道を探るために
斜めから、ひたひたと
オハッ
オハッ

 

 

 

文鳥

 

サトミ セキ

 

 

幼稚園に行っていた ある日
文鳥を 小鳥屋さんで買ってもらった
羽の生えていない 赤い地肌が 痛そうだった
イナバノシロウサギ
ふにゃふにゃしてるミニ怪獣みたいなヒナを
お菓子屋みたいな紙の箱に入れて おとうさんが持ちました

箱の中でカサカサ動いているのが こわかった
空気がなくなるんじゃないかしら
はやくはやく 急いで家に帰りました
箱をあけました
生きていた
目がまだあいてない
どきどきしながら おかあさんの掌の上のヒナを見ていました
黄色い穀物のつぶつぶを よく 練って
おかあさんは 人差し指の上にのせました
小さなくちばしが 開いて 小さな舌が 見えました
シタキリスズメ
食べたよ ほんの少しずつ
一粒二粒数えられるくらいのスピードで

文鳥には ほわほわと真っ白な毛が生え
たくさん食べて しっかり鳴くようになりました
素敵なぴんくのくちばしと細い足  サクラと名前をつけました

サクラ サクラ
呼ぶと可愛く 返事をしました
ピヨリピヨリ
チーチヨチヨトトチヨト
わたしの肩に乗って りんごを一緒に食べました
わたしには妹も弟もいなかったので
毎日 さくらと遊びました
さくらは 賢かった
キキミミズキン
ちょっと首をかしげて わたしの言葉を聞いていた
ピールチヨトト ホィヨホィヨ
チヨトトトピリ
わたしたちは いろんな話をしました 鳥語と人間語の間で

呼ぶと四畳半のどこにいても 飛んできて手に乗ってくる
肩に乗せると 真っ白な羽が 頬に当たる
なんだかなつかしい日向のにおい
サクラは柔らかくてあたたかくて小さな生きものでした

ある日 幼稚園から帰ったら
鳥かごは 空っぽ でした
鳥かごの入り口が あいたまま
サクラがいませんでした
おかあさんが 言った
餌を替えようと思ったら隙間から飛んでいったんや
窓があいてたごめん

大声で 泣きました
涙の味が鼻まで沁みて 茶碗の中のごはん粒の上に落ちました
夜寝る時に かぶった布団が湿っていきました
電気を消しながら おかあさんが 言った
また文鳥を買ってあげるからもう泣きやみ
わたしはもっと大きな声を出して 泣きました
新しい文鳥は サクラじゃない

次の日 だったか 次の次の日だったか

おとうさんが虫とり網を持って 団地の前の公園を走っていました
文鳥がいたって
夾竹桃の木に止まっているって

わたしは 団地の二階のわが家から駆け下りました
おとうさん おとうさん おねがい つかまえて
真っ白で紅いくちばしの小鳥は サクラに
とても良く似ているように見えた
走るのが遅いおとうさんが 振る虫取り網は
子供の目にも たいへん のろいように思われました
息を詰めて 手をぎゅっと握って
おとうさんが虫取り網をめちゃくちゃに振り回すのを見てる
そこじゃないよ おとうさん ヘタくそ ああ おとうさん
白い小鳥は 羽ばたいて 網をすり抜け
ちょっとだけ電信柱の釘に止まって ぴいいいりと甲高く鳴いた
サクラ サクラ サクラサクラ! と 叫んだのに
小鳥は すぐに飛び立って
曇っていた空に 溶けて見えなくなりました
わたしは また泣きました
声がかすれたけれども 涙はまだ出るのでした
サクラは わたしの目の前で 飛んで逃げていってしまった

あれから 父母が飼ったのは金魚だけです

病院で
今と昔が混同していたおかあさんが
帰省したわたしに言いました
団地の一階の大淵さんが 文鳥を飼っているんだって
窓ガラスに当たるものがあって
何かと思ったら文鳥だった
ベランダで 逃げない文鳥をそうっと手でつかまえたんだって
(それは きっとサクラだ
サクラが うちに戻ろうとしたんだ
サクラが住んでた部屋の真上で
知らずにわたしたちはずっと暮らしてた)

それきり おかあさんは黙ってしまった
わたしの言葉が耳に入らないように
おかあさん
どうして あの日
一度もしなかった文鳥の話をしたのですか
もう答えを聞けないけれども

