舟を出そう

 

橘 伊織

 
 

舟を出そう

東へ

薄青の空に溶けゆく星 ただ誘うままに

舟を出そう

緩い風 この頬を嬲る朝に

舟を出そう

なんの艤装すらせず

舟を出そう

時だけが徒に 遠い記憶へと移ろうまでに

舟を出そう

はるか昔の遊牧民の歌 微かに唇に遊ばせ

やがて風が 真白き帆を孕ませるなら

舟を出そう

骸たちが眠る 名もなきあの島へ向けて

 

 

 

つめたくとおく

 

小関千恵

 
 
















 

 

 

 

 

 

雲の中に扉が見えたのは
やっぱり一人で歩きはじめたときだった

ああ 詩も涙もない
無くなってしまったんだ
あんなにひともじづつ 浮かんでいたのに

‪かたちに身を寄せてはみな蒸発していく‬
‪ひかりにひかりはぶつけられ
だれかの‪大切なすまほも割れていくね
‪ひとりひとりの月が宿る液晶は粉々に砕けて‬
それでも月は これでもかと‬
‪破片のままでも愛しているのだから

いつのまにか
‪詩も涙も無くなって 水平線へ辿り着く‬
‪ひとりで歩きたかったんだ
‪ホワイトグレーの空と海の間‬を
ひかる‪たくさんの魚が飛んでいた
すまほの電池は切れている
宇宙がここまで降りてくる
呼吸をくりかえす
‪海の香りはつめたくとおく
‪なんだ向こうにはまだ‬
‪島があるんだ