stray sheep

 

工藤冬里

 
 

三四郎は感嘆した
そこまで心を広げることができるとは
心臓がどきどきして苦しい
八つ裂きに遭うまでの命だが
茶色いアジアが広がってゆく
土塗れのモオヴよ
司書を目指す
胡座の十代
映画は黄色い肉が引き攣っている
丘の腹に墓地がある
黒い背広は着ない
爪先のクリーム色
嵐ヶ丘で引き千切る
セの発音の群青の空
胡座の十代の声
平行線をつけ足すことで絵にする
伏せた傘の手の切れそうなエッジ
乳白の青が帯となっている
がしっと植えられた木が今
金も内臓も場所は決められている
手伝ってくれる動物がいない
私は憎まれる
グリス塗れの球がシャフトのベアリングに詰まって黒い

 

 

 

ABOUND

 

工藤冬里

 
 

 

散文的な夜に
散文的な夜には
話し掛けてくる逆光の輪郭はずれ
冒した過ちは
原始的な蓋の容れ物に三角に押し込む
声を大きくすると
秘密を真珠にして

一喜一憂するふたつの管
が水平に下りてゆく黒暗
水平なのに下りてゆく気がするのは
耕作地の向こうが闇だからだ
発音を何度も聴き
神はふたりだけ
流れ込む(merge)支流が行き場を失って溢れた
名前年齢身長服の特徴
水槽の脇で
地元を案内
白黒の鞘入り乱れ
玉蜀黍を思わせる
穴は上昇する
河床勾配は5/1000
湿った灰水色
rover時代のmini
スバルN360を大事に乗っていたら
蛾の服に穴はない
邪悪な天使
ある人は怒るかもしれません
あなたの神は偽の神
光る竹観たすぎ
嫌らしい和風
祭りと祭りを合わせ
穴と穴を合わせる
篤い人
LGBTのガスボンベを交換
旅を良いものにしてくれる筈
本当かどうかは
付いて行かねばわからない
その辺を二つ穴から考えてゆくことにいたしましょう
門構えの形をした門が見える
視線の歩むべき道を教える
秘密を明らかにする
友情について
愛の壮大
一時的に間違った
失われたカ行の発音
さらに愛情深い
父親
オレンジnaranjaの車
書き順を逆に 寄り添う
蒔くと鳥の群れ
ミトコンドリア型錠剤
抉れた左部分が光っている
実際に崇拝されている神はふたり
像 帽子
世とは
ふたりの銀座
本流支流どちらかを選べ
ふたつの管を逆上る
美雨はしゃあしゃあ
抜け殻に本体の蝉の響
釈放されてもすぐに去るのではなかった
ABOUND
掴め
ただ持つんじゃなくて掴め
keep a tight grip
in the word of life
let your love abound
in the hard rain
abound with this hard rain
knowing I ran in vain
or worked hard in vain
be flawless
in the hard rain
knowing that I have run in vain
or worked hard in vain
be flowless
有機体の内部では痒みは
とどめられるどころか
かえって広まっている
be flowless
in the word of this organism
in this flow
river flows
through this organism

 

 

 

あらゆる希望を超えて待ち望む *

 

工藤冬里

 
 

タイムウィンドというよりウィンドタイムだ
風が時間を洗っている

風は時間よりも爽やかだ
内臓の岩に吹く
プレハブのモルタルの現在
フルートの管の中を
痛みを運ぶ
空白空0電気にのせて
翼は鏡に刺さり
ヨブはあたらしい陶片を手に取る


