あな

 

道 ケージ

 
 

こんなハムじゃない。こんなあじじゃ南蛮づけにもならない。あなに入って思う。少し飢えて少し痛い。お皿を返す。小さい扉の出し入れ。鉄柵を少し揺らす。赤錆のにおい。罪を考え星状の砂が舞う。酢飯の香りだが、回ってこないことはわかっている。眠れないのは起こされるから。タルズ・ブルースが聞こえ、床のビスケット屑。少しだけ寝る。どうせ起こされる。仕方なしにもう少し掘る。目地の割れ目に釘を指し、ささくれが啼く。免疫学の研究に従事シマシタ。ネズミ、蚤、蠅、蚊。ワレワレノ手ニヨッテ、証明サレタノデス。自慢です。モッタイナイデスカラニ。目地沿いに入る。うまく縮めて。切った方がいいのか。汁状にするか、捩り入れるか。蒸し返す。風は、風は。

 

 

 

なったらしく

 

道 ケージ

 
 

脱皮しようと
もがく
すでに手はなく
脱ぐのは苦労

体液がひどく臭い
うまく脱げない
また嫌われちまうな
「生理的に受け付けらんない」
アクアラングの脱ぐより
ツラい
脱いでも一緒

足は何やらバタフライぎみだが
すでに足なく
妙にばたつく
これ脱皮じゃないよ
呑まれる途中
もがき出てんのかも
まぁどっちも同じ
消化されたらそれになる

歯が当たって
シャーってうるさい

被ってなよ
借り物競走みたい
人殺しの顔して
手癖足癖が悪い
非道の言葉もシャーと同じよ

つけんだりや
殺めたりや
シャー、シャー、シャーって

 

 

 

ミャンマー

 

道 ケージ

 
 

ミャンマーに行く道は二つ
倒木を渡るか
穴を掘るか
途切れるか埋もれるか

泥を呑むのは嫌だし
私は私を引き連れて
我々は影を連ねて押し黙る

なまず溜りで立ち止まる
我々はどこに行った

私は結局透明な水面に渡された
倒木をよろよろと渡る
透き通る青が美しい

女はこともなげに走り行く
頭にお土産をのっけて
これで辿り着くのか

陽射しが翳ると
あまりの透明さに「我々」を思う

この橋をうたがった途端
崩れ行く仕組みになっている
それでも波はないから
投げ出されても安心

透明な塩水は緑の服に染み入って重い 
空気だまりでぷかぷか浮かぶ
上から白い制服の男たちが軍刀でつついてくる
やめてほしい

丸い橋にやっとこ上り
エメラルドグリーンの中
もうどちらがミャンマーかわからない

 

 

 

チエコ先生

 

道 ケージ

 
 

陽水の「チエちゃん」を聞くたび
思い出す
中学1年次の教育実習の先生 
チエコ先生

滝口くんと一緒に下宿に遊びに行ったり
ぼくの家で鍋を囲んだり
ねえさん先生
ケーキを食べた
「スケアクロウ」を見た

家を出る間際、母はなんば浮かれとうとね、と
「イージー・ライダー」との二本立てだった
中州川端大洋館、スケアクロウはよく覚えている

そのころから何やら書いていたので
お別れの赤間の駅のホーム
白い日記帳をくれた
「たくさん埋めるんだよ」
そう言ってくれて別れた
もう会えない

 

 

 

内視鏡

 

道 ケージ

 
 

三月は健康診断
胃カメラやエコー、レントゲン
血液検査に大腸便潜血検診
検便を冷蔵庫に入れて怒られる

三月は自宅での仕事が多い
例年のことだけれど
大腸内視鏡もそろそろやるか
癌の家系
父は前立腺、母は胃
オジキは大腸癌で早く死んだ

アンタ、棺桶に足突っ込んでんだから
金の無駄よ
どこまで自分に甘いんだか

胃カメラは左の穴から
穴は痛い
固くならないの、力を抜いて
と言われても
背中をさすってくれると嬉しい

食道、荒れてますね
ピンクがきれい
外に出ないと赤子のまま

内を覗いて
外に耐える

ひこうですね
非行は昔から
いや、肥厚、胸膜肥厚
せっかいかが腎臓に
世界化? 課題ですね
お節介?
石灰化です

 

 

 

ちょうちょ結び

 

道 ケージ

 
 

ちょうちょ結びができなくて
何回も練習するが縦向きになる
最後の靴を履くとき思い出す
このドアを開けるのも最後

庭の白砂利に青シート
ちょうちょ結びで固定
責任はとる
「一人一殺」できなくて

猫がじゃぁと通り
雲が墓石の形
血盟を破る

食べると出るから
食べないことにしていた
さらしを
ちょうちょ結びで

 

 

 

ノビチョク

 

道 ケージ

 
 

オレ様だけの 
オレ様がいく
ギルガメッシュって
そんなの知らない

ノビチョクおみまい
んー、ゲロンチョン
年老いたことを知らない

夢見たって
言い訳だろ
頭上の角に塗りまくって

花粉ではなたれ
窓開け全開
前の水女に睨まれ
そのシールドを剥ぐ

オレのノビチョクさらして
歴史も記憶も木端よ

ノビチョクどうや
あいつの郵便箱に突っ立てる
あの坂の上

ハナミズキではなく
岬をまわる計略

対馬へ帰るふりして
被保険者資格確認の申立書を添え

確実に殺したい

 

 

 

カタンシカオシ

 

道 ケージ

 
 

パードンパードン もう一回 
カタンシカオシです
か、た、ん、し、か、お、し!
オシシカカタンをひっくり返し
お、し、し、か、か、た、ん!
(リモートと対面のハイブリッド授業)
ちょっと待て なにそのオシ…
お、し、し、か、か、た、ん!

あー! オシは「推し」な 
で、シカカタンはナニ? 擬態語?
シカ🦌カタンと泣いた奥山に道こそなけれ

それが一番ということっす
えっ、ちょと待て
そいつが勝つってことっす
イチ押しということか!
ひゃ、ダサっ

ちょっと待って
まず「勝つ」が気になる 何で勝つなのよ? 
いいとか、好きとかじゃないの?
知りません

次にこの「ん」、否定でしょ。
古文で「ん」は否定じゃないからな!
係結びなら「推しこそ勝たね」
あら、逆意になるね
「推しこそ勝たざらんや」
何言ってんのかわかりません

「シカ」が曲者やな。否定を呼び覚まし、それ以外のものはないことを示す。
「100円しかない」「君しかいない」「やるしかない」

ハライチすかん かまいたち知らん
パンパカパン らむらむらめ

なぜ長いのか? 短縮化でしょ?

使い方が違う!
だいたいもう古いですよ!
何が?
カタンシカが
かたん詩かぁ
やぁオモロイ!