last great wilderness

 

工藤冬里

 
 

三〇〇万のための水を補聴器で 掬う
泉は一二 、椰子の木が七本あったがそれが何になるだろう
親が死んだとは言わなかった
層が二つあって
どうしようもない荒野まで来ていた
この、死亡欄上の畏怖の念を起こさせる荒野
四〇年で全て入れ替わった
その間、水はずっとあったのだ

 

 

 

#poetry #rock musician

ものぐるひ(改稿)

 

薦田愛

 
 

空白空0これはこのあたりを旅する者にてさうらふ
空白空0大学にて対面授業の始まらむ前に
空白空0Go To トラベル とて
空白空0うどんのクニとや呼ばるるサヌキに
空白空0初めて足踏み入れてさうらふ
空白空0そこやかしこに
空白空0うどんの店の軒連ぬるが見ゆるによって
空白空0いざ、そろりそろりと参らう

(潮の匂ひないたす 此処は
空0あのひとに初めてあり会ひし町
空0洋裁学校のクラスメートと通ふたる
空0社交ダンスの教室に
空0筒井筒にはあらねどとて
空0率てこられたるひと
空0浅黒きひたひ きりりと眉
空0はたちなりしかみづからは あのひとはひとつ上
空0あれあれ かしこを行ける
空0あれは
空0ああ あのひとなり)

なうなう そこを行く
日に灼けたるをのこやをのこ
そなた
誰やらに似たりと思へば
いとしや 背の君にておはしまさずや
つもる話のさうらへば
まづその足を止めて給べ

空白空0これ何をいたす
空白空0ちぎれるであらうがな
空白空0袖をひく
空白空0ここなたいそう老ひたる嫗
空白空0そなたは誰
空白空0うどんの店に入るによって
空白空0その手を放してよからう

(ふりきられてみれば あさましや
空0誤ったり あのひとにてさうらはず
空0何となう似て見えし浅黒きひたひのあたり
空0あのひとは
空0をらぬ
空0をらざった
空0とうに)

あな恥づかし 人違へにてさうらふ
許して給べ
さるをのこに
面ざしのあまり似たればこそ

空白空0さまで似たるとや
空白空0こなたに縁ある誰やらに
空白空0これは一興 話を聴かずばなるまいが
空白空0この家のうどん一杯食して来やうほどに
空白空0しばしこれにて待たれたがよい

(あのひとにあらず
空0あらぬ
空0あのひとはをらず
空0いな ありき
空0ありけるぞ
空0あの日 
空0文を交はしたるが父に知れ
空0家に呼ばれたるあのひとと
空0包まず文をやり取りして三年あまり
空0二百通の半ばより少し多くしたためたるはみづから
空0東の町に移り
空0ともに暮らしてあの子がうまれ
空0然り あの子
空0ともに暮らしたるあのひとが
空0あさましや
空0疾うみまかり
空0あとはあの子とふたり)

空白空0嫗を残してくぐりたるのれんの
空白空0奥にべつの嫗がござる
空白空0翁もござるが
空白空0うどんのクニでは
空白空0嫗もうどんを打ってござる
空白空0小体な店もソーシャルディスタンスな今日った
空白空0椅子ひとつおきに「×」の紙
空白空0供されたるどんぶりには湯気まとひたる
空白空0いとど太きうどん うどん
空白空0生醤油おろし生姜きざみねぎたっぷりとかけ
空白空0ずずっとすすれどすすれず
空白空0ぐぐっとたぐり
空白空0むんぐと嚙み
空白空0なんでふコシのいと強き
空白空0おぼえず ほおと申せば
空白空0この家の嫗と目が合ふたよ
空白空0おお 嫗 をうな
空白空0いざ おもての嫗の語るを聴かむ

空白空0戸を引けばのれんの向こう
空白空0炭色の衣まとふて
空白空0ベンチにゆらりと腰かけたる
空白空0そこな嫗どの 
空白空0いざ聞かむ
空白空0われに似たりと御身の申す
空白空0誰やらの物語

さんさうらふ
誰やらにてさうらはず
背の君 わがつま あのひと
あのひとに少し似て見えしが
真向かふてみれば ほほ 
少しも似ぬおひとぢや
なう 
お気をな損ねたまひそかし 

あのひとと
暮らしたる二十二年
うれしうて たのしうて
会社勤めせはしく
家にあらぬこと多きひとなれば
さみしうはさうらへども
あの子
ひとり子の
あの子の居れば