ぼくはもう何も期待していなかったし、期待できることは何もないと重々承知していた、現状に関するぼくの分析は完全で確実に思えた。人間の精神には知られていない領域があり、それはあまり開拓されていないからだ、幸いにもその領域を探索する羽目になる人は少なく、その作業を行った人は十分な理性を持たないがゆえに、これなら分かるという描写には至れないのだ。そのゾーンには、実際に思い出せる限りただ一つの表現、「あらゆる希望を超えて待ち望む」という、逆説的で不条理な表現を使うことでしか近づくことができない。それは夜と同義ではない、さらに悪い。そして、個人的に経験はないものの、実際、真の夜、半年続く極夜の中でも、太陽のイメージや思い出は残るのではという気がした。ぼくは終わりのない夜に入りこんでいたが、それでいながら、自分の憶測に何かが残っていた、希望と言っては言い過ぎの、不確実性とでもいうべき何かが。同様に、個人的に勝負に負けて、最後のカードまで出してしまっても、ある人たちにはーあくまでも全員にではないがー天で何かがもう一度状況を作り直し、新しいカードを恣意的に配分してくれて、もう一度サイコロを振り直してくれるという気持ちが残っている。神などというものの介入や存在さえ人生で一度も感じはせず、自分に好意的な神の采配に特に特に値しないと感じていても、そして自分が人生を構築する上で限りなく過ちを重ねてきたとみなし、誰よりもそのような采配を受けるに足らないと気がついていても。
ウェルベック「セロトニン」関口涼子訳

三番町のSAORI皮膚科で
処方されたジェネリックのステロイドのお陰で
眠気という采配を受ける

風は
臍にまで達する
血に至るまで抵抗したことのない胎児には
もどれませんよといわんばかりに

 

 

 

愛の計量化の試み

 

工藤冬里

 
 

目を閉じて
色を思い描こうとするが
●目を閉じると
●マチエールは思い描けるが
色を思い描
色は思い描けなかった
色は思い浮かばなかった
●色を思い浮かべることはできなかった
●目を閉じると
●色は記号化されていた
目を閉じると
色は思い描けなかった
脳内に言語として貼り付けられているだけのように思われた

目を閉じて
色をひとつひとつ
ひとつひとつ色を思い浮かべようとしたが
目を閉じると
色を思い浮か
色は思い浮かばなかった
目を閉じると
色は記号化されていた
色は言語
色は記号化されている
目を閉じれば
色は記号化されている
●瞼を閉じれば
●色はただ記号なのであった
目を閉じれば
色はただ記号
目を閉じると
色は
瞼を閉じれば
色は記号化されていることがわかる
色は目
色は
脳に貼り付けられている
瞼を閉じれば分かることだが
色は
脳に貼り付けられた言語である
なぜ放置されていたのか
色も折れるのか
気持ちが沈んでいるのではないか
どうしたいと思っているのか
再建させてください
家は荒れているんです
壁の色を思い描けない
焼かれたままになっているのに
見たことのない輪郭に色はない
そのオブジェに色をつけることは出来る
ただそれよりも
瞼の裏の残光が強い
記号は光ではないからだ
弁当箱の昆布の佃煮のような声だったから
黒だが
前にもこんなことがあった
記録はスマホで

空白空白空0

また同じ場所

また同じ場所で
上と下に伸びて行く
根も実もないが
手負いの獣のように
宙空に出現する

空白空白空0

考えに高低があること
天と地ほどに差があるということ
傷付いたので言う
何種類の昆虫を見たか
感覚の拡張
光に縁取られた葉
太い線でうちそとを分けるタイプの
薄い色のマシン
犠牲で測る大きさ
考えに高低があるように
愛は計量化される
撫肩の威厳
すべての撫肩の威厳よ
すべての役割語の語尾よ
鉤括弧の外の句点 中の句点
髪の毛の数と色
雀は地面に落ちる
落ちるように降りる
十万本
数える
ユダの長所
字が綺麗
ぶしゅぶしゅと世の空気が入った巨躯
心を大小で計量する
血管の膨らみ
人によって異なる川
川が踵を返して青く逆流してくる
つまらなかった
トキ
遅れ
早まり
金土
頭の形で国を識別
SFの映像
ユキは脆い石像のようだ
両生類の声
錦帯橋の堅牢
筆致にも高低がある
太い線細い線 赤
両生類と思っていたが ハギ
畑に耳を植える
威厳というソース
血管
カーテン
白粉(おしろい)
胴回り
城門
信頼
手の窪み
白い鞘の中に寝そべる

濁った海水
釣り上げる
赤い下地こわい
細い木目
弱い
91
35
きらいだけれども幸福
汚れ仕事
黒が濃すぎる
ていうか 浮いてる

きらいだけれどもたのしむ
信頼を計量化できるか
名前の移行は緩やかに行われた
母は百五歳

 

