原田淳子
いつも見落としてしまう
矯正した視力で
複雑さの殻を纏っているから
裸眼から漏れだす
春の撹乱
花を咲かせ
実を揺らす
壊れない柔らかな土を探して
揺れつづけていた
単純な肌
不条理さを賢さに重ねて
土の記しを探していた
笑いたかったの、
陽射しのように
冬は春を待っていた
夏は秋を
秋は冬を..
春は
十年越しの旅だった
白い夢
白い梅
時間とは、幻だったと、
空回りした回転盤が
花の交替を告げる
死というのは
回るレコードが無いということ
遺された者は
宙を滑る針
空虚は、無色の
沈む重さがあって
ことばは逸れてしまう
孤独というのは
与えたい者に
与えられるものがないこと
替わりのレコードが無いということだった
慰められず
顔を白塗りにして
みずから踊ることしかできない
塗り重ねられた灰盤に
真っ赤な林檎をおいた
なぜ人はひとつの心に
ひとつの身体しかないのだろう
髪を
臓器を
命を
ミトコンドリアみたいに
ちぎって分けられたら
光はめぐるのに
林檎なら
蜜までやさしく切りわける
唇まではこんであげる
寂しいときは
わたしの灰を回して
林檎のうたを聴く
蜜の香りがしたなら
回転盤に
さざ波を立て
わたしが遠くで踊っていると
…
春水が流れつく
湖畔にて
さざ波立つ