原田淳子
逝き交いする
星と石
詩は天の川
その畔にて
色を掬う
骨をも腐らす、ながい雨の時代だった
緑の陰で溺れ、背には甲羅が生えた
もう、三百年生きた
望みという友もいない
亀は海に還るまえに光をみにいくことにした
闇の眼ではなにもみえず、光の匂いを辿った
這いながら泥を舐めた
それは微かにまだ記憶に残る
三百年前の水の味がした
峠を這い、
頂きの朝、
甲羅に全方位に亀裂が走った
未来という頂きに鳥が舞う
眼から落ちた鱗は光の粒
真珠の首飾り
“すべてが美しく、
傷つけるものはなにもなかった”
ヴォネガットの墓に刻まれたその言葉を甲羅に刻んだ
亀は海に還ることにした
石に導かれて、浜を漂い
青く寄せる波に甲羅は溶けた
声の方角に風が吹いた
幻の石がひとつ、浜に遺された
峠の光のいろ
大菩薩峠にきょうもまた陽が昇る
きみが知らない
きみを葬ったそのときのことを
雪で埋もれたきみの墓のまわりを
一羽の尾長が
真っ黒な尾を振りながら舞い降りた
手向けられた花は凍っていた
尾長の彼はわたしのそばから離れず
歩きながら剽軽に尾を振った
わたしは笑って
尾とともに頷き首を振った
それが大地を刻むリズムであることを
生きてる彼は彼の体積で示した
彼のやり方で
それが鈴懸の木の実を揺らす歌であったこと
それが愛おしい歌と似ていたこと
終わりに吹く風は
始まりの歌であったことを
きみの土に口づけで伝えよう
まいにち、砂を噛む思いだと、
いつかきみは囚われた家の窓から呟いた
毒を培養する壁を
わたしはなぜ焼かなかったのだろう
送受信が緻密に発達したこの家を
わたしはなぜ壊せなかったのだろう
毒を薬に換える手立てを
まだわたしは探している
きみに似て非なる近しい者たちが
鈴懸の実を揺らす
ここそこに
これが時間なんだね
水と
歌が流れる
誰もが光の子どもだったことの標に
貝は傷ついて真珠を生むのですって
その光の粒は
埋もれても
汚れることはないでしょう
ゆきたいのは 春のむこう
触れても壊れることのない あたたかさ