 

 

裏返った初夏の凄惨

 

工藤冬里

 
 

こんなに晴れた秋の日なのに
空から毒が降ってくる
命は
捨てようとすれば近づき
遠ざかろうとしてしがみ付く
証拠とは見えないもの
維持するためだけのものではないデザイン
毒味してみてよと言われて
飲んでみせる
治ったり解決したりはしない
母の死んだ子の 襟が直角に交わってめいろのようだ
黒い扇形が
地形を均す
オレンジジュースが 暴れる
ブルドーザーの頬に板を充て
はつかり号にする
心に納めていた
山吹がかった丸
ディスプレイに段の畑の波が拡がる
濃い緑が頬に垂れ
その層から塩が流れ出してしまう
左手に剣
左手を突き上げる
裏返った初夏の凄惨
マスコミと云わなくなった
七一歳の顔を見る
放射線をかわすとオーロラになる
DNAとRNA タンパク質
私達は家と工場を往復している
設計図をコピーしパーツとしてのタンパク質を組み立てる
私にだけ支えがない
ばさばさと論証する
結末をしっかり予告する
蜂のような うなり声がする
水の浄化のデザインを知った人は
警告を受ける
そのルールと力、
繊細さと複雑さ、
によって警告を受ける
知識人から注意深く隠す
黄や茶色から
経穴から胃に来る
髭を剃る時のオレンジの明彩の変化
団塊の鼻息としての外向
イエローの分配、
初夏の裏返しの紫の凄惨
薄緑や青の中に
オレンジの

せいぜいがカートゥーン色

 

 

 

holy sunameri moters

 

工藤冬里

 
 

-1.先週までのあらすじ(ネタバレ)

人生のアーカイブ化を図るK(60)は、文壇もとい分断された詩の場所を統合しようとして失調し、ウィーン分離派があるなら日本分離派はないのか、などと呟きながら財布ごと銀歯を失くした呂律の回らぬ頭で反メルキゼデクを妄想する。空港近くで避難警報を受信するが、町の避難訓練だと分かると宙吊りにされたままビッグコミックオリジナル9月20日号佐藤まさあき「夕映えの丘に」再掲を読み、モノクロームの線が赤より赤いことに驚く。遠藤水城の満を持したアイトレ文に刺激され、「痺れるような柔和さと燦めくような分かり易さで諸体制の延命を図る頭脳らの世俗性を俺は拒否する/体制に延命など要らぬ/今滅びろ」とツイートする。青い朝顔の、午前中だけ続くその栄光を活ける。ブレードランナー2049を観、未来はなく過去を変えることでしか今の栄光はない、との思いを強くする。三万いくら入っていた財布を運転免許やカード類と共に失くし、タイヤをパンクさせられ、映画館駐車場の側溝に落ちて左大腿骨を強打し、巣立後のオスの足長蜂にまで刺され、身分証明にと持ち出したパスポートまで失くした状態は、自分が地雷として愛を定義してしまったことに因る彼方側からの攻撃と信じ込むが、金を拾うなどのいくつかの不幸中の幸いとでも呼べる出来事があり、幸福とは不幸度7に対して3くらいの割合で生じてゆくものだなどという間違った人生哲学を開陳するまでになり、止揚を相殺と訳すノヴァーリス、偶然と悪霊が殺し合うのか、などと分断/統合の結末を呪いながら、切れた筋肉に絆創膏を貼って灰に赤い糸の混じった眠りに就くのだった。

 

0.創(キズ)

目覚めれば満身創痍と分かるだろうきずをつくると書いて創造
絆創膏剥がす速度を速めればきずなのきずは一瞬で済む

顔の上で
金八先生のようなことを打っているうちに
また寝てしまい
緩んだ手から眉間に降ってきてさらにベッドの
下の硬い床に落ちました
慢心創痍工夫

 

