背中スイッチ

 

辻 和人

 
 

背中

スイッチ
背中スイッチ
そおっと解除しないと
爆発する
赤ちゃんの背中にはスイッチがあるんだ
押されると
抱っこされてないよって信号が発信されてしまうんだ
やっとウトウトしてくれたコミヤミヤ
かれこれ1時間泣きっぱなし
抱っこユラユラ、抱っこユラユラ
さすがに腕が痛くなってきた
涙ひと筋垂らしたままの目閉じて
背中まあるく
ママのお腹で眠っていた時の姿勢
これがいいんだ、と
これが落ち着くんだ、と
下手に寝床に降ろしたら
スイッチが押されて爆発するんだ、と
おおっ、そんなことになったら
すやすや眠ってるこかずとんともども木端微塵だ
柔らかく呼吸する爆発物
そっとそおっと抱えて
まず膝を折り
腕を寝床に近づける
ここはママのお腹の中だよぉ
あったかいお水たっぷんたっぷんだよぉ
超小声で話しかけながら
足の方からゆっくり降ろすのがコツ
背中刺激しないようにゆっくりそおっと
途端
ウッワァーン、ワァーン
抱っこされてないんだぁー
ママのお腹ン中みたいなトコにはいないんだぁー
コミヤミヤ、爆発
隣で寝てたこかずとんも、爆発
2人して真っ赤な顔で、爆発
あーあ、解除失敗
背中

スイッチ
背中スイッチ
午後4時の薄闇には
硝煙が漂っていて
まっくろこげのかずとんパパ
ギャン泣きするコミヤミヤの前で
おろおろしてました、とさ

 

 

 

不完全

 

道 ケージ

 
 

こわさなければならなかった、こわし、またこわす、
救いはこうしなければ得られなかった
大理石の中に現れるあらわな顔を破壊する、
どんなかたち  どんな美も打つ
鳥が引き裂れて砂になってしまえばいいのに、とお前はいった
           (イヴ・ボンヌフォワ詩集)

 

たそがれ時に
人を切る
蠅がたかるに任せて
何かを作りまたこわす
行くべきではなかった

輪郭をたどるよう
グールドを聞く
その粒は乳輪を思わせた

           「トロントの管理人が
               ゴミ出しをする
               早口の女が栞を抜いた
               手袋の片手で挨拶」(NHKラジオ)

       雪崩の予兆の小石
       小気味良い回転
       音符のようだ
       大丈夫と見上げる
      (カカボラジでのこと)

壊された破片の私は
髭剃りに銭湯へ
高温に涼しむ
酒を抜く

萎びたふぐりばかり
狼のような顔の人が
しきりに顔を拭いている

桶が鳴る
タオルが飛ぶ
ここに用がある

用が済む
用済みとなる
もういらないから帰ることになる

できていたのに
できていなかった
完全さを求めて
最も不完全なものになっていた

 

 

 

鼻メガネ *

 

さとう三千魚

 
 

土曜日は
午後に

詩人の集まる会に
電車で

行った

自分を
詩人と言えないが

そう名乗る人たちがいる

いつか
覚悟ができるだろう

自分の愚劣を知っている
愚劣でないところもある

日曜日
重たい雲の下

坂口安吾風の鼻眼鏡をかけていた

女は

ブーは
似合わないからよしなよ

という
わたしのことをブーという

月曜日


晴天

姉に電話した
姉はこれから山に登るのよといった

 
 

* 高橋悠治のCD「サティ・ピアノ曲集 02 諧謔の時代」”気難しいしゃれ者の三つのお上品なワルツ” より

 

 

 

#poetry #no poetry,no life