貨幣について、桑原正彦へ 27

 

今日
海辺のプールで500m 泳いだ

平泳ぎで
ウミガメのように泳いだ

両足を大きくひらいて漕ぎだす
手をあわせて

頭から
水中に潜り込む

そのとき青い水になりたいと思う

それから
ジャグジーに浸かり

空をみてた

カモメたちが空中に浮かんでいた

 

 

 

家族の肖像~「親子の対話」その16

 

佐々木 眞

 
 

 

京浜東北線205系は平成26年までだよ。
それからどこかへ行っちゃったの?
インドネシアだお。

ひいでるってなに?
優れてるってことよ。

とにかくって、とりあえず、のことでしょう?
そうだよ。

盛り上げる、盛り上げる。盛り上げるってなに?
よーし、と頑張っていくことよ。
盛り上げていきましょう。

お母さん、強引てなに?

ちょっとタンマって言ったお?
誰が?
キンニクマンだお。

お母さん、叫ぶってなあに?
やっほー!

ぼくタイ子さんすきですよ。
タイコ?
イクラちゃんのお母さんですお。

お母さん、こなごなってなに?
小さくなってしまうことよ。
こなごな、こなごな。

申すと甲、漢字がちがうよねえ。
ほんとだ。

ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。

まえトイレットペーパー使いすぎって言われたよ、スギウラさんに。
大丈夫よ。

耕君もほんとうに苦労しながら生きてるのね。
そうだお。
ほんとうに我慢しながら生きてるのね。
そうだお、そうだお。
これからも頑張って生きていこうね。
はい、そうしますよ。

お父さん、武蔵野線、東京まで?
そうなの?
そうなんですお。

トキワ君なくなっちゃったよねえ。
病気だったの?
そうよ。
ぼくトキワ君ですお。
こんにちはトキワ君、あの世で元気にしていますか?
元気ですよ。

お母さん、それにしてもってなに?
そうねえ……
それにしても、それにしても。

お母さん、ぼく妙高高原好きだ。
耕君行ったの?
行きましたお。
どうだった?
良かったですお。

お母さん、修了証書もらいましたよ。
そうなの。
以下同文、以下同文。

お父さんに「ばか、キライ」っていわれたお。
wwwwww

ただいまって現在のことでしょう?
そうだよ。

お母さん、地震のとき武蔵野線とまったよね?
そうなの。
ぼく、武蔵野線好きだよ。
そう。

お父さん、宏さん、おじさん?
そうだよ。

お父さん、赤羽駅に自動改札ある?
あると思うよ。一緒に赤羽駅行きますか?
いやだお。

お父さん、京浜急行、赤でしょ?
そうだよ。

お父さん、十日市場、横浜線でしょ?
そうなの?

お父さん、再は再放送の再でしょ?
そうだよ。

お母さん、オトゾオさんはずっと生きてたでしょ?
ええ、生きていましたよ。

オトゾウさん、目を閉じたでしょ?
閉じましたか?
閉じたお。

お母さん、しりとりしよ。脳波。
ハ、ハ、花。

終点って電車の終りでしょ?
そうだよ。

お母さん、えみちゃん好きだよ。

お母さん、最低ってなに?
全然駄目なことよ。
最低、最低。

10分経過って10分たつことだよ。
そうだよ、耕君よくしってるね。

耕君の工賃は500円でしょ。月500円しか使っちゃいけないのよ。だから無駄遣いしないでください。
wwwwこれから気をつけますお。

バンザーイ、バンザーイ!
お母さん、ぼくいまバンザイしましたよ。
あら、そう。

健ちゃん、ファイトみた?
見たと思うよ
ふぁいと!