1.次の日

チャンジャ高かった?
よく見れば灰とピンクでアルトーぽい
白にも色々あるね
車を選ばされる社会
先生 トイレに行っていいですか
と言えず池田さんの足の周りに水たまりが広がっていった
過去を変えるだけのヒーロー
文字を立体にするだけの落書きが
後の映画のエンブレムになろうとは
レプリカントの血のように
弁当のチャンジャ
国分寺の坂を下った
深夜もやっている定食屋で
若い人達はチキンカツ定食を食べていた
そこでチャンジャを見つけた時は嬉しかった
幕の奥に振りかける
イエス、幕は肉体である
故意の恋の罪に犠牲は残されていない
最後から二番目のセミがまた啼き出した
背広は袖が狭くて手首が入らない
どうしても死が必要である
代わりの血で契約を
地平線近くで興ると雄大に見える
濁点は付けないでくれ
おしゃれ泥棒
心に置き頭に書く 法律
撓垂れた観葉植物
拓輝は ひろき と読むのか
みんな親に似てるなあ
親の親を五十代くらい遡れば
もっとトマトやキュウリが出来るだろう
地上に建てるものではない
前に話したじゃないですかー
ここで眠くなっちゃった
インタビュイーはこたつの中で髪を七三に分ける
次の日を心配しなくていい
次の日はない
次の日を末席に坐らせる
私は次の日である
過去が、次の日なのである
声たちが、席に着いている
次の日は招待されたが断った
駄菓子屋のような風が吹いている
露地や小径に行き、誰でもいいから無理にでも連れて来なさい
笑ってない

 

2.居酒屋「ラッキー」にて

いっぺん病気でもせんとこりゃ無理やな
でもこれは所詮にんげんのものがたりだ
なんてこった
柿の実が俺に当たる

 

3.すっからかん節

すっからかん
すっからかん
ジャック・ラカンもすっからかん
五百羅漢もすっからかん
次の日はない
妄想の中で過去を変えることの中にしか
希望はない

 

4.敵の土地で朽ち果てる

告別の間僕は眠っていた
言葉は洞門の内壁を伝い
上流に抜けていた
認知が完全に進んだ時
司会者が町にやってきた
鳥籠を持って
羽が生えるのではない
羽で覆われるだけなのだ
今はセメントが居留地を覆っている
黝ずんで、SFのセットのようだ
破戒的な疫病が蔓延し
竹冠と草冠を取り払った剝き出し
真昼の決鬭から門構えを取り払うとどうなる
災厄がテントに及ぶことのないためには
鳥籠を避けなければならない
上流で言葉は禁令という石に打ち付けられる
正面から攻撃してくるのはライオンとコブラ
禁止の報せを帯びたディスプレイは青味がかっていて
迫害自慢の目隠しを外せば
吹き抜けの夜空が見通せる
手を並べ小さい恐龍と大きい恐龍、と言う
蓋を開けてみれば、
あるいは蓋から草冠を取り去ると、
私達は石のように笑っていなければならなかった

私は敵の土地で,生き残る人たちの心を絶望で満たす。彼らは,吹き散らされる木の葉の音に追い立てられ,誰も追い掛けていないのに,剣から逃げる人のように逃げて倒れる。誰も追い掛けていないのに,剣から逃げる人のように互いにつまずく。敵に抵抗することができない。 国々で死に,敵の土地で息絶える。(lev26:36-8)

荷を負い、外国に引っ越すべきか
隠し場所を決める
口籠で守る
口籠から竹冠を取り外すと
詩は用語を変えて
分裂したパーティーは長く続かない
牛乳パックの絵のように
或いは夏ツバキの幹のジグソーパズルのようにして
嫉妬を克服した
バレエの骸骨
追うマンガ
敵の土地で朽ち果てる (lev26:39)

 

5.共鳴しない秋の歌

君がいるのはいけないことだ
と歌う声がカーラジオから流れてきて
ぎょっとした
なやみつかれてまちのなか
と続いた
草野さんの声だということは
その頃にはわかっていた
検索すると
悩み疲れた今日もまた
だった
研究?している人もいて
カレーという語が出てくるのは
エンケンへのリスペクトだ、
ということだった

 

