とってもよいことが起きる日

 

長田典子

 
 

つよい北風がふいて
ドアは
たすけてたすけてたすけて
と言いながら
閉まった

たすけ
てた
すけて

たすけくん
出た ドアから
すけて
とうめいにんげん
出た

ドアは閉じて開いた
はろはろはろはろはろー
と言いながら
たすけくん
ドアを
ぱたりぱたりぱたりした
音だけがした
たすけくん
だれも気がつかない

たすけくん
てけすたてけすたてけすたこらさっさ
丸テーブルの上にあったお土産のずんだもち
たべた
たすけくん
ずんだもちたべた
ずんだもちのすけになった
もちもちねばねばざらざらする
ぱたりぱたりする
つよいつよい山形だだちゃ豆の
山形ずんだもちのすけになった

つよい風がふいて
山形ずんだもちのすけさん
ドアをぱたりぱたりぱたりして
はろはろはろはろーって
ドアを開けて
てけすたてけすたこらさっさ
丸テーブルに向かって歩いていった
だだちゃ豆色の燕尾服きた紳士の
山形ずんだもちのすけさん
ふかくゆっくり椅子に座った

きょうは
なんの日?

知らない
でも
とってもよいことが起きる日さ

山形ずんだもちのすけ男爵は
てけすたてけすたこら
さっさっさ
あご髭をすぅっとなでたんだぁ

 

 

 

「夢は第2の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」 第76回

 

佐々木 眞

 
 

 

私はシゲハラ印刷に頼んでAPフェアの5点セットPOPを作ってもらい、それを全国各地の百貨店の売り場に飾りつけると、日本の名城をデザインした扇子を額に鉢巻きで巻いて、カッポレカッポレを唄いながらそこらを練り歩いた。7/1

女の子の家庭教師をやっていると、必ずその子が涙する時がやってくると先輩がいうので、私は何年も待っているのだが、まだその時は来ない。7/2

いつも京に来ると道に迷ってしまうのだが、今日も山科の里山辺で、どっちが駅なのか分からなくなってしまった。道を聞いても言葉が通じないし、そのうち私は、私自身が何者であるのかすら、茫洋となってきた。こんなことは初めてだ。7/4

京都駅から下り電車に乗ったら、鳥取や島根方面に行くおばはんたちが大勢乗っている。聞けば彼女たちは、みな地元の町会議員で、党派は違うが、研修という名目で京で観光してきたそうだ。7/5

久しぶりに五反田のダーバンへ行ったら、ナベショウ氏につかまって、彼が海外で買い集めた玩具のミニトロッコの御託を耳にする羽目に陥っていたく消耗していたら、折り良くミズノ氏から、「ちょっと来いよ」という電話があったので、これ幸いと逃げ出した。7/6

私は中原中也の真似をして、詩集の初校を持って、あちこちで見せびらかしているうちに、1枚、また1枚とどこかへ消えてしまい、しまいには全部無くなってしまった。7/7

家の鍵とか車の鍵とか、探しても探しても、長い間見つからなかった紛失物が、次々に出てくるので、夢かと喜んだのだが、目覚めてみると、それは全部夢だったので、コンチクショウメと歯ぎしりしている私。7/8

東京に本社があるために、いつも東京ファーストで東日本地区のことしか頭になかった私は、時々大阪支店の連中から、苦情と警告を受ける羽目になった。7/9

ルックのオオムラさんが、芸大の教授になったというので、私はいったいどういう裏技を使って、そういう芸当ができたのかを知りたかったのだが、オオムラ氏は、それは企業秘密ですというて、どうしても教えてくれない。7/10

私は昨夜の夢を、ケイターメールにしたためておいたので、それからは安心して、朝まで眠ることができた。本当は、夢見た直後に蒲団の中で録音しておけばいいのだが、それでは家人を起こすことになるので、要注意だ。7/12

アカプルコの海岸のカフェバーで、日向ぼっこをしていたら、店の女の子が、ここらへんは殺し屋の殺し屋がうじゃうじゃいるから、中に入っていたほうがいい、という。でも、どうしておらっちが殺し屋と分かったんだろう。もしかして彼女も殺し屋?7/13