結婚して わたしが住んでいる先の 交差点角に
「いしい小鳥店」があります
文鳥の ヒナ います
コピー用紙に書かれた 下手な手書きの文字が 硝子窓に貼ってある
信号待ちのたびに ヒナを探す
店の中は暗くて よく見えない

生きものを飼うことは これからもたぶんない と思います
でも 真っ白であたたかい小さな柔らかな文鳥を 肩に乗せ
もう一度 頬で触れてみたい

 

 

 

daily 毎日の

 

嵐でした

一昨日
浜辺に

蒼鷺が佇ってた

何かを
待ってる

わけでもなく
時間はとまってしまったの

雨の中に

片足で
佇ってた

此の世の
岸に

波頭が砕けてた

砕けるものたち
砕けちるものたちよ

ホックニーの白い波頭を見たことがあるかい

 

 

 

龍宮城の言語

 

爽生ハム

 

 

三つ子になったんだけど
光らない夜に集うから
ひとつがふたつに攻撃される
一人が受け皿になって
二人がお湯を注ぐ
沸点が尋常じゃなくて
溺れそうな一個人が
浅瀬に打ちあげられる
ここで眠るのは容易いが
眠らない事が人格の形成に役立つのだと
言いきかしながら
自由に彼岸にひれ伏す
彼岸に立つ女子大生は
留学を求めていて
母国語が亡くなるんだと
危機を抱いている
日本語がいなくなったら
私のアイデンティティは
どうなるんだと
私は思います
と彼女は言った
僕は日本語と字幕の
相互関係に甘んじれば
いいんじゃないかと
無理を言った
言語も侵略だから
と同時に
言語は私達の故郷だからと
私達は無自覚に誓った
身体と発語にタイムラグが
あったって
私達は滑稽に見えるから
これが異国語のタイムラグなの

 

 

 

透明な、かえる

 

今井義行

 

 

テレビで 透明な、かえるを、観ました
あわい オレンジ色の 膜の
皮膚を通して 内臓の動きや体液の流れ
雌ならば卵塊の揺らぎなどが
かなり はっきりわかる かえるを・・・・

「北欧」 という 新宿西口の ベーカリーが すきです

そのあさ わたしは 「北欧」の
白パンを 生で 食べていて
過って くちびるを 噛んでしまった
「北欧」の 白パンの 生地に
真っ赤な 液が 滲み込んでいった

交配に 交配を かさねては──

透明な、かえるを 創った 主は
透明な、かえるを 創った 主は

生体実験 を されるが ゆえに
かえるに刃物を挿れたくない、と
繰り返し 言った── そうして
透明度を もっと もっと 高めたいと 言った

生と死の間の透明が
空白空白空白0うつくしい文脈とはかぎらない だから
空白空白空白空白空白空0かえる達は、さらに 抹殺されるかもしれない

ところで現代詩作家の荒川さんは
新聞で このように書いたそうだ
「読むに値する詩は少ないから、詩を厳密に読める人が増えたら
詩人は困る。しっかり読まれたら、終わりです」*引用

「詩人は困る」の「詩人」のなかに
荒川さんがいるのは あったりまえ
尖鋭な詩人と切開される詩人がいる
・・・・・・・・・・・・ っていう 訳なんだ

「読むに値する詩」と きたものだ

では、近頃の 詩のお仕事は 如何
技術の焼増し やってないですよね
詩を書いていて 人生のメロディラインは お好きですか

選考委員も多く務めてきているから
「詩を厳密に読める人」のなかにも
荒川さんは 含まれているでしょう

詩を書いていて 人生のメロディラインは お好きですか
見知らぬ人の書いた詩のメロディラインは 一筋縄ですか
平凡な暮らしって プリズムの結晶の前と 捉えてますか

ああああ。そんな、ばっかな 事態 ───!