6.道連れ

死ぬ死ぬと言わせ
それはこういうことかと言わせ
受け身を加速させ
道連れの豚の群れに
ひこうき雲を聴かせて
食べられない体にしてから殺す
せめて食べてくれればいいのに
分かりました
フェストフード店に
言っておきます
あなたを食べた生き物を出しましょう
ありがとう
それでこそ政治家だ
どういたしまして
それがアジェンダとしてファーストですから
ああ
何とかの何とかが第一てやつのことですね
ありがとうありがとう
では一緒に歌いましょう
ごりん ごりん ごりん
りんごはごりんじゅう
じゆうなりんご
りんごは捥がれた
ところで
移動を禁じられるとは思ってませんでした
江戸時代はそうだったのは知っています
りんごは
自転車でモールに行き
百均で働いているだけですから
いいんですけど
農協も忙しくて
頼んでも田植えに来てくれないので
ふしぎな単一の植物がひょろひょろ伸びて
メキシコのさばくのようです
一度行ったことがあります
国境付近でした
UFOしか観光資源がない町という触れ込みで
プラダが店出してました
砂漠の真ん中にぽつんとプラダ
プラザ合意って知ってますか
留学したのはその前です
気分は田中英光でした
その頃は連絡船の出航用に紙テープが売られていました
海に色が溶けて
汚染といえば汚染でしたが
分かりやすい汚染でした
私企業とか紙テープとか
ウカマウがよくやる、
責を負うのは誰それであるという
分かりやすいターゲット設定の快感
それが今は
マリオネットだから
マリーアントワネット
ネットのマリオ
マリというオネエ
デラックスなターゲットだねえ
キンに目を向けさせる
キンのマネー
マネ菌

禁令下の
ジャーマネ
ゴダール曰く
いまや蚊の方が真剣だ
道連れで壁という曲を思い出したんですけど、元の詩は
たくさんのかべ
たくさんのおり
たくさんのろうや
それがくずれるとき
わたしの体も破裂するのだ
花をつめ
花をつめ
うつくしい花
すぐにくさってしまう
うつくしい花
という、シュトゥルム・ウント・ドラングの詩人レンツの影響下にあった礼子によるロマン主義的なものでした。初演は椎名町消しゴム画廊、角谷と礼子と僕の三人でした。その数年後に出たピナコテカ盤の、道連れのキクノハナ、という歌詞は、欠落を埋める気質のある攝が忖度して付け加えたものです。崖から飛び込む道連れはいいからきみはもう独りで歌え。

 

7.エンドロール

財布は戻り、事件は解決した。しかしKの胸にはいつまでも消えない重苦しさが残った。

「あの、俺さあ、もう詩人刑事やめようと思うんだ。所詮俺の居場所なんてなかったんだ、ってね。」
「それな」
「・・・」

 
 

シーズン2-1に続く クリック

 

 

 

アルシーヴ

 

工藤冬里

 
 

‪分離はほんらい‬
ひとつだったものの記憶だ
剥がそうとすればするほど
上へ上へと逃げる

父も母も系譜もなく
いつ生まれていつ死んだかも分からない男に永遠は属する

歯が無いので呂律が回らない
呂と律で楽となるが
楽の音は廃され
契約は新しいものに取って代わられた
あらゆる通知がそれを知らせる
その度に携帯は震え
避難訓練だと教える

洗濯機の渦の中に愛情を流し込む
夕日のパノラマの中
車は赤より赤くモノクロームを走る
オタマジャクシの呂律はデジタルなマーカーで蛙の項を囲い
バターナッツかぼちゃのラインの分かり易い契約を知らせる
揺れる謡の展示の延命

痺れるような柔和さと燦めくような分かり易さで諸体制の延命を図る頭脳らの世俗性を俺は拒否する
体制に延命など要らぬ
今滅びろ

体がない!
きっと病気になる
欠落と妄想を上に分離して
完全にアルシーヴの時代となった
glory,kept open
未来はなく過去を変えることでしか今の栄光はない

タイヤは換え此方側familyの善意で手帳は見つかったが体がないので生贄としての財布を失くす。それは愛の定義の暴露に依るものだから隙とかじゃなく防ぎようがない。此方側の認知の問題ではなく彼方側の悪意の問題なのだ。非道く攻撃され灰は糸の血を咥え てれん とした朝だこと
止揚を相殺と訳すノヴァーリス、偶然と悪霊が殺し合うのか

更に蜂に刺される
溝があるのに気付かず大腿骨を強かに打撲する
パスポートも失くしたことに気付き

 