せはしきあのひと つまの
いたって健やかなるがある折
あさましや床に伏し
さうしてやうやう共に居らるる時を得てさうらふ
うれしうて憂はしうて
二とせあまり
あのひとは ああ 
はかなうなりて若きまま
うたてやこの身にばかり
年つきの降り積みたるよ

空白空0いかなこと
空白空0背の君に先立たれてさうらふや
空白空0それはいっかな耐へがたきことならむ
空白空0きけば御子のあるとなむ
空白空0せめてものこと
空白空0さぞ頼もしう思すらむ

あの子
あの子が
さればあの子が

ひとり子 あの子は学校を終へ働き
みづからは針とミシン
衣を裁ち縫ふて
やうやう暮らせり
ある日ひとりのをのこ参りて
むすめ御をふた親にまみえさせたしと申す
否むことはりとてなく
そののち
ひとり子なればとてみづからと三たりにて暮らせども
ふいに了んぬ
ふたたび
ふたり
あの子と
うどんを食べたり素麵を食べたり
こしらふるは専らみづからにて
遅くかへりくるはあの子
むすめなれど
しごとにんげん、とや
さながら背の君の代わりと
にがわらひ

なれど
あの子が

ある日あの子の
伴ひ来たるをのこは
いたう親切にてまめまめしうもてなしたれば
ありがたしと申したよ
助かると思ふた
あの子が笑ふてをった
ともに旅をもいたせり
三たり また三たり
ともに暮らさむとて
住処もとめて西の空

なれど
あの子が

「テレビつけたるままならば彼のひと
空0いたう疲るるによって
空0み終へたまはば消さるるか
空0おのが部屋にてご覧じたまへ」

なんどと
あの子が 
あの子が

空白空0ここな嫗どの
空白空0しづまりたまへ
空白空0御身の背の君の物語をば聴かむと申したるに
空白空0あの子とや
空白空0御子のこととや
空白空0うたてやな
空白空0あさましう いとどことさめてさうらふ

あさましやな
口あらがひを責むれば
泣き泣き詫ぶる習ひのあの子が
御免ごめん許してたべと度重ぬるさまの
うるさうて かまびすしうて
おぼへず
あなかまっと聲荒らぐるほど
執念くて
かかるあの子が
詫び言せぬ
詫ぶることばをのみこむがごと
睨めつくる
おそろしや 怖やの

わずかなる荷をまとめむに
指のふるふよ
隣る部屋より寝息のきこえて
咳きあぐ
ねむらずに身仕度
ドア押しければ 嘆かしや開きたる

「さらばかたじけなうゆるしてたべ幸あれかし」

参る当て処とてなく
乗り換へのりかへ海を渡りてゐたりける
呼び鈴に現はるる弟みひらかるる眼
こはいづこなるや弟の家にや
宿りを乞ひ臥してうとうと
まぶた重うて朝

なれど

うからに説かれ
三日目
もどれば
もの申さぬあの子
カレと呼ばるるかの親切なりしをのこ在りて
おかあさんと呼ばれたり
まっしろなり
まっしろ
ドア押し開くる
また

空白空0おう おう
空白空0吠えて御座あるや
空白空0おうな 嫗どの
空白空0いたはしやな 流浪のてんまつ
空白空0袖すり合ふとはまっことこのこと
空白空0少し歩みたうなりたれば
空白空0歩みあゆみ承らうよ
空白空0潮風みなはの洗ふ城とは
空白空0あれなるや
空白空0たまもてふ 波うつ石垣
空白空0港ちかき海ぎはへと歩をすすめて参らうよ

あな、恥づかしの身の上かな
おうおう と
聲あぐるはいと易けれど
おしころし押し殺す底ひより
たぎりたちくるもののさうらひて
あの
あの子
あの子の名 を
こゑ に
こゑ に出ださず
聲 にせむ

えうえう
えおう いい いい
鳴りたる 風なりしか

伸びたるままなる九十九髪に隠るる
耳の
おうおう
えい えおう いい いい
なにかに似たれど なにやら覚束ぬものの
名のごと
したたるなりわたる
音に濡れ
びやうびやう
吹き鳴らしたるは
のどならむ こゑ ならむ
この身の
なにかににたれど なにともおぼつかぬ
聲なり
あの子
あの子の名 を

チャコと教科書型紙筆箱入れたる鞄な提げて
通ひし町なりしかど
おう おぼへぬ
いい 見も知らぬ
おお とほき遠きい町 
うう 疎うとしき
知らぬ人ばかりの町 此処にて
見知りたる
ひと
とうにおはさぬ
あのひとの血縁
ナミコさんてふ
細うて優しき
折ふしこはき
ナミコちゃん