宿命のライバルである我々は、アメフトの試合の途中で大乱闘となり、お互いに殴る蹴るの乱暴狼藉を繰り返しているうちに、多数の負傷者どころか、死者まで出てきたのだが、調停役のレフリーが、とっくの昔に逃亡していたので、誰も止める者がない。7/14

飛行機の前でマゴマゴしていると、衝突しそうになったので、どうも縁起が悪いな、と思いつつ、最前列に乗り込むと、ちょうど真向かいに停止中の飛行機の窓から、私を狙っているライフルが見えたので、すぐにカウンターに戻って、搭乗をキャンセルした。7/15

◎◎市の○内の範囲では、うんとん家が惹き起した暴動に巻き込まれているという情報が、テレビの速報で流れた。7/16

どういう風の吹きまわしか、馬鹿殿の不興を買ってしまったので、なんとかして元通りに修復したいと思うのだが、なんせ相手が相手なので、どうすればいいのか、妙案を思い付けずにいる次第。7/17

世界最短詩の候補として、愛、愚、凡、穴、人、友、生、死、無、息、根、交、神などの漢字が浮かんだが、そういう既成の単語以外に、新造語や絵文字、混成語もあるのではないかと思い付いた。7/18

7月になって、朗報が飛び込んできた。私の芝居を、紀伊国屋ホールで上演するというのだが、ついては200万円寄越せというので、それはどういうことかと、文無しの私は、吃驚仰天だった。7/19

台所の床下収納庫の蓋を開けたら、底に巨大な魚の目玉が爛々と輝いていたので驚いた。この目の大きさからすると、地球上に棲息する魚ではなく、もしかすると、伝説上の大魚、鯤鵬ではないだろうか?7/20

内田百閒の「東京焼盡」から霊感を受けて、たった1晩で書き上げた私の「こうすれば10の天変地異から身を守ることができる」という本は、あっという間に、ベストセラーになってしまった。7/21

イデ君と素材メーカーとの打ち合わせに出張してきたのだが、バスを降りてから峠道を歩いても歩いても、目的地に着かない。そのうちイデ君が、道端でちょっと小用を足すから先に行ってくれというので、どんどん登っていったら、三差路に差し掛かり、イデ君もどこかへ消えてしまった。7/22

神宮球場のスタンドで、次の投球を打者がホームランすれば、私の歯痛が治るはずだ、と確信して待ったが、生憎三振に終わってしまったので、痛みは倍増するようだった。7/23

うみうし氏は、おもむろに懐の中から魚を取り出して机の上に並べ、若き兵士たちに食べさせてから、降り注ぐ弾雨をものともせずに戦場に飛び出し、まだ息のある若者を背負って、次々に塹壕の中に引きずりこむのだった。7/24

どういう風の吹きまわしだか、イケダノブオのアルファロメオの新車の助手席に乗ってしまった私は、シカゴ市警の全パトカーから追われる身となってしまった。7/25

誰かの詩集のなかに、1本の木の写真が挿入されていたのだが、それがあまりにも美しいので、書かれた詩のことなど、すっかり忘れ去ってしまった。7/26

戦況が思わしくないので、かつて戦場で一度も敗れたことのないスナフキン野郎を思い切って投入したのだが、敵軍の強襲に、たちまち撃退されてしまった。7/28

オオキさんチのアパートの近くで、誰かにどーんとぶつかられて、ばったり倒れてしまい、身動きできないでいると、またしても、そいつがのしかかってきたので、ひらりと身を交わして、避けたのよ。7/29

「世界大変」「世界大乱」「世界最凶」などの言葉が駆け巡って「万事快調」と覇を競い合うので、なかなか眠れなかった。7/30

これからの自動車業界を展望するS氏の本が刊行されたが、特別付録の、S氏が所属するA社の社長と、そのライバルのB、C社の社長との対談が面白いというので、業界の話題になって、アマゾン売上のトップに躍り出た。7/31

 

 

 

 

原田淳子

 
 

 

