Sigismund Schlomo Freud
(זיגיסמונד שלמה פרויד‎‎)

 

工藤冬里

 
 

きみが何も分かっていないことを思い知らされながら読んでいくと
今更乍らに驚かされる
多様性を弁え知る訓練になるとでも言うのだろうか
原父殺しがそんなものなら人生なんて楽勝だ
エチオピア演歌の夕暮れに
エフェクターを踏み込むだけだ

過払い金のCMが流れる路上が
解像度を間違えているのは
カバラを思い出すからだ
きみの父が三歳のきみにプレゼントしたのだ
革表紙を打ち直して

今更乍らにきみの居た路上は
まさしくこの風化した解像度であった
トラウマを小出しにして
この午後を過ぎ往かせよ

小屋で暑さに震えるウサギ
子らのやる菜の萎れて
死はここにもやってくるだろう

きみはユングとか弟子の多神教野郎達に本当は耐えられなかった筈だ
ただそのきみでさえ葛の花のように萎れて

この解像度の中で路上に散ったのだ

 

 

 

#poetry #rock musician

ニュース

 

塔島ひろみ

 
 

4階の窓から顔を出すと熱のこもった空気がゆらりゆらりブランコのように揺れていた
誰もいない
すぐ真下に小さな公園が見下ろせたが
木も生えていない日陰のないそこには
虫さえも飛んでいなかった
Oは大きく「ふう」と溜息をつき、部屋に戻る
私がかつて暮らしていた10号棟406号室に戻り
私が使っていた冷蔵庫からビールを出して口をつける
冷えが悪い

急死して以来久しぶりに訪れた懐かしい団地
玄関口に私の名の代わりに「O」とボールペンで書いた札が、入っていた
Oは老人で、独り身らしく
驚いたことにほとんどの家具や電化製品が私が住んでいた時のままで、クーラーもないままで、
猛暑の中見覚えがある扇風機が皺だらけのOの首筋に申し訳程度の風を送っていた
Oはドアも窓も開け放し、ビールを飲みながらテレビを見ている
ランニング一枚 まるであの頃の私のようだ
今ひとつ意味のわからないお笑い番組からチャンネルを適当に切り替えると
緊張感を持った画面が映り
大きなニュースを伝えていた

Oは驚き、
テレビに釘づき、興奮した

O、テレビつけ放しでサンダルをつっかけ4階通路に出て見まわす
私が住んでいたころはクーラーのない部屋も多く、開け放たれた部屋部屋からテレビの音や生活音が聞こえたものだが、今日はどのドアも冷たく閉じられ、しんとしていた
O、今度は窓に行き、首を出す
前述のとおり人気はなく、誰かいたところでどうしようもなかっただろう
少し離れたところでセミがジージーしきりに鳴く声が聞こえた

Oが首を引っ込めたあと、ヤマトの車が敷地内に入ってきた
行き先の号棟を探してウロウロしている
Oへの届けものだろうか?! そしたらOはこの運転手とニュースの話ができる!
私はわくわくし、祈るような気持ちでヤマトの車の進行を追ったが
車、別の号棟の方角へ曲る
Oに荷物は届かなかった

Oはしばらくビールを片手に、真剣にニュースに見入っていた
それからチャンネルをお笑いに戻した
うとうとしている

いびきをかき始めたOの肩にそっと手を置く
私の打ち捨てた家具たちをこんなに大事に使い続ける老人の肩にそっと手を置く
テレビから笑い声が聞こえてきた
大きなニュースがあるのに 笑っていた
Oはもう見ていないのに 笑っていた

 

(8月某日、川崎市多摩区で)

 

 

 

He lives next door to us.
彼は私たちの隣に住んでいる。 *

 

さとう三千魚

 
 

after dinner

on the sofa
I fell asleep

I was sleeping while holding Moco

midnight
awakened

dark living room
TV was lit

going up the stairs
when I entered the book room, Moco barked

I put Moco in a basket and brought it here

soon
Moco slept

at dawn
it rained heavily

already
the rain stopped

the top of the west mountain is hidden in the clouds

there is a typhoon in the distant sky
the freighter was sunk

yesterday
I got an email from my sister

my brother will leave the hospital on Saturday
distant people

beside

so
feel

I can hear his sleep

He lives next door to us *

 

 

夕食のあと

ソファーに
眠ってしまった

モコを抱いて寝ていた

深夜
目覚めた

暗い居間に
TVが灯っていた

階段を上り
本の部屋に入るとモコは吠えた

籠に
入れて

連れてきた

すぐに
モコは眠った

明け方
雨が強く降った

もう
雨はやんだ

西の山の頂は雲に隠れている

遠くの空に大風があるのだという
貨物船が遭難したという

昨日
姉からメールがきた

兄は土曜日に退院するのだという
遠くの人たちは

傍にいる

そう
感じる

寝息が聴こえる

彼は私たちの隣に住んでいる *

 

 

*twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life