語りかくれどひたと見上げをる
をさな
をさなごのころより存じたる
しるべなれば

空白空0なうなう嫗どの
空白空0ナミコどのとやらむ
空白空0むすめ御にてさうらふや
空白空0細うて優しうて
空白空0折ふしこはきとなむ

さにあらず
血縁なり しるべなり
をさなき折より存じをれば

されば
書き込みひとつなき
暦をぞめくりける
おお 
殆としう果つるものを
ほとほとしう果てぬにや
みづからのきざす切っ先ふるふと思へば
電話なり
あの子のカレと申すをのこよりの
電話なり
あらあ 
おぼえずはねあがる
こゑ 聲
みづからがこゑともおぼえぬ
こゑ
息災なりや相居るやあの子は息災に過ごしをるや
如何でいかでとひと息に尋ね
息災なりといらへける
息災なるやいかがせしや如何でいかでいかで

のありて
露の間
そくさいなり

あの子の こゑ 聲
あの子なりいきてをり
あたりまへ
あたりまへなれどいきてをり
いきてをると思ふたれば
かあっとあつうなりたるよ
たらちめなりみづからはみづからはあのこのたらちめなり
あの子の生まれしより長ういなあの子をはらみしより長う
いちにちたりともかくることなう長う
みづからはたらちめなりなればこそ
たれば たら ただこのたらちめは

きれてけり
きれてありしやきりたるものや
電話
電話の
かかりてきたるや
部屋
ひとりの
部屋
ドアを押しあけ郵便受けに降りぬれば
うつろなり
うつろなれば
うつろなるうつしみを
ひとりの小さきちひさき部屋へはこぶ
たぎりたる
つむりのひえて
うれしき切れ端握りなほし
ナミコさんにメール
携帯の小さき画面
うれしき思ひの絵文字選りては
ナミコさぁん
打つ間に
ゆくりなう
ぐうっとせきあぐるもの
如何で今何をいまさら
いかな了見にてふいに電話
くらきくろき雲
おもき
メールの文字重うこごりそめ
ナミコさぁん ナミコさぁん
あの子から電話
何ごとぞ
ナミコさぁん
ふくれあぐるもの小さき画面の文字ににじみて
ナミコさん
いかな了見にやあの子とや
カレとやらむ申せしひとも
きがしれぬきがしれぬいまごろでんわして寄越すきがしれぬ

送りたる
12さしたる
針ふるへ
糸とほさぬ時計の
針ふるへて

ナミコさんよりいらへ
おばさま考えすぎなり素直に喜びて良きことなるに
わらはぬをさなごのナミコさんのみつめをる

空白空0こ、こはいかに嫗どの
空白空0そこな畳まれたる
空白空0携帯の鳴りをるやらむ
空白空0嫗どの をうなどの

みづからを呼ばはる聲も風の間に
絶えむとばかり鄙びたる
潮鳴る道の左右しらぬ
朝しらむとも背のあとを
慕ふてければ降る日々の
先かの岸へ渡るべし
さき彼の岸へわたるべし

空白空0ここな嫗どの をうなどの
空白空0御子からならむや
空白空0鳴りやまざるは

空白空0潮風にも消ぬ携帯の着信音
空白空0ふいにたわむを
空白空0はっといたして見かへれば
空白空0炭いろの衣ふわとひるがへりて
空白空0突き出されたる枝先のごとき指より
空白空0今しなげうたれたるもののさうらひ
空白空0あと けらけら と申しける

 

 

 

空(ソラ)と ミルフィーユカツ

 

今井義行

 
 

ソラ、 サクッ 口元が ダンス、ダンス、ダンス!!
ソラ、 サクッ 口元が ダンス、ダンス、ダンス!!
いい気分だったのに

ん?