ゆめのじかんがおわった朝は
きえてゆくゆめを栞にして
自転車にのる

図書館の地下書庫の剥がれた請求記号

汗に濡れた皮表紙

仄暗い、黴のにおいのなかで
かたまってしまった913.6のことばに
似たゆめをみつけて、栞をさす

きえたゆめのぶんだけ、栞をさす

秘密の暗号のように
永久に知られないまま
朽ちて、塵になる

どれくらいの栞があるのか
それがなんの栞だったのか
黴の匂いでわからなくなって
偉人たちの写真も
ゆめのいろも
わすれるまで、栞をさす

さしつづける

夜は台所でタオルと靴下をあらう

遠くで河が流れている

わたしの真うえを雲が流れている

わたしも
栞も
雨にうたれて、塵になる

 

 

 

Desert moon, my daughter

 

今井義行

 
 

ドーハは、アラビア湾沿岸の半島に位置するカタールの首都で、
ドーハ湾に面した近代都市 ──引用

尖った 高層ビルが
都市部の中枢に 密集しているその周りは
無限のような
砂漠。

その街の企業で
出稼ぎ労働者として はたらいている
血のつながっていない 我が娘
リアン。

もうすぐ はたちに なるんだね

きみから メッセージが 届いた
もえあがるような 熱い 真夏の夜に ──
砂漠から 吹き寄せるような 風のなかで

きみは いま
ながい 髪をゆらし
月を
見上げていることだろうか

Desert moon, my daughter

[Hi, ChiChi, GenkiDesuka?]
[Yes, my precious daughter Rian!]

英和辞典で fatherを 訳すと
父= ChiChi となるのだろう
私は
ChiChi だ

[リアン、仕事はうまくいっているかい?]
[グッド!!
Hope to see you and visit Japan, ChiChi!!]
リアンの言葉は
砂漠のうえのまるい月のように 弾む

[Teach me basic NIHONGO
I will teach you ENGLISH, ChiChi]
リアンの 言葉は
砂漠のうえのあかい月のように 弾む

Desert moon, my daughter

[もちろんだ リアン
おたがいに 教えあおう ──]

[I want to visit in Japan next year!!]

ねえ、リアン、、、、、
ママのアルジェリーから きいているだろうけど
アルジェリーと私とアンジェラとペンペンの4人で 来年の1月に
ブルネイへ行くんだ
ねえ、リアン、、、、、
きみは 休暇を取ることを許されていないので
私たちと 合流することはできない
ゴメンな、リアン、、、、、

ブルネイはボルネオ島にある小さな国で、
首都バンダル スリ ブガワンは、
豪華なジャメ アスル ハッサナル ボルキア モスクと
その 29 の黄金のドームで知られています。──引用

[No problem, ChiChi、、、、、、]
[Hope to see you and visit Japan, ChiChi!!]

ああ、リアン
きみは とても いい娘(こ)だね
[グッド!!]

もえあがるような 熱い 真夏の夜に ──
砂漠から 吹き寄せるような 風のなかで

きみは いま
ながい 髪をゆらし
月を
見上げていることだろうか

Desert moon, my daughter

 

 

 

あきれて物も言えない 04

 

ピコ・大東洋ミランドラ

 
 


作画 ピコ・大東洋ミランドラ画伯

 
 

自己に拘泥して60年が過ぎて詩を書いている

 

もう2ヶ月が過ぎようとしている。

2ヶ月ほど前に表参道のスパイラルというところで自分の詩について話したのだった。
2時間くらい話すようにということだったのですが2時間も話すことは自分にはないなあと思えてその日まで憂鬱だったのだ。
自分の憂鬱はしょうがないけど来てくれる人まで憂鬱にしたら申し訳ないとも思ったのだ。

「自己に拘泥して60年が過ぎて詩を書いている」という演題だった。

自分の詩について話すよりも自分がどのような詩に関わってきたのか、
どのような詩が素晴らしいと思って生きてきたのかを話す方が他者にはメリットがあるのではないかとも思ったのだ。