 

 

 

貨幣について、桑原正彦へ 26

 

昨日は
信濃町の駅で降りた

若い頃
ここに女と棲んでた

男の仔が生まれた

信濃町で
井上洋介さんの絵をみた

死体の横で
女たちが犯されていた

街が真っ赤に燃えてた
鬼が開いた女陰に合掌していた

今日
午睡から目覚めた

サイレンが鳴りひびいていた

 

 

 

ヴァイオリンとヴィオラのための。

 

萩原健次郎

 
 

 

幼齢の私の変態を待つ蛹の手前の蠕動のあるいは卵形の透明な滴のもっと前の成り立ちの生成の行為の場所の雌雄の触れる隠れ家の句紡ぐ片割れの帰路に流れる右岸と左岸の結ばれた橋上に見知らぬ親族が多く集まり逃亡してきた者らは命拾いしたとか誰某はもういつの間にか消えてしまったとか言いながらぬるい酒を飲み酩酊し潰れ揺すられて目を覚ましまた酒を飲み潰れいっぴきの芋虫は知っている筋脈伝書に書かれていること匂いの色いんきに筆を浸して這ってそこに血色に対比する水色の文字を書いた芋虫の変態の節の時間にふたつの性が交わったのだろうと夢の想像はもうサイレンの音が高鳴って消えていくまでに透かされて空になる芋虫の父母の微細な鱗に塵は挟まってもうそれよりも細いブラシでしかはらうことはできない葉は時とともに色を変え一年のすべての色を混ぜると暗黒の先の穴の先の闇の中の暗い絵の中の黒焦げの墨となり提唱する宗教のまるで穴の中の芋虫と同じ私と父母と同じ腐敗していく舞踏の席で国の家ではないかと怒鳴る異星の女がいて恋しく肩を抱いて昔の歌謡曲を唄ったりまた潰れ交わりまた透かされて五トンはある鉄の車に轢かれて弦二丁の弦楽合奏はまだ閉じないで檻の中では五色の芋虫だらけになりそれを一瞬で潰す親族がやってきて粉末味噌汁のフリーズドライの神話がぬるい湯で溶かされて模様となりああもうどんな清い細胞があっても元の姿に戻れないヴァイオリンとヴィオラの合奏なら焼け落ちてもいい

 

 

 

神の代理人

 

長尾高弘

 

 

大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス(第1条)
天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス(第3条)
明治憲法体制では、
天皇以外はすべて臣民だったわけよ。
天皇が主で臣民は奴隷、全然平等ではないのよね。
憲法にはちょっと自由を認めてやるよってことが書いてあるけど、
天皇の命令でどんな自由もいつでも奪えるようになっていたわけ。
でもさ、天皇はたったひとりで、
「臣民」は何千万人もいたわけで、
どうやってひとりが何千万を抑えつけていたんだろうね?
たぶんこういうことなんじゃないかと思うんだけど、
軍人やら政治家やら役人やら教師やらといった連中がいたでしょ。
そいつらが身近な天皇の代わりになったんじゃないかな。
最初は神の言葉を代弁していた神主が、
そのうちに神そのものに成り上がるって、
民俗学にたしかそんな説があったと思うんだけど、
まさにそういう関係よね。
天皇の代理人は、
天皇に対しては臣民かもしれないけど、
一般臣民に対してはまるで天皇のようにふるまうわけ。
すると、一般臣民に対しては主なんだよね。
一般臣民はそいつらの奴隷さ。
一段上に立って、一般臣民の批判を許さないわけ。
戦前の体制に戻したい連中って、
そうやって自分にとっての天国を作りたいんじゃないかと思うよ。
ゲスだな。

 

 

 

潜水艦

 

佐々木 眞

 
 

 

あなたは、潜水艦を見たことがありますか?
私は、時々それを見るのです。
はじめて実物を見たときは、ちょっと驚きましたが。

それは横須賀の岸本歯科へ行くとき。
JRの横須賀駅で降りて、すぐ左手のヴェルニー公園まで歩くと、
そいつはいつでも、ずんぐりむっくりとした怪異な姿を、浮かべているのです。

