「文春オンライン」によると、禿げを偽って結婚した男がカツラを見破られ離婚された。さて、ところで、マスクをしてフードを被っていたら一人の子供に「おばさん」と呼ばれた。わたしはその子供におばさんと間違われた。その子供はわたしをおばさんと宣言した。

 

工藤冬里

 
 

さて
ところで。
わたしに対する治療は存在しない
わたしに対しては隔離だけが存在する
わたしに医者は存在しない
宣言する者だけが存在する
病は汚れだからだ
汚れているか汚れていないかの判断と宣言だけが存在する
禿げは汚れではない
父は最晩年に頭の天辺が少し禿げてきていた
誰も何も言わなかった
さて
ところで。
病は無くなる
禿げも
たぶん無くなる
さて
ところで、

 

 

 

#poetry #rock musician

家族の肖像~親子の対話 その50

 

佐々木 眞

 
 

 

ぼく、ソナタ好きですお。
ソナタ弾いてよ。
嫌ですお。

あした図書館へ行ってえ、西友へ行きますお。
分かりましたあ。

お見合いって、なに?
結婚しようと男の人と女の人が会うことよ。
ぼく、お見合い好きですお。
そうなの。
「エール」でお見合いしてたよ。
してたね。

スマップ、やめたの?
そう、やめたのよ。
なんでやめたの?
なんでかねえ。

孤独って、なに?
一人でさびしいことよ。コウ君孤独なの?
じゃないよ。

ワイドドア、椅子が少ないね。
そうだね。

精神的って、なに?
気持ちの持ち方よ。

お父さん、ヨシネキョウコはナナだったんですお。
なに、なに?
「高嶺の花」の話ですお。

留守は、いないことでしょう?
そうだね。

忘れはしない、って、なに?
忘れることはない、よ。

恋って、なに?
とっても好きになることよ。

お母さん、なにとぞ、って、なに?
どうぞ、のことよ。

輸血って、なに?
血が足りないから血を注射することよ。

「話しちゃダメ」って言われたんですお。
誰に?
イナズミさんに。
どの放送の話なの。
「高嶺の花」ですお。

お母さん、ぼく、お祭り好きですよ。
そうですか、ワッショイ、ワッショイ。
ワッショイ、ワッショイ。

局地的って、なに?
その場所だけ、だよ。

プラネタリウム、なに?
お部屋の中でお星さまを映し出すとこだよ。

お父さん。病院は怪我したとき?
そうだよ。病気したときもね。

綿はオクラに似てるね?
そうだね。
オクラ、ねばねでしょ?
そうだね、ネバネバだね。
ねばねば、なばねば。

ぼく、ポンキッキ好きだお。
お母さんも。
お父さんも。

激励会って、なに?
励ます会よ。

マコトさん、立ち止まったらだめでしょう?
ダメだね。

縁起でもないって、なに?
そんなこと心配しないでいいよ。

エイコさん、薬剤師さん?
そうよ。

もう一丁って、なに?
もう1回よ。

お父さん、石原さとみのビデオ録画した?
したよ。
した?
しましたよ。

お母さん、「夜明けよ」印刷してね。
分かりましたあ。

人身事故だと電車動かないでしょ?
そうだね。電車とまるとコウ君どうするの?
分かりませんお。

マコトさん、ボクジョウ、まきばのことでしょう?
そうだよ。

ジュンサイ、つるつる?
そうだよ。

コウ君、スイカ食べますか?
食べますお。
モモ食べますか?
食べますお。
ブドウ食べますか?
食べますお。
水ようかん、食べますか?
食べますお。

海が見える道を通りますか?
通りませんお。

車体構造って、なに?
車の中身だよ。

お母さん、一直線て、なに?
まっすぐよ。
お母さん、従うって、なに?
言うことをきくことよ。

ぼく、オクラ好きですお。オクラ、アフリカ原産ですお。
へええ、そうなんだあ。

お父さん、ひっぱたいたら痛いでしょ?
そうだね。痛いね。

コダック、会社の名前でしょ?
そうだよ。

なんでキシモト先生「またケンシン」ていったの?
また歯をみましょうね、とおっしゃたのよ。

ぼく、リョウちゃんとサカイさん、両方好きだよ。
そうなの。

「ほか」って、「以外」のことでしょ?
そうだね。

駒、将棋でしょ?
そうだね。
ぼく、将棋したいですお。

感じるって、思うことでしょ?
そうね。

Uターンって、なに?
くるっと回ることよ。

Uターン禁止って、なに?
ここでくるっと回ってはいけません、よ。

お父さん、名前の英語は?
ネームだよ。
名前、名前、名前。

めぐむって、なに?
困っている人になにか上げたりすることよ。
め・ぐ・む、め・ぐ・む、め・ぐ・む

農作業って、なに?
田んぼや畑でお米とかお野菜とか作ることよ。

迷ったら困る?
迷ってもいいよ。

ぼく、少年隊、好きですよ。
そう。お母さんも。

感動、なに?
こころに響くことよ。

お父さん、ぼく「アンサング・シンデレラ」の最終回みます。
わかりましたあ。

お母さん、せめてコウ君が死ぬ前の日までは頑張って生きるようにするわ。いや亡くなってあと1週間かな。あとはお父さんにまかせて。