現代詩作家、って 何ものでしょう
詩の表現者のエゴイズムに力業で冠
をつけたかのように 感じています

───そんな訳で これは皮肉です
ビジネスマン詩人に対する皮肉です
荒川さん側の申立ては無視してます

詩人は、透明な妖精たちなどでない
詩人は、たとえば 都心の交差点の
人ごみにまざって 衣服を着ている

透明な、かえるなのだ

自家中毒の 現代詩作家・荒川さんが 告発をするなら
詩人は 衣服を脱ぎ捨てる
文豪になるために 生まれてきた訳では ないのだから

詩人のそれぞれの 透明な胴体には
得体の知れない流動体が詰っていて
それらの或る一瞬一瞬が たとえば
カミ、などに転写され、観れば
詩は或る一瞬一瞬の心の迷彩文字だ

透明な、皮膚を 透して 読み
それでもメスを振るおうとするなら
わたしたちはもうメスの先に居ない

何故ならば ──────・・・・・
わたしたちは透明な、かえるだから
そのようなときには 既に・・・・・
わたしたちは、
あなたに観えない先へと撥ねている

 

「文字言語を選び、闘ってきた詩にとって朗読は自殺行為だ。朗読を意識したら詩の言語が甘くなる。すぐれた詩には文字の中に豊かな音楽性があり、それで十分。文字を通して音楽性を感じる力が弱まったから声で演じたくなる。文字言語を通して考え、味わう力を詩人が捨てたら詩に未来はない」*引用
とも 現代詩作家の荒川さんは 言っている なるほどな。

≪荒川洋治≫という文字列 そこからは
内在する 硬い製鉄所の音が 聴こえる

カーン、カーン・・・・・・という音がひびく
だから ≪荒川洋治≫って名は「詩」だ

現代詩文庫で詩人の名前を一覧してみた
≪松浦寿輝≫≪川田絢音≫≪朝吹亮二≫など わたしは
彼らの 詩の よい読者で ないけれど

詩人の名前その文字から 何か聴こえる
だから それは既に「詩」なんでしょう

一方 ≪井坂洋子≫から何も聴こえない
だから この詩人から「詩」はできない
詩の題材にはならない 詩人がいるんだ

 

転調する瞬間、これは、詩だから 荒川さんから 転調をします

或る 詩友、 彼の 処女詩集は 何だったか──
ずっと おもいだそうとしている
わたしは ちいさな部屋の ちいさな本棚を 探り続けた
買ったり 戴いたりした 詩集を
棚に収まらない分 横に積んだりもしているので
或る 詩友、彼の、処女詩集を 見つけることに
ずいぶんと 難航してしまうのだった

題名に 「帰郷」という単語が含まれていたか
或いは 「桔梗」、だったろうか
わたしは そのイメージから 野原を巡っていた
ああ── 彼の 第一詩集は なぜ、処女なのか
きよらかな 処女のように
丁寧に触れるべきだったと
わたしは、いまにして おもうのでした
処女の名を わすれるとは ───・・・・・

「処女航海」 という ジャズをおもう
はじめて・・・・・ 分け入るように
あの彼の、処女詩集を 見つけ出して 海へ出たい
大洋に浮かび 日輪に照らされ
あの処女詩集を静かに読みたい

トレーナーの袖で拭いたら 黒い水の跡 それでも ───・・・・・
生きてることの メロディラインは好き?
わたしは わたしに問いかける
メロディラインは好き とりわけ 転調する瞬間が
ことば と ことばの 連鎖が
ひとかわ 剥ける ときだから

こころの 冬星の 殻が 背から 割れて
中身が 渇き切るのを 待って
海へと 飛び立って いくとき
色々な 粒の 涙は あるけど
わたしは 太陽に添って 謳っていく いびつな航跡を残し
トレーナーの袖で拭いたら 黒い水の跡 それでも ───・・・・・
生きてることの メロディラインは好きだ
色々ないろの なみだが 零れるにしても
そこを 晒された生理で放浪できればいい
生きてることの メロディラインは好き?
転調する 瞬間が 好きなんだ だいすき

 

転調する瞬間、これは、詩。 自由になれるから また転調するんです

▶火曜日は休息日 でも規則正しい生活リズムは保ちたい 写真のポスト
栄養バランスのよい食事 詩作を進めること 地道に焦らずに進みたい
新しい詩が ネット公開中です
▶先日の大雪には驚いた それでも遠くからデイケアに通所した人もいる
水曜日は肝機能改善のための注射 午後には武蔵野の公園を歩いてみよう
新しい詩が ネット公開中です・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ここは 真冬の日の 煉瓦色の・・・ むさしの その土壌
散歩して 靴で 地を踏む度 ざくっ、と いう音がする

