michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

屋上

 

塔島ひろみ

 
 

下水処理場の屋上に
咳が出始めた父親を押しこめる
すぐ迎えに来るからと、尻を、思い切り押して走って帰る

夏雲の下 老いた男女がボールを夢中で追いかけていた
フットサルコートになっている屋上の公園は 周囲を有刺鉄線で囲われている
元気な爺が追いつき、思うさま蹴上げると
ボールは天井の針金に突き刺さった 
その裂け口から見せしめのようにポタリ、ポタリと、黒いモノが滴り落ちる
ボールを失い、老人たちは汗を拭き拭き見晴らしの良い一画に集まる
眼下には濁った、あまり美しくない川が静かに流れていた
ここから人が飛び降りられるわけがないのに
屋上に鉄条網をめぐらす意味

奴らは俺たちが鳥だと知ってるんだよ
カラスのように口をとがらせて 一人が笑った
紫色の花弁を揺らして ムクゲが笑った
羽を震わして セミが笑った
カラカラ カラカラ
笑い声が立ち籠める

俺たちが自由だと 知ってるんだよ

仰向けに寝そべると鉄網越しに
ギラギラと美しい青い空と雲があった 一雨来そうだ

早く迎えに来ないかな

鳥が呟く

 
数日後。
防護服に身を包んで屋上を訪れた保健所員が
ブルーシートをめくってビックリした。

全部、もぬけのカラになっている!

 

(7月某日 小菅西公園で)

 

 

 

やいま

 

正山千夏

 
 

南へ南へと飛んでいく
焼けつく光がひたいを焦がし
福木の木蔭でひと休み

島唄をうたってよ
焼けた肌黒い瞳の彼に導かれ
どこまでも碧い海にもぐれば

青や水色、むらさき色
色とりどりの珊瑚と
それに群がる熱帯魚

一緒に泳いでいたら憶いだした
夕焼け、泡盛、月夜の踊り
遠い昔の先祖の祈り

見上げれば空一面に散らばった星々
耳を澄ましていつまでも聞いていた夜
嗚呼、こんなに遠くまで来てしまったよ

 

 

 

Between ourselves he is a little foolish.
ないしょですが、あの人は少し馬鹿なんですよ。 *

 

さとう三千魚

 
 

He was looking at the west mountains this morning

He was looking at the west mountains hiding in the clouds

today too

He was talking to a dog

“It’s Micchan!”
“Is Moco-chan?”

He hugged the dog
Was talking

A pair of haguro dragonflies in the garden

Already
Gone

Did they give birth?

Did they give birth and died?

Between ourselves he is a little foolish *

 

 

あの人は

今朝も
西の山を見ていた

西の山が雲に隠れるのを見ていた

今日も

犬に話しかけていた

“みっちゃんですよ!”
“モコちゃんですか?”

犬を抱いて
話しかけていた

庭にいた
つがいのハグロトンボが

もう
いなくなった

子を産んだんだろうか

子を産んで死んだんだろうか

ないしょですが、あの人は少し馬鹿なんですよ *

 

 

*twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

皆殺しの天使

 

工藤冬里

 
 

羽根が生えて困るが
声は出ない
終わりが進むにつれ
部隊はやまだかつてない記号と意味の乖離を経験していた
戸口の血を踏まないようにアモンラーメンの暖簾を潜り
年老いた長男を殺る
恩寵はサブスク
押韻矢の如し
黒い板を更新し
物語に加わる
無理解もミッションである
犬の顔たち
朝はかなかなはなかなかなかない
〽︎ばかだねばかだねばかのくせに
ら抜きうどんで生き残れると思っていたなんて

 

 

 

#poetry #rock musician

There is safety in numbers.
数が多い方が安全。 *

 

さとう三千魚

 
 

this morning
west mountains can be seen

gray sky
under

there are grayish black mountains

the government
postponed distribution of 80 million cloth masks

to stockpile

Is it a funny joke?

There is safety in numbers *

 

 

今朝は
西の山が見える

灰色の空の
下に

灰黒色の山がいる

政府は
布マスク8,000万枚の配布を延期

備蓄するのだという

笑えない冗談か

数が多い方が安全 *

 

 

*twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

温かな未来

 

工藤冬里

 
 

気の滅入る情報は最小限​に​
落ちた胡瓜を可能性として料理する
蝉の腹から伝わっていく梅雨明け

<接触しようとしている>

遠い近所のパン
集落は一族の陰謀なので
ヴォネガットが政体を同姓クラブに変えても
変わりようのない未来に変わる

 

 

 

#poetry #rock musician

I wonder what has become of his sister.
彼の妹さんはどうなっただろうか。 *

 

さとう三千魚

 
 

listening to “hatch” **

Listening to your saxophone
Listening to your cello

The first time I heard your soprano saxophone

Was it Kofu city

Was it Sakuraza

After the fermentation of the grapes is over
Listened

There was a distant image

I wonder what has become of his sister *

 

 

“hatch”を聴いてる

きみの

サックスを聴いてる
きみのチェロを聴いている

ソプラノの
サックスの

音の

はじめて聴いたのは
甲府だったか

桜座だったか

葡萄の発酵が終わった後で
聴いた

そこに遠い俤がいた

彼の妹さんはどうなっただろうか *

 

 

*twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

** “hatch”は、Yow Funahashiのソプラノ・サックスとチェロによるCDタイトル.