それで東京に向かう新幹線の中でノートパソコンに向かいレジュメを作ったのだった。
会場ではレジュメ通りに進めた。
松田朋春さんが司会をしてくれたので安心でした。

18歳の浪人だった頃に読んだ西脇順三郎の「茄子」という詩をまず朗読してみたのだ。

それから22歳の頃、東中野にある新日本文学の鈴木志郎康の詩の教室に通っていた頃に読んだ鈴木志郎康の「わたくしの幽霊」という詩集から「なつかしい人」という詩を朗読したのだ。

また、最近、発見した谷川俊太郎の「はだか」という詩集から「おばあちゃん」という詩を読んでみたのだ。

金子光晴の詩が入っていないのは片手落ちだったかもしれないが、
どの詩もわたしが書きたくても書けないような詩なのだ。

 

「茄子」

私の道は九月の正午
紫の畑につきた
人間の生涯は
茄子のふくらみに写っている
すべての変化は
茄子から茄子へ移るだけだ
空間も時間もすべて
茄子の上に白く写るだけだ
アポロンよ
ネムノキよ
人糞よ
われわれの神話は
茄子の皮の上を
横切る神々の
笑いだ

 

「なつかしい人」

わたしの遺影の前には
パイプと煙草がきっと置かれるだろう
そんなふうな
気遣いをしてくれる人が
一人ぐらいはいるだろう
パイプをくわえて
薄暗い室内に座っていると
その人が急になつかしくなる
しかし、その人が誰なのかは
まだ生きている
わたしにはわからない

 

「おばあちゃん」

びっくりしたようにおおきくめをあけて
ぼくたちには
みえないものを
いっしょうけんめいみようとしている
なんだかこまっているようにもみえる
とってもあわてているようにもみえる
まえにはきがつかなかったたいせつなことに
たったいまきづいたのかもしれない
もしそうだったらみんなないたりしないで
しずかにしていればいいのに
でもてもあしもうごかせないし
くちもきけないから
どうしたらいいかだれにもわからない
おこったようにいきだけしている
じぶんでいきをしているのではなく
むりやりだれかにむねをおされているみたい
そのとききゅうにいきがとまった
びっくりしたままの かおでおばあちゃんは
しんだ

 

これらの詩をもう一度、今夜、読んでみた。

これらの詩には詩人が自身でありながら自己と他者を公平に見ることができる視線があるように思います。
自己と他者を公平に見る視線を持つということはなかなか高度な達成であると思います。

これらの詩に書かれている達成に比べたら、
わたしの生は自己に拘泥してきた生であったと思わずにはいられないです。
他人のことなど少しも考えもせずに自分のことや自分の利益だけを考えてきたのだろうと思わずにはいられないのです。

先週の金曜日には相撲の桟敷席のチケットを知人から頂いたので女と女の友人たちと蔵前の国技館に行きました。
国技館ではちゃんこを食べてから弁当を二つ食べてビールを二本を飲みました。
大好きな大栄翔が鶴竜を打ち負かして座布団がたくさん飛びました。
それから女たちと別れて浅草橋で荒井くんと飲みました。
それで荒井くんと別れて総武線と中央線に乗り、酔いつぶれて武蔵境まで乗り越して、
高円寺に戻って、広瀬さんと朝まで飲みました。
それから新宿のホテルまで戻りシャワーを浴びてすこし仮眠してから恵比寿の写真美術館で写真を見ました。
なにを見たのかよく覚えていませんが金髪の西洋の女性が土田ヒロミの写真を見てボロボロと泣いているのを見ました。
わたしは泣けませんでしたが土田ヒロミはいいなと思いました。
それから中目黒に向かい写真家のしどもとよういちさんと会い飲んだのでした。
しどもとさんは不思議で美しいひとです。
それでしどもとさんと別れて高円寺に向かいすこし飲み、新宿のホテルに帰り、風呂に入りすぐ眠った。
翌日、上原のユアンドアイの会で詩の合評をして、その後で、詩人のみなさんと飲んだのだった。
楽しかった。

よくもまあこんなに酒を飲むもんですねえ。

なぜか突然、思い出したのですが、
むかし、新潟にある坂口安吾記念館に一人で行ったことがありました。
記念館の奥の部屋に「菩薩」という大きな書が掛かっていた。へー、安吾、菩薩かあ!と驚きました。
あれは安吾の書だったのでしょうか?
その後で午後に羽越線に乗り羽後本荘に向かいました。
車窓からずっと夕方の日本海と浜辺に並ぶ漁村の景色を見ていました。