はつしもだ しもばしらが 列をなして 立っている・・・・
綺麗だなあ わたしは 薄ら陽に映える
凍った葉のうえを辿って 歩いていった

すると はつしもが 最もあつまっている 場所に
現代詩作家の 荒川洋治が 佇んでいる
広告で見たとおりの 苦々しい顔つきと
文学者っぽい寒色系のスーツと黒革の靴

載っていた写真の残像からわかる
鴎外のようなりっぱな公人なんだ
だから当然のように敬称略なんだ

現代詩作家の荒川洋治は
黒革の靴で もくもくと
ただ もくもくと しもばしらを
はつしもの しもばしらの
塊を 踏んで、踏んで、いった ざくっ、ざくっ、ざくっ、ざくっ、
真っ直ぐな ものが
粉々に、光の灰に、なって いった ───

しもばしらは 死んだのでは? と おもいながら

ざくっ、ざくっ、ざくっ、ざくっ、
わたしは 現代詩作家の荒川洋治に 訊いた
「はじめまして 荒川さんですよね」
さ、さくさくっとは さかせない
ざ、ざくざくっとは ざかせない
わたしは 現代詩作家の荒川洋治に 訊いた
「はじめまして 荒川さんですよね」
「え、・・・・・・ どなたでしょうか?」

「自己紹介します・・・・・・ わたしは
現代詩を書いている 今井義行といいます」

「申し訳ない お名前、知りません
どのような詩を 書いているのですか?」

「口語の時代は寒くない、という詩です」*

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

土にまぎれた 氷のつぶが
陽に照らされて ビーズの
ように光るのを むさしの、その ただただ ひろい場所で
しくしくと 感じていたら
いつのまにかビーズたちが軟らかくなった土壌から
冬眠していたはずの 夥しい かえるが

ぴょこん、ぴょこん、ぴょこん、・・・・・・・・
つぎつぎに はりきって 飛び出してきた
それらは みな 透明な、かえる達だった

生と死の間の透明が
空白空白空白0整った鼓動とはかぎらない だから
空白空白空白空白空白空0かえる達は、さらに 抹殺されるかもしれない

だから 負けまいと 跳ねたのかもしれない

そのようなとき 透明な、皮膚を 透して 読み
それでも 切先を向けようとするなら
わたしたちは もうメスの先に居ない

荒川さん ───・・・・・
わたしは わたしたち、という 言葉を 使いましたが
その わたしたちって いうのは
書きたい詩を 書きたい儘に 書いている

詩を 楽しむことを生きている 人たちのことです
技術に 穢れる ことだって、あると思っています

荒川さん ───・・・・
詩を 楽しむことを生きている 人たちのことです

荒川さん ───・・・・・
時代も 跳ねて 変わってきた、っていうことです
時代は 跳ねて 変わってきた、っていいたいです

 

 

*荒川洋治 1970年代の 発言に基づく

 

 

 

夢は第2の人生である 第35回

西暦2015年神無月蝶人酔生夢死幾百夜

 
 

佐々木 眞

 

 

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極寒の僻地にあって九死に一生を得た私らは、ようやく郷里に帰還しようと寒村の小さな駅に辿りついたのだが、プラットフォームに立つと、アテルイという名の記された深紅の長い長い貨物列車が、轟音をあげて通り過ぎて行った。10/1

久しぶりに以前訪れたことのある野原の果ての廃墟にやって来た。今回はなぜだかイラストレーターの川村さんや画家の橋本さんなんかと一緒だったが、入口には「隠喩とアナスタシア」と書いてある。いったいどういう意味なんだろう。展覧会でもやってるのか?10/2

戦争が近付いてきたからか、急に井戸掘りを頼まれるようになり、その数なんと1万件に達した。焦った私は、知り合いの伝手やコネを総動員して、全国各地の職人をはじめ学生のアルバイトまでかき集め、朝から晩まで井戸を掘り続けている。10/2

山中でその子の死体を見つけたのは、数日前のことであった。どうしてこのようなものがこんなところにと思ったのだが、私は、そのことを誰にも言わなかった。10/3

しばらく経ってから、私はその場所を目指して山を登って行ったが、山道でイノシシや野兎や猿や熊たちと出会うたびに、私の顔も体も彼らの顔かたちが乗り移って、異様な風体へと変身していくのが分かった。10/3