 

 

愛とはなにか

 

工藤冬里

 

夢の方がまだ良かった
夜叫ぶ鳥等がその証拠だった
万能感に打ち拉がれるよりは
夢の中に早く入りたかった
寝ながら人を殴るとしても
夢の中の方がまだ良かった
夢の中では二色の車のドアを外した
黒い方のドアを燃やさなかったことで女が金切り声で歯軋りした
誓うことで論争は終わる
夜叫ぶ鳥等に誓うことで論争は終わるか
今年は冬瓜を見ない
産直市とかでまめに探すのだが高知にも愛媛にもなかった
不作だという情報さえない
冬瓜に何があったのだろうか
熱帯化によって旧来の夏野菜はうまく育たなくなっていると野網君が言っていた
朝顔が秋の花になったように私たちの夏は秋になり、太陽は木星に、月は血に変わるのだろうか
夜叫ぶ鳥等よ
夢の方がまだ良かった
きみたちがその証拠だった
万能感に打ち拉がれるよりは
夢の中に早く入りたかった
寝ながら隣人を殴るとしても
夢の中の方がまだましだった
夢の中ではドアを外した
黒いドアを燃やさなかったことで女は金切り声で歯軋りした
自分より偉大な者に懸けて誓うことによりどんな論争も終わる
その誓いは法的な保証だからだ
歯は前線の城なので
マウスピースはあたためておけ
公民館のワタナベとマツモトの子らをがっかりさせて
町営住宅の 来た道を急いで戻る
アイダさんが見にくるとりかえしのつかない夜に
特攻の蚊が遠くで
サックスよりも遠くで
墨流しに似た白線の平行移動
マル・ウォルドロンのホールトーンの平行移動
カミナリもありまっすぐには降らない
点々だし
マスクメロンを被っていた
藤井マリの消息を久しぶりに目にした
カボチャは売られていた
冬瓜
夜叫ぶ鳥等
身軽になって
やさしさの反対に除き去られ
富はわたしたちの為に使われ
痺れが辛さに対するように
四次元から感情を見下ろす
示されたのはモダニズムの線の限界
海底の山を飛行機から見下ろす
額には三つの海
手の平は甲より厚く柔らかく
高さと低さの測定の為に
1㎠に2500のセンサーがある
無人の店の実の正しさは
予測できる富の消滅
忘れ去られていく死んだ人々
シーズン2まで形作られた
論理と思われていたもの
シルバーヘアの内面が黒
宇宙外の服の人がいるけれども
外はいずれ衰える
前もって考えた
親に育てられなかったが
根から青く変わった
コンクリートさえも輝く
ダクトはクジラ内部の乱視のイカのようだ
塗り絵の囲み線に
夜の水色を乗せる単純が
壁に髪ごと埋め込まれている
吊り梯子で外縁へ出、
家族の言うことを聞かない
卵子星のヘリウム→炭素 爆発
星 と 人 にも示される
ザラメの回転の 声
崩壊は意図されていたものか
大気は断熱材として
ヨクちゃん
竹という草は
家や服に
草津のヨクちゃん
赤ん坊の黒目がちに戻れたら
白クマの毛は透明だが
皮膚は黒なので鬼萩
体温は37℃をキープ
動物は永遠に生きない
二千億の星のキズナのいわれ
矯正のいわれ
他愛のない言葉に
脱ぎ捨て 身に着ける
断熱材としての家や服
四肢の整った
青髯の身分証明
脱ぎ捨て 身に着け
犀を抱いて二人で歩め
と陰影明朝体で発音する
魚の顔でギャングに会う
夢の中で殴ってくる
夫のいない天候
落下する胸の水
子供というより子供の気絶死に気を配り
あやめのセットアップを手伝う
必要な土に還元され
根差した垂直の労苦
パンツを履かされた石
一つ選び 継続する
人類だけでなく 私に
一つ選び 継続せよ
裏の裏を裏返して
すっかり疲れて元気
夢の中で殴る
燐寸とは誰か
薪を割り変化を補給する
高知の魚の下顎の歯の列
落葉眼に降るジャングルで霊的に餓え
撫で肩に従う
爽××××
顎のラインがしんちゃん
鰐の蝦蟇口
一日二ドルの収入
海はその深さによって分断すると同時にその名のさらなる深さによって私たちを結び付けている
絶えない体
絶縁された体
配偶者の必要に敏感な
カフカの耳をしているが
この辛抱は本物だ
温和 温和 温和
敬う
その概念さえない中で
示し方を教える
褒めすぎてはいけない
自慢する姿を見せない
おきてがまもりとならなければならない
誓いにより論争は終わる
夢の中では悪魔が興行していた
他の岬の境界にある仮の建物で
見知った人々がパゾリーニ組のように役を演じていた
夢が妄想以上に経験に食い込んでいることに気付いた
ロッヂにはハンバーガーの名前が付いていて
ラファエルを通して祈っていたので舞台は剥がれた
便所裏の草叢で
最初は家族だったと思い至った
その思い出を体系化しようとしたのだ
韓国朝鮮語特に韓国語手話のメンタリティは半分海峡に埋まっている
感情は役に立たない
感情ではなく行いによってしかそれは示されない
感情は後から付いてくるだけだ
それは終わらせることができない
それは永遠に続く
それは感情ではない
パゾリーニ組の劇団シナプス
それはやさしさからは程遠い
それは感情ではない
感情は遥か下に見える
麻から眺めた辣のように
被抑圧者への同情も抑圧者への感情も支配者の論理に絡め取られる
巧妙な椅子のすり替えによって
わたしからノートを取り上げ替えたばかりのタイヤをパンクさせた
支配するとは支配していないふりをするということなので
偽の為政者を立てることまでして隠れようとしている
憎悪を見える為政者に集中させるためだ
だから感情は役に立たない
感情移入の能力を利用されてはならない
犀を抱いて二人で歩むためには
夢や妄想ではなくストレスの中に棲む戦士でなければならない
その定義ではなく実戦のテクニックを教えなければならない
それは