いまはいない義兄が羽後本荘駅で待っていてくれました。

あきれて物も言えません。
あきれて物も言えません。

 

作画解説 さとう三千魚

 

 

 

撓垂れた *

 

姫林檎の

植木鉢が
玄関にある

胡蝶蘭と
紫蘭の鉢も

置いてある

胡蝶蘭は
義母の

葬式に兄と姉が送ってくれた

ひとつでは

仏壇が寂しいから
もひとつ

女が買った

もう
白い花は落ちて

緑の厚い葉が光っている

紫蘭は
義母が育てていた

姫林檎はいつだったか
義母の誕生日に

玄関に飾った

春には

白い花が咲き
夏には

小さな実をつける

玄関のポストの下にはアロエが生い茂っている
盛り上がってトゲトゲの緑の葉をひろげている

義母のアロエだった

毎朝
水をやる

姫林檎にも
胡蝶蘭にも
紫蘭にも

新聞を取りに出た時には水をやる

それでも
夏の午後には撓垂れていた

撓垂れるの”撓”は”しほる”とも読むようだ

しほる
しほる


目覚めてしほる

朝早く目覚めてしほる

新聞を
取りに出る

花に水をやる
植木鉢の土の窪みに水は溜まる

 
 

* 工藤冬里の詩「holy sunameri moters」からの引用

 

 

 

holy sunameri moters

 

工藤冬里

 
 

-1.先週までのあらすじ(ネタバレ)

人生のアーカイブ化を図るK(60)は、文壇もとい分断された詩の場所を統合しようとして失調し、ウィーン分離派があるなら日本分離派はないのか、などと呟きながら財布ごと銀歯を失くした呂律の回らぬ頭で反メルキゼデクを妄想する。空港近くで避難警報を受信するが、町の避難訓練だと分かると宙吊りにされたままビッグコミックオリジナル9月20日号佐藤まさあき「夕映えの丘に」再掲を読み、モノクロームの線が赤より赤いことに驚く。遠藤水城の満を持したアイトレ文に刺激され、「痺れるような柔和さと燦めくような分かり易さで諸体制の延命を図る頭脳らの世俗性を俺は拒否する/体制に延命など要らぬ/今滅びろ」とツイートする。青い朝顔の、午前中だけ続くその栄光を活ける。ブレードランナー2049を観、未来はなく過去を変えることでしか今の栄光はない、との思いを強くする。三万いくら入っていた財布を運転免許やカード類と共に失くし、タイヤをパンクさせられ、映画館駐車場の側溝に落ちて左大腿骨を強打し、巣立後のオスの足長蜂にまで刺され、身分証明にと持ち出したパスポートまで失くした状態は、自分が地雷として愛を定義してしまったことに因る彼方側からの攻撃と信じ込むが、金を拾うなどのいくつかの不幸中の幸いとでも呼べる出来事があり、幸福とは不幸度7に対して3くらいの割合で生じてゆくものだなどという間違った人生哲学を開陳するまでになり、止揚を相殺と訳すノヴァーリス、偶然と悪霊が殺し合うのか、などと分断/統合の結末を呪いながら、切れた筋肉に絆創膏を貼って灰に赤い糸の混じった眠りに就くのだった。

 

0.創(キズ)

目覚めれば満身創痍と分かるだろうきずをつくると書いて創造
絆創膏剥がす速度を速めればきずなのきずは一瞬で済む

顔の上で
金八先生のようなことを打っているうちに
また寝てしまい
緩んだ手から眉間に降ってきてさらにベッドの
下の硬い床に落ちました
慢心創痍工夫

 