妻が運転する車に乗って学校へ行ったら、「今日は私も授業があるのよ」というので、驚いて彼女の教室をのぞいてみたら、聴講する学生が鈴なりだったので、また驚いた。私の授業の聴講生ときたら、毎年10名すれすれなのに。10/4

こないだ通販で買ったCDを、同じ業者がさらに安く売っているのを発見して、「こんちくしょう、どうしてそんな酷いことをするンンだ。おいらがなけなしの金をはたいて、清水の舞台から飛び降りるつもりで買ったというのに」と、朝までいきまいていた。10/5

新製品のネーミングにうるさい社長だったので、「では英語やフランス語やイタリア語はやめて、古い日本語でいきましょう。「国定忠治は男でござる」というのはどうですか?」と冗談半分で提案してみると、「おお、いいね、いいね。どうしてもっと早くそれをいわないんだ。それ、それ、それでいこう!」と大喜びするのであった。10/7

「信望愛」のうちでもっとも大いなるものは愛である、とたしか新訳聖書に書いてあったような気がするのだが、信仰も愛もてんで持ち合わせのない私は、一筋の希望さえあれば、なんとか今日も生きていくことができそうに思えた。10/7

ふとしたことで知り合った2人の女性は、いずれも小説家だったが、てんで本が売れないというので、「千円引きでなら、私が買ってあげますよ」と口走ったら、その翌日、段ボールを満載したクロネコヤマトのトラックが玄関に停まった。10/8

広大な原っぱには巨大なテントが張られており、中ではフェリーニのサーカスを思わせる極彩色のファッションと、音楽と演劇を一体化した夢のようなライブイベントが繰り広げられていたので、私は歓声を上げながら、写真を撮りまくっていた。10/10

電話ボックスの中に入ると、なぜだかその中にも薄緑色の植物が生えていた。電話しながらそのやわらかな葉っぱを食べていると、大きなムク犬がボックスに入って来たので、こいつにも葉っぱを食べさせてやった。10/11

新聞社の「市場」についての調査にご協力ください、といって訪れた若い女性が、あまりにも魅力的なので、家に迎え入れて耳を傾けていると、結局は物販の売り込みの話なのであった。10/11

この節は度量衡の規格が次々に変わる。こないだは判子を作り直したばかりだというのに、今度は「持ち船の形式と容量を見直せ」というお達しが出たので、結局造り直さざるを得ないだろうな。10/12

埋立地に出来た見本市会場の件で、若い女性の部下と一緒に現地の担当者を訪ねた。1ヶ月後にその商談が纏まった頃、担当者と部下の連名で、結婚式の招待状が届いた。つまり彼らは、ひと月で2つの商談をまとめたわけだ。10/13

一念発起、酒も女も絶ってひたすら店頭で販売の音頭を取ってみたものの、声を張り上げれば張り上げるだけお客は逃げ出していき、売り上げはさっぱりだった。10/14

3人で町を歩いていたら、チンピラ2人にからまれたので、うちのA子がさっと金的を蹴り上げると、その時は素早く退散したが、今度は私がいない間に、A子ともう一人の若者を誘拐したので、私は正宗のドスを腹に呑んで、敵の本拠地に奪回に向かった。10/15

中国の田舎の空港で降りたら、昔会社で常務だったナベショーという男が、免税店でどんくさいアメカジを売っていたので、懐かしくなってポロシャツを買おうとしたら、大きな鍋で炒め物を調理しながら、「お客さん、ここらへんは、商売さっぱりあきまへんわ」と、情けない声を出した。10/15

眠っている間に地震が襲ってきて、私が乗った地球というメリーゴーランドを揺り動かす。それはヒトコマごとに前進するのだが、ときおり揺り戻しがあって、また元に戻ったりするので、非常に恐ろしかった。10/16