潜水艦は、今日も波穏やかな軍港に停泊していました。
珍しく大勢の人々が艦橋に乗って、なにやら作業をしていました。
今日明日にも、出港するのでしょう。どこへ行って、なにをするのか知らないが。

潜水艦を見るたびに、私はヨシナガさんを思い出します。
ヨシナガさんは、戦争中、潜水艦に乗っていたそうです。
「伊○○号」とかいう名前がついた、日本帝国海軍の潜水艦に。

誰でも思うことですが、潜水艦の中は、きっと狭くて暗かったことでしょう。
航海中は、酸素や電気や食料を浪費してはならないから、
乗組員は、腹を空かせた酸欠状態の金魚みたいに、息苦しかったに違いない。

そして、そんな息詰るような極限状態の中で、
ヨシナガさんは、戦った。
朝から晩まで、見えない敵と戦ったのです。

ヨシナガさんが、どうして海軍に入って潜水艦に乗るようになったのか、私は知らない。
どんな恐ろしい目に遭い、あるいは敵にそんな目に遭わせたかも、知りません。
でも彼は、恐らく死とすれすれの危険な目に、遭ったのではないでしょうか。

しかし、もし私がヨシナガさんだったら、
冷たい水の奥底で、人知れず死ぬことだけは避けたい、と思ったことでしょう。
せめてさんさんと降り注ぐ太陽の下で、新鮮な外気を吸いながら死んでいきたい、と願ったことでしょう。

さいわいなことに、ヨシナガさんは、死ななかった。
奇跡的に生き延びて、無事に内地に帰還したヨシモトさんは、基督者となった。
そして私の郷里の丹陽教会で、毎週日曜日の礼拝にご夫婦で出席されていました。

日曜日以外のヨシナガさんは、町の外れの醸造会社で働いていて、
当時私たち子供が夢中になって集めていた、「ヒガシマル」などの醤油瓶の
商標シールを、自由に採取させてくれました。

いつもかすかに微笑みながら、
「ほら、そこにもあるよ。取っていいよ」
と、優しい声で教えてくれるのでした。

だから私は、横須賀で黒塗りの潜水艦を見るたびに、ヨシナガさんを思い出す。
ヨシナガさん、あれからどうされただろうか?
もしかして、まだ生きておられるのかしら?

 

 

 

飲み込まれちゃう

 

辻 和人

 
 

飲み込まれちゃう
飲み込まれちゃう
遂に、遂に

お家ができちゃって
引き渡しの日
ミヤミヤと自転車を一生懸命漕ぐ
緑むせ返る5月の終わり
10時ぴったりに新居に着く
うわぁ
真っ白な壁
真っ白な屋根
緑の熱気をひんやりなだめる
建築事務所の方に鍵を渡してもらったミヤミヤ
「入りますよ。」
一瞬息を止め、深く吐き出して
記念すべき
カチャリ
あ、開いた

足を踏み入れると
外観とおんなじ
きりっと真っ白白
ああ、家だよ、ホンモノの家だ
上がったり下がったり
ジグザグになるように配置された大小の窓
うん、この窓がこの家の特徴なんだ
ついてきた光線君
閉まる寸前のドアの隙間から
薄く四角く延ばしていた体をヒューッと潜り込ませ
球のようにまあるくなったかと思うと
窓枠に沿って
つるん、つるん
「ウエー、ニ、イッタリィ、サガッターリィ、ツッルーーン。」
目玉をジグザグに動かして喜んでる

ミヤミヤはゆっくり歩きながら
険しい目つきで部屋の中を見渡す
集中してる時の表情だ
ダイニングとつながってるキッチンでは
できたばかりの料理を縁に乗せればすぐに食卓に運べるようになっている
その白い縁の部分にそっと手を置いて滑らせながら
キッチン周りを子細に点検し終えたミヤミヤ
「2階に行ってみましょうか。」
とんとんとん、と
スケルトン階段
昇ってる途中
おっ、ミヤミヤ、立ち止まって
厳しい表情を解いて
ようやくようやく
にっこり
何だろう
「ねえねえ、かずとん、ここからの眺め、とってもいいよ。」