1.次の日

チャンジャ高かった?
よく見れば灰とピンクでアルトーぽい
白にも色々あるね
車を選ばされる社会
先生 トイレに行っていいですか
と言えず池田さんの足の周りに水たまりが広がっていった
過去を変えるだけのヒーロー
文字を立体にするだけの落書きが
後の映画のエンブレムになろうとは
レプリカントの血のように
弁当のチャンジャ
国分寺の坂を下った
深夜もやっている定食屋で
若い人達はチキンカツ定食を食べていた
そこでチャンジャを見つけた時は嬉しかった
幕の奥に振りかける
イエス、幕は肉体である
故意の恋の罪に犠牲は残されていない
最後から二番目のセミがまた啼き出した
背広は袖が狭くて手首が入らない
どうしても死が必要である
代わりの血で契約を
地平線近くで興ると雄大に見える
濁点は付けないでくれ
おしゃれ泥棒
心に置き頭に書く 法律
撓垂れた観葉植物
拓輝は ひろき と読むのか
みんな親に似てるなあ
親の親を五十代くらい遡れば
もっとトマトやキュウリが出来るだろう
地上に建てるものではない
前に話したじゃないですかー
ここで眠くなっちゃった
インタビュイーはこたつの中で髪を七三に分ける
次の日を心配しなくていい
次の日はない
次の日を末席に坐らせる
私は次の日である
過去が、次の日なのである
声たちが、席に着いている
次の日は招待されたが断った
駄菓子屋のような風が吹いている
露地や小径に行き、誰でもいいから無理にでも連れて来なさい
笑ってない

 

2.居酒屋「ラッキー」にて

いっぺん病気でもせんとこりゃ無理やな
でもこれは所詮にんげんのものがたりだ
なんてこった
柿の実が俺に当たる

 

3.すっからかん節

すっからかん
すっからかん
ジャック・ラカンもすっからかん
五百羅漢もすっからかん
次の日はない
妄想の中で過去を変えることの中にしか
希望はない

 

4.敵の土地で朽ち果てる

告別の間僕は眠っていた
言葉は洞門の内壁を伝い
上流に抜けていた
認知が完全に進んだ時
司会者が町にやってきた
鳥籠を持って
羽が生えるのではない
羽で覆われるだけなのだ
今はセメントが居留地を覆っている
黝ずんで、SFのセットのようだ
破戒的な疫病が蔓延し
竹冠と草冠を取り払った剝き出し
真昼の決鬭から門構えを取り払うとどうなる
災厄がテントに及ぶことのないためには
鳥籠を避けなければならない
上流で言葉は禁令という石に打ち付けられる
正面から攻撃してくるのはライオンとコブラ
禁止の報せを帯びたディスプレイは青味がかっていて
迫害自慢の目隠しを外せば
吹き抜けの夜空が見通せる
手を並べ小さい恐龍と大きい恐龍、と言う
蓋を開けてみれば、
あるいは蓋から草冠を取り去ると、
私達は石のように笑っていなければならなかった

私は敵の土地で,生き残る人たちの心を絶望で満たす。彼らは,吹き散らされる木の葉の音に追い立てられ,誰も追い掛けていないのに,剣から逃げる人のように逃げて倒れる。誰も追い掛けていないのに,剣から逃げる人のように互いにつまずく。敵に抵抗することができない。 国々で死に,敵の土地で息絶える。(lev26:36-8)

荷を負い、外国に引っ越すべきか
隠し場所を決める
口籠で守る
口籠から竹冠を取り外すと
詩は用語を変えて
分裂したパーティーは長く続かない
牛乳パックの絵のように
或いは夏ツバキの幹のジグソーパズルのようにして
嫉妬を克服した
バレエの骸骨
追うマンガ
敵の土地で朽ち果てる (lev26:39)

 

5.共鳴しない秋の歌

君がいるのはいけないことだ
と歌う声がカーラジオから流れてきて
ぎょっとした
なやみつかれてまちのなか
と続いた
草野さんの声だということは
その頃にはわかっていた
検索すると
悩み疲れた今日もまた
だった
研究?している人もいて
カレーという語が出てくるのは
エンケンへのリスペクトだ、
ということだった

 