コウ君、イトウ君はね茅ヶ崎から相模線に乗って2番目の駅で降りるんだって。
香川ですお。
え、そうなの。

蒲、蒲田の蒲でしょ?
そうだね。

お父さん、竹中直人、録画してくださいな。
何曜日ですか?
日曜日ですお。
分かりました。

 

 

 

Would you mind shutting the window?
窓を閉めてくれませんか。 *

 

さとう三千魚

 
 

when I was young
I met Yasutake Funakoshi’s book

it’s an upholstered book
the word “boat” is stamped on the cover with silver foil.

in that boat
there was a human

I read the book
I wanted to meet the statue of the 26 saints

a few years ago
I went to Nagasaki to visit Chihiro’s grave

some days
I walked in the city of Nagasaki

I met the saints at that time

in the sky
floating

Nagasaki was a hill town

I heard the whistle of the ship
I heard the church bell ring

so
it came true

Would you mind shutting the window *

 
 

若い頃
舟越保武さんの本に

会った

布張りの本で
表紙に”舟”と銀の箔が押してある

その舟のなかに
ヒトがいた

その本を読んで
二十六聖人を見たいと思った

数年前に
千尋さんの墓参に長崎に行き

何日か
長崎の街を歩いた

その時に聖人たちと会った

空に
浮かんでた

坂の街
だった

船の汽笛を聴いた
教会の鐘の鳴るのを聴いた

それで
叶った

窓を閉めてくれませんか *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

世話することが仕事だった

 

工藤冬里

 
 

世話することが仕事だった
世話の必要な羊を世話するために
食べない羊を飼い始めた
給料をもらうことが仕事なのではない
世話することが与えられた仕事だった
飼うことそのものが仕事だった
飼うために飼った
きみがペットを飼っているとしたら
それがきみの仕事なのだ

草むしりは仕事ではない
野菜作りは虚しい労力の浪費であった
地面は石ころだらけで
川の氾濫もなかった
それは草も生えないその達成は今日の労働に似ていた
労働の結果は火花に似ている
着火はするが燃え上がることはない
一二月一六日的空を 心はしていた

 

 

 

#poetry #rock musician

It began to rain cats and dogs.
雨が土砂降りに降り始めた。 *

 

さとう三千魚

 
 

the wind was strong
yesterday

outside
The princess apple tree pot

I put it in the front door

in the winter sun

the princess apple tree had its leaves glowing yellow

mother-in-law
she laughed at me

that winter day

I will never forget
I can’t forget

It began to rain cats and dogs *

 
 

風が強かった
昨日

外の
姫林檎の

鉢を
玄関の中に入れた

冬の日を
浴びて

姫林檎の木は
葉を黄色く光らせていた

義母は

はにかんで
笑ったな

あの冬の日に

忘れない

忘れ
られない

雨が土砂降りに降り始めた *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

1956と1958の厳然たる違いについて

 

工藤冬里

 
 

デイビー デイビー・クロケット
素敵ないい男
スタートダッシュで出遅れる
三つで熊を倒す
僕は四歳
万世一系の系図を憶える
二つ以上数えられない人たちが国を作る
三つ目は数えられない人たちの
政党
だだっ広い荒野
どこまで行っても離される
僕は四歳で倦怠を知る
デイビー デイービクロケット
真逆のいい男
時間とは熱の不可逆性との闘い
私は自らの体温でなんとかそれを乗り切った

 

 

 

#poetry #rock musician