また旅だより 66

 

尾仲浩二

 
 

大阪から船に乗って釜山へ行ってきた。
夕方に出港して昼に着く。
船客のほとんどは韓国の人たちで、売店の通貨も韓国ウォン。
飛行機よりも安い料金なので韓国の学生達がたくさん乗っている。
食事の後のアトラクションは船員バンドの熱い演奏で70年代ロックや韓国歌謡。
その演奏に学生達もノリノリでなんだか嬉しくなる。
後は部屋で焼酎をやりながら瀬戸内海の灯りを眺めていればいい。
朝方に玄界灘でに出ると大きく揺れだしたが、それも船旅の醍醐味。
帰りには釜山で刊行した写真集をたくさん持ち帰った。船に荷物の重量制限はない。
こんな楽しい国際航路を気軽に楽しめる関西の人がうらやましい。
なんとか大阪に用事を作って、そのついでにまた釜山へ行ってこよう。

2024年2月14日 東京中野の暗室にて

 

 

 

 

就這樣
こうなんだ

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

就這樣
在春節裡踐踏水仙濕潤的枝莖
重複的春夜,
貴重的沮喪。

就這樣
背負着沉重的玻璃飛行
出逃的淚珠痛,而且重。
蝴蝶潮濕。

就這樣
通往七樓的記憶失去了階梯;
新的疫苗獨自恐懼。

就這樣
在消防栓上痛飲,
孩子們離開前線,
流血的火。

就這樣
火中之栗沒有供出我們;
你失聲的歌在佛像前停留。

就這樣
灰燼灑落在我們的頭上,
警車被漆上紅十字
追捕傷員。

就這樣
歡呼的人群中沒有看到孩子;
皇帝裸身出遊。
鮮花越來越沉。

就這樣
囚人用骨頭銘刻文字;
春天不准出版春天!
甲骨失言。

就這樣
在另一個春天裏
鏡子彌留,
不再期待美的凱旋。

就這樣
你在這一刻離開,
沒有你流血的大海
只是動盪的水。

 
2024年春節 寫於寨城

 
    .
 

就這樣
 こうなんだ
在春節裡踐踏水仙濕潤的枝莖
 元旦に水仙の潤った茎を踏みつける
重複的春夜,
 重なりあった春の夜に、
貴重的沮喪。
 得がたい挫折。

就這樣
 こうなんだ
背負着沉重的玻璃飛行
 重いガラスを背負った飛行
出逃的淚珠痛,而且重。
 逃げ出した涙は痛く、そして重い
蝴蝶潮濕。
 蝶は湿っている。

就這樣
 こうなんだ
通往七樓的記憶失去了階梯;
 七階に通じる記憶は階段を失った;
新的疫苗獨自恐懼。
 新しいワクチンは自らを恐れている。

就這樣
 こうなんだ
在消防栓上痛飲,
 消火栓の上で痛飲し、
孩子們離開前線,
 こどもたちは前線を離れ、
流血的火。
 血を流す火。

就這樣
 こうなんだ
火中之栗沒有供出我們;
 火中の栗は我々には提供されず
你失聲的歌在佛像前停留。
 きみの声を失った歌は仏像の前に留まっている。

就這樣
 こうなんだ
灰燼灑落在我們的頭上,
 灰燼はわれらの頭上にそそがれ
警車被漆上紅十字
 パトカーには赤十字が塗られて
追捕傷員。
 負傷者を追い詰める。

就這樣
 こうなんだ
歡呼的人群中沒有看到孩子;
 歓呼の人々の中に子供の姿は見えない;
皇帝裸身出遊。
 皇帝は裸で練り歩く。
鮮花越來越沉。
 花はますます重い。

就這樣
 こうなんだ
囚人用骨頭銘刻文字;
 囚人は骨に文字を彫り刻み;
春天不准出版春天!
 春には春を出版することを認めない!
甲骨失言。
 甲骨は失言する。

就這樣
 こうなんだ
在另一個春天裏
 また別の春のうちに
鏡子彌留,
 鏡は留まるが、
不再期待美的凱旋。
 もう美の凱旋を期待できない。

就這樣
 こうなんだ
你在這一刻離開,
 きみはこのいっときに離れさり、
沒有你流血的大海
 きみの血を流した海はなく
只是動盪的水。
 ただうごめく水だけが残る。

 
2024年春節 寫於寨城
 2024年旧正月に砦の街で書く

 
 

日本語訳:みやこ鳥