斜体の生活

 

工藤冬里

 
 

一日に何回かシニタイと口を突くのだけれども
録音出来たとしても嘘くさい台詞で
嘘くさいと思われるだろうなと思いながら聞いている
自分は首が痛く
余命もあと僅かである
詩に鯛 肢煮たい 市にタイ
人のセンスの無さを嗤うだけで
半世紀過ぎてしまった
自分はといえば
愛でるものが無くなって
目の前のコーポリーナの壁に貼り付けられたコーポリーナという斜めった字体を見ている
我が生はフォントのイタリック体に若かず
と見栄を切ってみるが
暖房を切った車体は寒さがいや増して咳が出始めるので
斜面を降りて
僕はいつも窓から帰るのである

 

 

 

#poetry #rock musician

 

塔島ひろみ

 
 

地球全部を敵にしたような悲しい、怖ろしい目で、Tは地べたに座ってウイスキーを瓶のまま飲みながら、私を見た
40年前に見たその目を思い出しながら 私は「**ゴム加工所」と書かれた戸の前に、立っている
薄く開いたアルミ枠の引き戸から 白い煙が流れ出ている
シューシューと 弱い音が聞こえてくる
暗い作業場には老人が一人
Tは、工具を買いに行って留守にしている
環七下のガードをくぐり、壊れた工場の横をとおり、
坂を上がって土手へ出て
川に沿って黙々と、Tは歩く
カモが数匹 落ち葉のように川面に浮かぶ
その日だまりには、カモを眺める数人の老人の姿もあった
ささやかなそのにぎわいの風景に目もくれず Tは歩く
工具を買うのだ
工具屋は近所にも数軒あったが、
Tは下流にかかる長い橋を渡り、街道をてくてくとかなり進んだところにある店へ入る
そこで念入りに工具を選ぶ
一番持ちやすく、一番重いものを探す
手にとって、振り下ろしてみる
何度も何度も、いくつもいくつも、持ち変えては黒光りする工具を振り下ろす
額に汗がにじむ

シューシューいう音は老人の喉から漏れ出ていた
目はほとんど見えず 腎臓も悪い
かつてTを殴り、唾を吐き、支配した男は
工具を買いに行ったTの帰りを
Tが自分を殺しに戻ってくるのを
頭を潰されてTに撲殺されるのを 待っていた
もう、何十年も待っていた

工具屋を出るとTは街道を先へ進んだ
ずっとどこまでも歩いて行く その先はもうTも私もTの親たちも知らない道だ
ずっしりと重いモンキーレンチが入った布袋を提げ
次第に豆粒になり 見えなくなった

とうに廃業し小奇麗なアパートになった隣近所に挟まれて
傾いた壁を蔦が覆う**加工所は
今日も戸を少し開け、ゴムの加工作業を続ける
注文などひとつも来てはいないけれど

電気も止まっていたけれど

 

(11月某日、高砂で)

 

 

 

I don’t know him at all.
私は彼をまったく知らない。 *

 

さとう三千魚

 
 

yesterday

in the bath with tangerine peel

of hot water
on the surface

I soak in the bath up to my neck

then with a hairdryer
dry my hair

I fell asleep on the sofa
beyond the day

in the bed upstairs
I read “Rock History” by Tori Kudo **

this morning
wake up

I opened the end of the Old Testament in the bathroom

I should have touched

there
was Tori Kudo

There was also Marina Abramovic

I don’t know him at all *

 
 

昨日

蜜柑の皮を浮かべた風呂の

湯の
表の

首まで
沈み

それからドライヤーで
髪を乾かし

ソファーに寝てしまった
日を越えて

二階のベッドの
布団の中の

工藤冬里の”ロック史”を読んだ **

今朝
起きて

トイレで旧約聖書の最後を開いた

触れる
べきだった

そこに
工藤冬里はいた

マリーナ・アブラモヴィッチもいた

私は彼をまったく知らない *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

** 岩波書店「図書」11月号 工藤冬里「ロック史」のこと

 

 

 

#poetry #no poetry,no life