 
 

 

 

 

in all these things

 

工藤冬里

 
 

ひくいところや
たかいところで
いろいろないろで
それをうえから
わたしのばくはつをうえから
にくのひろがりをうえから
じゅうおうの矢印は
腸の位置にあり
肉色の柱
モオヴの路電
ラーメン構造
赤玉が隠れた洞門
羽があって手があるもの
水の色が心持ちを決める
入口と出口が無数にあり過ぎて
わたしの花火は
はらわたのストロボ
洞門ミミズの内部をトラベル
ストレッサーとしてのトラブル
内壁を伝う音声の未来
円熟というより 立ち直りが早すぎる
人のことまで考えて

おりこうなこえはいつかはがされるのだろうかいや
in all these thingsそれらのことがあるなかで
かんぜんなしょうりをおさめています

in all these thingsそれらのことがあるなかで
音声はかんぜんなしょうりをおさめています

 

 

 

高知

 

工藤冬里

 
 

手放し運転
手放しに喜ばれる
暴風にフェンスの蔦が靡く

白く装っていても
中身はドロドロ、みたいな

殖産興業の
谷を朝市は
痩せ細り
暴風は
何でも売れます

警報だらけの
仁淀川
ドレスの白から
白を抜け
木々は靡く
おいでおいで
赤い橋を渡れ

フロントガラスに
溜まる雨粒
ワイプアウトされない
航走履歴
飽和状態で推移していく
仁淀は殆ど湖

通行止めになる前に
この白を抜けろ

枝の散乱
緑の橋を抜け
白い橋も抜け
ここから川は逆に流れる

ここには遺跡がある
黒岩
遺跡があるのは
風がここで止まるからだ

ここで最後のひぐらしを聴いた

* *

針の穴を通すように俯き
筵の上で一点を凝視する祈りの横顔
デザインされた横顔の高知
家の中の蛇は放って置け
すべての小富士に登れ
空いたアパートの部屋をゲストハウスにすると
なりすましのカップルが住みついた
昔は葉を食べていた
今は蜜を食べている
となりすました蝶disguising transformerは言うが
心など信用できない
肉の代わりに石を食べたって本当ですか?

* *

川は逆には流れていなかった
久万からさえも
変容と変革のからまりのように
私たちは太平洋に転がり落ちる