原田淳子

 
 

 

ゆめのじかんがおわった朝は
きえてゆくゆめを栞にして
自転車にのる

図書館の地下書庫の剥がれた請求記号

汗に濡れた皮表紙

仄暗い、黴のにおいのなかで
かたまってしまった913.6のことばに
似たゆめをみつけて、栞をさす

きえたゆめのぶんだけ、栞をさす

秘密の暗号のように
永久に知られないまま
朽ちて、塵になる

どれくらいの栞があるのか
それがなんの栞だったのか
黴の匂いでわからなくなって
偉人たちの写真も
ゆめのいろも
わすれるまで、栞をさす

さしつづける

夜は台所でタオルと靴下をあらう

遠くで河が流れている

わたしの真うえを雲が流れている

わたしも
栞も
雨にうたれて、塵になる

 

 

 

Desert moon, my daughter

 

今井義行

 
 

ドーハは、アラビア湾沿岸の半島に位置するカタールの首都で、
ドーハ湾に面した近代都市 ──引用

尖った 高層ビルが
都市部の中枢に 密集しているその周りは
無限のような
砂漠。

その街の企業で
出稼ぎ労働者として はたらいている
血のつながっていない 我が娘
リアン。

もうすぐ はたちに なるんだね

きみから メッセージが 届いた
もえあがるような 熱い 真夏の夜に ──
砂漠から 吹き寄せるような 風のなかで

きみは いま
ながい 髪をゆらし
月を
見上げていることだろうか

Desert moon, my daughter

[Hi, ChiChi, GenkiDesuka?]
[Yes, my precious daughter Rian!]

英和辞典で fatherを 訳すと
父= ChiChi となるのだろう
私は
ChiChi だ

[リアン、仕事はうまくいっているかい?]
[グッド!!
Hope to see you and visit Japan, ChiChi!!]
リアンの言葉は
砂漠のうえのまるい月のように 弾む

[Teach me basic NIHONGO
I will teach you ENGLISH, ChiChi]
リアンの 言葉は
砂漠のうえのあかい月のように 弾む

Desert moon, my daughter

[もちろんだ リアン
おたがいに 教えあおう ──]

[I want to visit in Japan next year!!]

ねえ、リアン、、、、、
ママのアルジェリーから きいているだろうけど
アルジェリーと私とアンジェラとペンペンの4人で 来年の1月に
ブルネイへ行くんだ
ねえ、リアン、、、、、
きみは 休暇を取ることを許されていないので
私たちと 合流することはできない
ゴメンな、リアン、、、、、

ブルネイはボルネオ島にある小さな国で、
首都バンダル スリ ブガワンは、
豪華なジャメ アスル ハッサナル ボルキア モスクと
その 29 の黄金のドームで知られています。──引用

[No problem, ChiChi、、、、、、]
[Hope to see you and visit Japan, ChiChi!!]

ああ、リアン
きみは とても いい娘(こ)だね
[グッド!!]

もえあがるような 熱い 真夏の夜に ──
砂漠から 吹き寄せるような 風のなかで

きみは いま
ながい 髪をゆらし
月を
見上げていることだろうか

Desert moon, my daughter