6.道連れ

死ぬ死ぬと言わせ
それはこういうことかと言わせ
受け身を加速させ
道連れの豚の群れに
ひこうき雲を聴かせて
食べられない体にしてから殺す
せめて食べてくれればいいのに
分かりました
フェストフード店に
言っておきます
あなたを食べた生き物を出しましょう
ありがとう
それでこそ政治家だ
どういたしまして
それがアジェンダとしてファーストですから
ああ
何とかの何とかが第一てやつのことですね
ありがとうありがとう
では一緒に歌いましょう
ごりん ごりん ごりん
りんごはごりんじゅう
じゆうなりんご
りんごは捥がれた
ところで
移動を禁じられるとは思ってませんでした
江戸時代はそうだったのは知っています
りんごは
自転車でモールに行き
百均で働いているだけですから
いいんですけど
農協も忙しくて
頼んでも田植えに来てくれないので
ふしぎな単一の植物がひょろひょろ伸びて
メキシコのさばくのようです
一度行ったことがあります
国境付近でした
UFOしか観光資源がない町という触れ込みで
プラダが店出してました
砂漠の真ん中にぽつんとプラダ
プラザ合意って知ってますか
留学したのはその前です
気分は田中英光でした
その頃は連絡船の出航用に紙テープが売られていました
海に色が溶けて
汚染といえば汚染でしたが
分かりやすい汚染でした
私企業とか紙テープとか
ウカマウがよくやる、
責を負うのは誰それであるという
分かりやすいターゲット設定の快感
それが今は
マリオネットだから
マリーアントワネット
ネットのマリオ
マリというオネエ
デラックスなターゲットだねえ
キンに目を向けさせる
キンのマネー
マネ菌

禁令下の
ジャーマネ
ゴダール曰く
いまや蚊の方が真剣だ
道連れで壁という曲を思い出したんですけど、元の詩は
たくさんのかべ
たくさんのおり
たくさんのろうや
それがくずれるとき
わたしの体も破裂するのだ
花をつめ
花をつめ
うつくしい花
すぐにくさってしまう
うつくしい花
という、シュトゥルム・ウント・ドラングの詩人レンツの影響下にあった礼子によるロマン主義的なものでした。初演は椎名町消しゴム画廊、角谷と礼子と僕の三人でした。その数年後に出たピナコテカ盤の、道連れのキクノハナ、という歌詞は、欠落を埋める気質のある攝が忖度して付け加えたものです。崖から飛び込む道連れはいいからきみはもう独りで歌え。

 

7.エンドロール

財布は戻り、事件は解決した。しかしKの胸にはいつまでも消えない重苦しさが残った。

「あの、俺さあ、もう詩人刑事やめようと思うんだ。所詮俺の居場所なんてなかったんだ、ってね。」
「それな」
「・・・」

 
 

シーズン2-1に続く クリック

 

 

 

”ぷ”は”ぷ”に”ぷ”と

 

一条美由紀

 

私は”ぷ”。絵を描く”ぷ”
”ぷ”は詩を書く”ぷ”に会った。
詩を書く”ぷ”の周りはいろんな”ぷ”がいる。
写真を撮る”ぷ”、映像を作る”ぷ”、歌を歌う”ぷ”
話す”ぷ”、歩く”ぷ”、犬のふりをしている”ぷ”
”ぷ”は”ぷ”が好き。”ぷ”は”ぷ”が作るものが好き。
共鳴し、増幅し、発酵する”ぷ”。

見える”ぷ”に潜む隠れた”ぷ”を見つけ出す。
”ぷ”の周りは”ぷ”でいっぱいになる

”ぷ””ぷ””ぷ””ぷ””ぷ””ぷ””ぷ””ぷ””ぷ””ぷ””ぷ”

ありがとう”ぷ”、幸せなのさ”ぷ”

 

 

 

また旅だより 13

 

尾仲浩二

 
 

明日で期限が切れる青春18きっぷをもらってしまった。
やらなければいけない事はあれこれあるのだが、とにかくどこかへ行かなければならない。
台風一過でこの夏の最高気温が予想されているなか、中央線を乗継いで塩山へ。
ブドウ畑が広がる盆地は暑い、すぐにグレーのTシャツがマダラに染まる。
人影のない商店街を抜けると寂れたちいさな温泉街があった。
入湯料400円と東京の銭湯よりも安い。
片道2時間半掛かったけれど電車賃はタダだし、なんだか少し得した気分だ。

2019年9月10日 山梨県塩山にて