ふと 見上げた空が 濁って見えてしまった
夕べ 飯島耕一さんの詩 「他人の空」を
久しぶりに 読み返した そのせい なのかなあ───
 

「他人の空」
鳥たちが帰って来た。
地の黒い割れ目をついばんだ。
見慣れない屋根の上を
上ったり下ったりした。
それは途方に暮れているように見えた。
空は石を食ったように頭をかかえている。
物思いにふけっている。
もう流れ出すこともなかったので、
血は空に
他人のようにめぐっている。
 

戦後 シュールの 1篇の詩
鳥たちは 還ってきた 兵士たちの ことだろう
途方に暮れている 彼らを受け止めて
空は 悩ましかったのかも しれない けれど──

そう 書かれても
わたしは 素敵なランチタイムの 後で
もっと さっぱりとした 青空を 見上げたかったよ
暗喩に されたりすると
地球の空が いじり 倒されてしまう 気がしてしまってね

わたしが 食事に行ったのは 豚カツチェーン店の 「松のや」

食券を買って 食べるお店は
味気ないと 思って いたけれど
味が良ければ 良いのだと 考えが変わった

そうして今 わたしを 魅了して やまないのは
「ミルフィーユカツ定食 580円・税込」
豚バラ肉の スライスを 何層にも 重ねて
柔らかく 揚げた とっても ジューシーで
アートのような メニューなんだ

食券を 買い求めた わたしの 指先は
とっても 高揚して ダンス、ダンス、ダンス!!

運ばれてきた ミルフィーユカツの 断面図
安価な素材の 豚バラ肉が 手間を掛けて 何層にも
重ねられてある ソラ、ソラ、ジューシー!!

運ばれてきた ミルフィーユカツを 一口 噛ると
ソラ、 サクッ 口元が ダンス、ダンス、ダンス!!
ソラ、 サクッ 口元が ダンス、ダンス、ダンス!!

そうそう
豚カツ屋さんには 必ず カツカレーが あるけれど
あれには 手を染めては いけないよ
カツカレーは 豚カツではなく カレーです

カレーの 強い風味が
豚カツの衣の 塩味を 殺してしまう
1種の 「テロ」 だからです

ただでさえ 今 街は コロナ禍  なんだから

空を見上げながら 入店した わたし

ソラ、1種の 「テロ」は 即刻 メニューから
ソラ、駆逐すべき ものでしょう──

わたしが ミルフィーユカツを パクパク してる時
ある ミュージシャンが クスリで パク られた
という  ニュースを 知った
この世では 美味なものを パクパク するのは
ソラ、当然の こと でしょう──

鬼の首 捕ったような 態度の 警察は どうかしてる

トランスできる ものを パクパク するのは
ソラ、ニンゲンの しぜんな しんじつ
ソラ、攻める ような ことでは ないでしょう!?

わたしは ミルフィーユカツで トランスしたし、
ミュージシャンは クスリで トランスしたし、
飯島耕一さんの 時代には 暗喩で トランス 
できたんでしょう──

だから 「他人の空」も ソラ、輝けたのでしょう

鳥たちが帰って来た
──おお そうだ あいつらが帰ってきたんだ
空は石を食ったように頭をかかえている
──おお そうだ みんな頭かかえてた
血は空に
他人のようにめぐっている。
──おお そうだ 他人みたいな感触だったよ

わたしは 詩を書いている けれど
もう  滅多に 暗喩は  使わない

詩は 言葉の アートだけれど
今は いろいろな トランス・アイテムが あるから
敢えて 言葉で 迷路を造る
必要は そんなに 無いんじゃない かな

わたしは そう 思うんだ けれど──

平井商店街を歩いて しばらくすると
濁っていた空が 再び輝き出した

飯島さんにとってソラは暗喩
ミュージシャンにとってソラはクスリ

しかし、

カツカレーを駆逐して  ミルフィーユカツを パクパク した わたしにとって
 

ソラは、ソラで 問題 無いんじゃないかな!?

 
 

※ この詩は、2019年に発表したものを、改訂した詩です。

 

 

 

He awoke with a start.
彼はびくっとして目が覚めた。 *

 

さとう三千魚

 
 

this morning too
woke up

still in the dark morning
I was awakened by moco

I put her down in the garden
she crouches and pees

when I hug back her to bed
she sleeps soon

I wait for the morning in another room

wait for the windows to brighten

wait for the voice of a little bird

a crow cawed

the west mountains are under the light blue sky
there is the blue-green west mountain

ah
now

alone

a sparrow cried

jiji jiji jiji jiji jiji jiji

violently
cry

He awoke with a start *

 
 

今朝も
起こされた

まだ暗い
朝に

モコに起こされた

庭におろす
モコはしゃがんでおしっこをする

ベッドに抱き帰ると
すぐに眠る

わたしは別の部屋で朝を待つ

窓が明るくなる

のを
待つ

小鳥の声を
待つ

カラスが
鳴いた

西の山が薄い青空の下にいる
そこに青緑の山がいる


いま

ひとり

雀が
鳴いた

ジジジジジジジジ ジジジ

激しく
鳴いた

彼はびくっとして目が覚めた *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life