右手にあっかるい大きな窓
前方にベランダとフリースペース
そして見下ろした先には赤褐色の床がノビノビ
壁真っ白で柱もないし
だから床の個性が引き立つんだな
面積は狭いんだけどなあ
家がパカッと口開けて
呼吸してるみたいじゃん

吸い込まれる
吸い込まれちゃう

あれもこれも
ミヤミヤが望んで計画したもの
毎日毎日隙間時間を見つけては設計図とにらめっこして
いやいや
もしかしたら
ぼくとつきあう前からミヤミヤの中にずっしーんとあったかもしれないもの
掌を広げ壁をそっと押し当てて
鼓動をうかがうように
感触を確かめる
この家は
ミヤミヤの魂そのもの
面積は狭いけど
床板の赤褐色は
広くて深い
かずとんなんてさ
この赤褐色に
飲み込まれちゃう
飲み込まれちゃう
そうだよ
飲み込まれちゃえ
飲み込まれちゃえ

「がっしりできているでしょう。
ウチは頑丈さには自信があるんです。
ちなみにこのブラックチェリーという床板は
時がたつほど赤味が出てきて味わい深い色になるんですよ。」
設計士の方が説明してくれた
「はい、良い家を作っていただきありがとうございました。」
深々と頭を下げるミヤミヤ
おっと、思い出したぞ
この床板を決めたのはぼくだったな
床はどの板にするか、ミヤミヤから選択を求められて
明るすぎず暗すぎず
そんな色を迷いもせずに指定して反対されなかった
ぼくの選択の結果が今、ここにどーんと存在してるってわけ
ミヤミヤの魂の一部にもなってるってわけ

「かずとーん、センタクー、ノーミー、コマレー。」
体を丸くした光線君がボールのように転げ回りながら叫ぶ
右の壁にぶつかっては左の壁に跳ね返り
天井にぶつかっては勢いよく床に落ちる
落ちた先に広がっているのは
赤褐色の世界
ミヤミヤとかずとん、これから2人仲良く
飲み込まれちゃう
飲み込まれちゃえ

 

 

 

やっぱ、俺っち御免だぜ

 

鈴木志郎康

 
 

やっぱし、って
思っちまって、
俺っち、
「いや、違う」って、
声に出したっちゃ。

「やはり」って、明鏡国語辞典には、
「予想や予兆が事実とぴったり一致するという気持ちを表す」ってね。
「本来的な意見に立ち戻って発言するという気持ちを表す」ってね。
その気持ちが右往左往させられっちゃってね。
「いや、違う」って、
俺っち、
声に出したっちゃったってわけね。