やがて官憲がわが家を違法建築であると決めつけて、取り壊しにやって来たので、私は毒矢で武装し、今度こそ死ぬまで徹底抗戦しようと決意した。10/17

「遊動円木」とか「不労所得」とか「交響楽」という名前の鳥たちが、ひらひらふらふら飛びまわっていた。10/18

次期ノーベル文学賞の受賞が内定した谷崎潤一郎選手の命を狙う悪党がいるというので、私は、警視庁から派遣されて、彼の警護に当たっていた。10/19

「綺麗な呼吸大会」という不思議な大会に出場した私は、あらゆる瞬間において見事な呼吸をしている、という理由でグランプリをもらったが、受賞の意味がてんで分からなかったので、もらったトロフィーをその場に置いて退場した。10/20

今日もいつもと同じ散歩道を歩いた。歩きながらビシバシ写真を撮っていたが、「まてよ、これでは毎日同じ写真ばかりになってしまう。少しはフィルム代を節約しなきゃ」と思って、撮るのを止めてしまった。10/21

コンセプトは「我らの右手」だ。午後9時には子供たちを階下で寝かせ、大人たちだけの製品づくりが始まった。10/23

星まつりの夜に窓の外で2002年の2月に身罷った愛犬ムクが「WANGWANG!」と鳴いているので、外に出ると、衝突した車から飛び出した若い衆が、川の中で白眼を剥いて斃れていた。恐らく、もう死んでいるのだろう。

すると、すぐ近くで悲鳴が聞こえたので飛んで行くと、やはり同じ年頃の、祭りの法被を着た若い衆が、道の真ん中で白い泡を吹いて斃れていたので、驚いた。すぐに救急車を呼ぼうとしたのだが、生憎その番号を思い出せないので、携帯を握りしめて棒立ちしているわたくし。10/24

私らは、大木の枝の上に鳥の巣のような小さな小屋を作って、その中で生活していたが、なにしろ狭くて、ちょっと風が吹いてくると大きく揺れ動くので、不安で仕方なかった。10/26

今夜は豪華な肉料理をフルコースで食べるのだから、お昼は蕎麦にしておこう、と思うのだが、天ざるにしたらエビ天がお腹に残ってさしさわりがありそうなので、店の前でメニューを眺めながらいつまでも迷っていた。10/26

一緒に歌舞伎を見にいったデザイナーが、「あたしはもう仕事が嫌になった。こんな仕事を八十までやるのかしら」と呟いていたが、私は知らん顔していた。10/28

昔からお世話になっていたSURELADYというブランドを担当する佐々木さんを訪ねたら、大病を患っていて、もう長くなさそうだったが、相変わらず優しく頬笑んでいた。10/28

ボスの命令で会社に従業員家族を招くことになり、会場のあちこちに美しい花々を飾り付けたのだが、当日入場した人たちは、誰一人目を留めることもなかった。10/29

 

 

 

オフィーリア

 

佐々木 眞

 

 

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今朝、死体を見た。
滑川の橋の下の魚たちが大好きな窪みの上で
それは、冷たい水に浸かっていた。

昨日白鷺の夫婦が、長い首をつんつん動かしながら
ぎくしゃく歩いていた小さな川に
蒼ざめたマネキンのように、ぽっかり浮かんでいた。

かろうじて水面からのぞかせた顔は、蝋のように白く
半ば閉じられた両の眼は
昇り始めた朝日をじっと見つめている。

祈ろうとして胸を目指していた両の手は
その願いを果たせなかったらしく
水の面に掲げられて行き場を失っている。

それは英国の画家ミレイが描いた
水藻の間を流れゆくオフィーリアに似ている。
叶わぬ恋に身を投げた高貴な少女の最期の姿に。

あくまでも恋人の抱擁を求めようとして、微かに開いた口からは
いつかどこかで聴いた尼寺の歌が聞こえてくるようだ。
寿限無寿限無海砂利水魚と泡立つ音に合わせて。

しっ、静かに!
水底で黙って耳を傾けているのは、
午後の太陽をじっと待っているハヤの七人家族。

せっかちな翡翠は、青の残像を残して慌ただしく飛び去り
白鷺の夫婦は、小魚探しに余念なく
寝坊助の亀次郎は、長い冬眠からまだ醒めない。

 

 

 

foolish ばかな

 

新丸子の
部屋の

壁に

雨ニモの詩を
貼ってる

花巻の記念館で買った

ホメラレモセズ
クニモサレズ

そう

彼は
書いた

詩はね
底辺のことばです

底に
佇つんです

馬鹿者の
ことばです

リアルってなんですか

あなたに
問うてるんです