やっぱしには、
前後のことがあるけんど、
俺っちには、そこがね。

アボガドを食べて、
りんごを食べて、
やっぱし、
アボガドがいいや、
てね、言えば、
りんごを否定するっちゃ。

つまりね、
俺っちが、
「やっぱし」って、
言っちゃったら、
何を否定したのかって、
何に戻るのかって。

やっぱ、
やっぱ。
矢張り。
元には戻れん、戻れんっちゃ。
元に戻しちゃいけないっちゃ。

でも世の中にゃ、
やっぱし、
幼稚園児に
教育勅語を暗唱させてる
幼稚園があるっちゃ。(注1)
やっぱ、
いやあな気分。
「チンオモウニワガコウソコウソウクニヲハジムルコトコウエンニトクヲタツルコトシンコウナリワガシンミンヨクチユュウニ(朕惟我皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ德ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ)」なんて叫んでるっちゃ、
ひどいねえ。
それで、
歴史を元に戻せるかって。
やっぱ、
安倍晋三総裁がテレビで言ってた
「日本を取り戻す」ってのを、
幼稚園児が叫んでるっちゃ。
「日本を悪者として扱っている中国、韓国が心改めて、歴史教科書でうそを教えないよう、お願いいたしますよ。安倍首相頑張れ、安倍首相頑張れ。安保法制国会通過よかったです。」って、(注2)
幼稚園児が叫んでるっちゃ。
ひどいねえ。
やっぱ、
やっぱしって、
この幼稚園は先駆けだっちゃ。
やっぱ、
十年後には、
教育勅語幼稚園が、
幾つもいくつも生まれてるに違いないっちゃ。
やっぱし、
その幼稚園児たちが大人になって、
国家主義日本が戻ってくるっちゃあと違うか。
やっぱしねっちゃ。
気分悪いっちゃ。
個人の自由を奪う
国家主義日本は
御免だっちゃ。
俺っち、
七十三年前に、
考えも無く軍国少年されちまって、
集団疎開でいじめられ、
栄養失調になって、
親元に戻ったら、
戦災の火の粉降る中を逃げて、
生き残ったっちゃ。
歴史を元に戻そうって、
御免だぜ。
やっぱ、
御免だぜ。

ところで、
俺っち、
高齢で病身ながら、
三度のご飯を食べて、
平穏な毎日を送ってるっちゃ。
でも、
やっぱし、
個人の自由を奪う
国家主義日本は、
御免だぜ。
やっぱ、
御免だぜ。

 
 

(注1) 朝日新聞2017年2月28日朝刊
(森友学園の)この幼稚園は、戦前・戦中の「教育勅語」も園児に素読させている。映像によると、幼稚園の修了証書授与式で、園児が教育勅語を暗唱する姿が記録されていた。

(注2) 朝日新聞2017年2月28日朝刊
森友学園が大阪市内で運営する幼稚園の2015年秋の運動会の映像によると、代表園児4人が選手宣誓で、父母らに「褒めていただけるよう全力尽くします」と声を上げた後、「日本を悪者として扱っている中国、韓国が心改めて、歴史教科書でうそを教えないよう、お願いいたしますよ。安倍首相頑張れ、安倍首相頑張れ。安保法制国会通過よかったです」と言っている。

 

 

 

吊り革には手が届かない

 

白鳥 信也

 
 

吊り革に手を伸ばすけれども届かない
次々と乗り込む人に押され息が苦しい
必死に吊り革にとりすがった黒いダウンの男が私の吐いた息を吸っている
身体が押し付けられ苦しい苦しいから息を大きく吸う大きく肺のそこまで
ひどく混みあった中で息が行き来し
それぞれの気管と肺をめぐっている
ここにいるのに ここにいたくない
なにかがはじけそうだ
吊り革につかまりたい
吊り革に手を伸ばすけれど届かない

褐色の金属のドアを開けてただいまと言う
人の気配はするが何の声もかえってこない
しずかにコートを脱いでハンガーにかける
髪の毛と顔についているだろう花粉を払う
それから着替をする
吊り革をさがしたい
はじけそうな言葉を投げ出すこともなく飲みこむ
気管も肺も飲みこんだ言葉がひしめきあっている
静かにカーテンが閉められる
ガスの火が弱火で燃えている
手を伸ばそうとする気持ちが
ちろちろと炙られて
音もなく燃え始める

私の吐いた息はそっとどけられる
息に花粉でもついているみたいに
食卓の上ではいくつかの腕が動く
降れることもひしめきあうことも
気管や肺を行き来したりもしない
ここにいるのに ここにいない
この場所に吊り革があればいい
天井からいっぽんの垂れ下がり
どんなに揺れようと震えようと
つかんでつかまれてまじりあう
自分の心臓の音が聞こえるくらい静かな時間が
そっとどけられた息を折りたたみはじめるから
吊り革には手が届かない
吊り革には手が届かない